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日本へ

「千鶴ちゃん、あまり身を乗り出さないでくれ。」

走行列車の窓から千鶴子は顔を出し景色を楽しんでいる。

「ごめんなさい。だってこんな森林や農園初めてですから。」

「千鶴ちゃんの生まれはどこなんだ?」

「分からないのです。物心がついた頃には両親はおりませんでしたから。」

千鶴子は1才の時に両親を事故で亡くしている。母親との記憶はない。着物姿でまだ赤ん坊の千鶴子を抱く母の写真だけが唯一の母との思い出の品だ。気づけば東京の孤児院にいた。千鶴子は必死に勉強して特待生で女学校に入学した。しかし3年前16才の時孤児院の決まりで院を出た。孤児で身寄りのいない彼女を雇ってくれるところはなく女学校は中退し1人上海にやって来た。芳子と出会ったのも上海だ。

「お兄様、本当に良かったのですか?私なんかが着いてきて。」

「千鶴ちゃんは秘書なんだから僕といるのは当然だろう。」

芳子が松本を訪れたのは演説をするためだ。しかし芳子が同行をお願いしたのは別の理由だ。 

「僕の家族も君に会いたがってるよ。」

千鶴子を川島家の家族に紹介したかったのだ。

 



 列車が駅に着いた時にはすでに川島家の馬車が駅で待機していた。川島邸は馬車に10分ほど走った場所である。屋敷に着くと御者の手を借りて降りる。

「お嬢さん」

芳子が降りると御者に手を差し伸べられる。

「ありがとう。」 

馬車を降りると芳子が制服姿の少女二人と話している。1人は眼鏡に髪を2つ縛った少女でもう1人は赤いカチューシャをつけた少女だ。

「お兄様。」

千鶴子が声をかける。

「あの、廉子さん以外にも妹がいたのですか?」

赤いカチューシャの少女が尋ねる。ちなみに廉子というのは眼鏡の少女だ。

「ちょっと華さん、川島家の姉妹は私とお姉様だけだわ。」

「あら、以前言ってたじゃない。」

芳子と廉子は実の川島家の娘ではない。芳子も廉子も元は中国の王朝の末裔だ。芳子の父は中国大陸を治める一国の王であった。しかし芳子が産まれた時には王朝は滅亡していた。復活のため日本人の力を必要として親友であった浪速に芳子を託した。ちなみに廉子は芳子の兄の娘で血統で言えば二人は叔母と姪である。ちなみに華もその事実を知っている。華は千鶴子の事を血の繋がった実の妹だと思ったのか。

「いえ、違います。」

(違う?まさか?!)

千鶴子の答えに華は一瞬顔を曇らせる。

「私はお兄様、いえ川島の秘書です。私家族がいないので自分の事は本当の兄だと思っていいと言われましたのでそう呼んでるだけです。」

「なんだ、良かった。」

華はほっとした表情を浮かべ小声で呟く。

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