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Seasons / シーズンズ

A: Fragments 1

 数年前に友達のJから聞いた話なんですけど。

 彼の地元に、なんかすごい有名な心霊スポットがあったらしいんですよね。なんか、山奥にある…もとはラブホテルか何かだった、って分かるような廃墟があって、そこが「ヤバい」らしい、と。まあよくある話ですね。曰くとかはまあ殺人事件があったとか、自殺があったとか、そういうありがちな話が…地元の連中の間では回っていたらしいけど、まあそれが本当か嘘かは誰も知らないっていう。そういう、本当にありがちなやつだったらしいです。


 で、J含む数人でそこに夜中に肝試しに行ったんだと。

 飲み会をしてるうちに盛り上がって「あそこ行こう!」って話になって。都合の良いことに、そのメンツの中で下戸で酒飲めない奴が車の免許を持ってたらしいんですよね。その下戸の彼も肝試しにかなり乗り気で、じゃあ俺運転するわ、って自分から言い出したみたいです。


 それで車走らせて、目的の廃墟の前の適当なところに停めて、車降りて建物の前まで行って。それで持ってきた懐中電灯で建物の入口のところ照らしたら、心霊スポットになっている廃墟にしては珍しくドアが残ってて。

 普通の心霊スポットだったら、不良の人たちに荒らされて蹴倒されてたり、ガラスがバキバキに割られてたりするじゃないですか。どんなドアかまでは詳しく聞かなかったんですけど、とにかく「扉としての形」を保ってたらしいんですよね。

 そこに、何か張り紙みたいなものが貼ってある。

 なんだろう?と思って近づいてみたら、それは今さっき張ったばっかり、みたいな、不自然なぐらい綺麗な紙だったらしくて。そこに


 入ってもいいけど

 中にいる人たちを

 おこさないでください


 って油性のマジックの、震えた字で書いてあったと。


 書いてある言葉の意味のわからなさと状況の異様さに震えあがって、そのまま全員、廃墟には入らないで逃げ帰ったらしいです。


 Jがこの話してくれたときに、「今でも一言一句、どの字がひらがなでどの字が漢字だったのかまでちゃんと覚えてる」とか、「未だに夜中とかにその字を思い出すと震えがくる」とまで言ってたから、すげえ怖かったんでしょうね…普段はかなり度胸のある奴なんで、それがあそこまで怖がるって相当ですよ。


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 私、趣味でトレッキングをやってるんですけど。甲信越のうちのどこかの…ちょっと明確な名前は伏せさせてもらうんですけど、ある山に歩きに行ったんですよ。五年ぐらい前だったかな。

 結構、林道から外れるとすぐ…こう、山!みたいな感じのところで。油断したら遭難する可能性も全然あり得るから絶対にコースから外れないようにしよう、と思って、結構注意深く歩いてたんです。


 一時間半ぐらい歩いたところで、少し先の方、道の脇に看板が見えて。…もうその時点でおかしいんですよね。そんな中途半端なところ、山間部のど真ん中みたいなところに看板なんか設置するはずがない。うわ、あれ何だろうと思って近づいてみたら。


 それは経年劣化で黒ずんだ木の板で、いつから置いてあるかもわからない感じ。そこに黒い…ちょっと崩れた筆文字で、


 うまくいったね


 って書いてあったんです。


 もう全然意味わかんなくて。言葉の意味も、その看板がそこにある意味も。

 思わず立ち止まって三十秒ぐらい見てみたんですけど、その言葉以外には何も書いてありませんでした。それで看板を見ているうちに、その意味の分からなさがどんどん怖くなってきて、急いでその場から離れました。一瞬このまま後ろに戻ろうかな、と思ったんですけど、ルート的にはその道を通って向こう側にある国道に出て、そこを通ってるバスに乗って麓に降りる予定だったんで、そのまま前に進むことにしました。

 このとき、想定していた時間よりもかなり早く山を抜けて国道に出たことをやけに覚えてます。看板を見て以降、怖さで早足になってたんでしょうね。


 なんか後から考えれば考えるほど怖くて、そこにはそれ以降一回も行ってないですね。トレッキング仲間の友達にこの話をしたことがあるんですけど、彼はその山を歩いたことがあるけど看板は見たことないような気がする、と言ってました。

 まあ「俺が気付かなかっただけかもしれない」とも言ってましたけど…でもあの大きさの看板を気付かないってことあるのかなあ。それともルートが違ったのかな…。


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 高校の時に知り合った、Nって友達がいるんです。入学してすぐのときに、俺が通学カバンに付けてたゲームのキーホルダーを見てそれ俺も好きなんだよ!って向こうから声かけてくれて、そのまま意気投合して仲良くなった奴で。

 高校一年の時の夏休みに、初めてNの家に遊びに行くことになったんです。同じ町に住んでたんですけど、俺はあんまり行ったことない区画で。なので、案内してもらいながらNの家まで行ったんですけど。


