華の狂言
「華ちゃん、落ち着いたか?」
芳子は華を座らせ水を飲ませる。
「ゆっくりでいい。何があったか話してくれないか?」
華はゆっくり頷く。
「私と千鶴子さんを乗せた馬車は川島家に向かってました。その道中うちの御者が襲撃を受け馬車の中に見知らぬ男達が入ってきました。男達は私達に鉄砲を向けてきました。山奥まで馬車を走らせると私達に鉄砲を突き付けて降りるように命令してきました。私達は怖くて言う通りにしました。」
華はありもしない作り話を泣きの演技で芳子に語る。
「私も千鶴子さんも両腕を捕まれて連れて行かれそうになりました。湖の畔に着いて大きな袋に入れられそうになって私は必死に叫んで千鶴子さんの手を取って逃げようとしました。だけど千鶴子さんだけが転倒してしまい。」
華は芳子の袖に泣き付く。
「君だけが逃げきったという訳か?」
華は頷く。
「見捨てるつもりはなかったんです。だけど怖くて無我夢中でここまで走ってきたのです。」
「お義姉様、華さんを責めないで下さい。」
廉子は華の話を信じたようだ。
(廉子さんったら。こんな話嘘に決まってるじゃない。簡単に信じちゃうなんて廉子さんも芳子様も単純ね。)
「華ちゃん、顔を挙げて。」
芳子が優しく声をかかけた時
「芳子様」
女中がやってきた。
「お客様です。」
「誰なんだ?こんな時に。帰ってもらってくれ。」
「あの、私が代わりに出ます。」
廉子が芳子の代わりに玄関へ向かう。
「?!」
廉子が来客を見て驚いている。
「お義姉様!!」
廉子が来客を連れ再び戻ってくる。地元の猟師だ。
「廉子、わるいが帰ってもらえ。」
しかし猟師は襖の影から女の子を連れて来る。
「千鶴ちゃん?!」
襖の影から出てきたのは山賊に拐われたはずの千鶴子だった。今朝着ていたチャイナドレスではなく麻の着物を着ている。猟師が泉の畔で倒れていた千鶴子を保護してくれたのだ。
「千鶴ちゃん、無事だったのか?」
千鶴子は一度だけ首を縦に振る。
「良かった。千鶴ちゃんを失うところだった。君が山賊に拐われたって華ちゃんが。」
「山賊?」
千鶴子は首を傾げる。
「芳子さん、山賊なんてあの森にはいませんよ。」
猟師が割って入る。
「そうですよ。あの辺りに山賊なんて聞いた事ありません。」
廉子も加わる。
「お兄様。」
今までずっと黙っていた千鶴子が口を開く。
「私は華さんに湖に突き飛ばされました。」
「何だって?」
「私を邪魔に思った華さんは私を消そうとしたんです。高石に私への暴行を指示したのも彼女です。」