華の陰謀
芳子が千鶴子を連れて川島家にやって来た時華が部屋にいる二人にお茶を持っていた。その時に聞いてしまったのだ。芳子が千鶴子に打ち明けてる事を。自分の妻にしたいと。
華は意気消沈して芳子と千鶴子が使った湯呑みをお勝手に持って行こうとする。
「華ちゃん。」
廊下で御者の高石とすれ違う。
「その湯呑み。」
高石は華が運んでいるトレイの湯呑みに目をやる。
(この男先ほど。いい事思い付きましたわ。)
「芳子様と千鶴子さんのですわ。こちらが千鶴子さんの湯呑みですわ。」
華は千鶴子の使った湯呑みを高石に渡す。高石は千鶴子の口紅がついた部分を舐め始める。
(どこまでも気持ち悪い男。でも利用価値はありますわ。)
「わたくしと手を組みません?好きなんでしょ?千鶴子さんのこと。あなたとなら上手くやれそうですわ。」
「ああ、好きだ。あんな色白で目がぱっちりした人形のように可憐な少女今まで見た事ない。」
「でしたらご自分の物になされては?こちらもそれなりの報酬を用意致しますわ。」
華はお茶会の招待客に千鶴子を加え女中にはわざと千鶴子の着物にお茶をこぼさせた。そして千鶴子が待機してる部屋を高石に教えた。高石はその場で楽しんでから千鶴子を拐ってどこか遠くへ逃げるつもりでいた。
「だけど見事にしくじってくれたわ。」
華は自分の家の馬車が停泊してる場所にたどり着く。
「華お嬢様、千鶴子様はどちらに?」
御者は千鶴子がいない事に気付く。
「千鶴子さんなら先に帰りましたわ。」
華は咄嗟に嘘をつく。
「わたくし達も帰りましょう。あまり遅くなるのは良くないですわ。」
外は暗くなっている。華が馬車に乗ろうとした時
「お嬢様、制服のリボンはどうされました?」
セーラー服の白いリボンがなくなってる。湖に落としたのだろう。
「猫に取られたのかしら?」
「お嬢様、猫なんてこの辺りにいました?」
「ええ、いたわよ。」
(孤児の癖に清王朝に嫁ごうなんて図々しい事考えてる泥棒猫がね。)
「そうだわ、帰る前に廉子さんのお宅に寄りたいわ。どうしても今日渡したい物がありますの。」
その頃川島家では。
「これ以上は待てない。警察に連絡しよう。」
「お義姉様、少しは落ち着いて下さい。」
帰ってこない千鶴子を心配して芳子が1人そわそわしている。
「僕より先に学校を出たんだ。帰ってないなんておかしいだろう?」
「きっと華さんのお宅でしょう。お茶会の時に借りた着物を返しに行ってお茶でも頂いてるのでは?」
「だったら今から華ちゃんの家に行ってくる。廉子、案内してくれ。」
芳子が立ち上がろうとすると
「芳子様」
女中とすれ違いになった。
「お客様がお見えです。」
「誰だ?こんな時に。」
女中の後ろにセーラー服の華が見える。髪は乱れリボンがなく胸元も開いている。
「華ちゃん?!どうしたんだ?その姿。それに千鶴ちゃんは?」
「芳子様。」
華はその場で泣き崩れ芳子にすがる。
「千鶴子さんは山賊に拐われました。」