 そしたら、途中、道の脇の電柱になんか…紙が貼ってあって。なんだろう?と思って見に行ったら、…ワードで打った文字をそのまま印刷したみたいな、雑な張り紙で。真っ白な紙に、黒の細い明朝体で、…こう、縦書きで


 申し訳ありませんでした


 とだけ書いてあって。


 その場ではなんだろうね?気持ち悪いね、ってなっただけで終わったんですけど。


 その数日後に、地元のデパートでNとばったり会ったんですけど、その時にすっごい暗い顔で話しかけてきて。

「あそこで人が死んでる」

 って。


 Nが言うには、晩ご飯を食べてるときに例の張り紙のことを急に思い出して、何の気なしに話してみたらしいんですよ。そしたら、Nのお父さんが

「え、あそこってなんか事故が起こってなかったか?」

 って言い出して。そしたらNのお母さんがそこで起こった事故、というかその電柱のことをよく覚えてたみたいで。なんでも、…本当にその場に行ったから分かるんですけど、本当に何でもない電柱なんですよ。凄い邪魔なところにある、とか、偏に視界を遮ってる、ってのは全然なくて。

 でも、なぜかそこで事故が何回も起きている。しかも全部、自動車がその電柱に突っ込む形の事故。酷いときは死者が出るような事故にもなったらしくて。実際、Nのお母さんはそこに花が手向けられているのも何回か見たことがあるそうで。

 その事故は全部、Nが生まれる前ぐらいの話なので、俺らが知らないのは無理がないだろう、ってNのお母さんは言ってたみたいです。


 その場では「嫌な悪戯をする奴がいたもんだねえ」って感じで話がまとまったらしいんですけど、実際に張り紙を見た俺らは…まあ…それで済まないぐらいには気持ち悪いですよね。

 Nは「もしまた張り紙が貼られてたらどうしよう…」って怖くなっちゃったみたいで、それ以降はその電柱のある場所を通らないように遠回りしてたみたいです。俺もNの家に行くときは絶対にそこを通らないルートで行ってましたね。


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 小学二年生ぐらいの頃に、一回だけ行った病院があって。

 …何で行ったのかは覚えてないんですけど、少なくとも自分の病気とかじゃなかったんですよね…多分、親のかかりつけの…目医者さんかなんかだったと思うんですけど。


 親が診断を受けている間、暇だったんで待合室に置かれてる本をいろいろ見てたんです。ただ、子供向けの本がどれも小二が読むにはちょっと子供っぽ過ぎるというか…幼児向けの絵本とかゲームブックとかばっかりだったんですよね。だからあんまり面白くねえな、ってなって。

 それで、全然興味のない大人向けの本を手に取ったんです。まあ…少しでも暇つぶしになればと思って。何の本かは忘れちゃったけど…待ち時間に軽く読めるような、コラムを集めた本か何かだと思うんですけど。


 パッ、って本を開いたら、たまたま開いたページに、一目見てわかるぐらいにはっきりと大きな落書きがしてあるんですよ。なんか…ページ一杯にこう…図形みたいなのが。えっとねえ…ああそうだ、星座。星座みたいな感じのものが描かれてたんです。

 ええ~?って思って。だって病院の待合室に置かれてる本ですよ。図書館の本とかならまだしも、こんな待合室に置かれてる本でこんな落書きする人いる?ってなって。普通に考えて、受付の看護師さんもいるし、それに…目医者さんかなんかだったから、一人当たりの診察時間が長いこともあって結構混んでるんですよ。現に、その時も待合室には結構人がいて。そんな中でこんな派手に落書きなんてできるか?ってすごい疑問だったんですよね。


 で、その落書きをよく見てみたら、ページの本文の中にある文字を丸で囲んで、それを線で繋いであることに気付いたんです。え、じゃあこれ繋がれている文字を順に追っていったら言葉かなんかになってるのかな?と思って、視点を探してそこから順に文字を追っていったんです。そしたら、


 あ


 な


 た


 し


 か


 い


 な


 そこで猛烈に怖くなって、速攻で本を閉じて本棚に戻しました。いや、「いな」の先はもう「い」しかないじゃん…っていう…子供ながら直感で、この先は絶対よくないことになると思って。


 もう…そこからずっと怖くて。親が診察室から戻ってきた後も、帰り道もずーっと嫌な気持ちで。だけどこんなの親にも言えないというか…言ってもどうしようもないじゃないですか。親に相談したところでなんか解決する話じゃないし。その日の夜は文字が線で繋がれてる様が頭に過ぎって、なかなか寝付けなかったのも覚えてます。

 あの病院にはもう二度と行かなかったんで、本も病院もその後どうなったかもわからないですね。…というか、もう二度と行かなかったのって、もしかして親も病院変えたのかなあ。…なんだったんだろうな、あれ。

Special Thanks: サミダレシノ

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