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ケダモノ達の謝肉祭

   ep.6-1 ケダモノ達の謝肉祭


「––––【選書(ブック):千枚皮の外套】」

『やれやれ。我が子孫ながら……』

「……幻滅なさいまして?」

『いいや?さすがは私の子孫だと感心していたところさ。特に、誰かのためなら迷わずに飛び出してしまうところなんかはね』

「褒め言葉と受け取っておきますわ」

 テラーの協力のもと、身隠しの魔術で見張りを出し抜いたシャトーは、街の東門付近におりました。

『何にせよ急ぐのだろう?今回は私が(リーフ)を用意してあるけれど、あまり多くはない。使いどころに気を付けたまえ』

「心得ましたわ」

『よし。では、これは私からの贈り物(ギフト)だ。【カボチャの戦車パンプキン・チャリオット】』

 テラーの声に従って目の前に現れたのは、縦に二輪のタイヤの並んだ、スポーティーなレーサータイプの………………オートバイ??

「……えぇと、縦二輪の、戦車?……まるで、木馬のような形ですけれど。これに、(またが)れば、よろしいんですの?」

『おっと失礼。淑女(レディ)が乗るには少々はしたなかったね。では改めて』

 若干戸惑ったようなシャトーの声に、テラ―が改めて召喚したのは、三角の踏み板を備えた二頭立ての戦車(チャリオット)でございました。

「……では、参りましょう。いざ、パドキへ!」

 決意も新たに戦車に乗り込んだシャトーは、街道の先を見据えて手綱を打つのでございました。


 ––––––––––––


「––––っ!フェルネット様!見えてきました、街の門です!」

「うん!……もう、逃げ出してる人たちもいるみたい。十一号さん!あんまり刺激しないように少し離れたところで止まって!」

「イエッス!マイ・クイーン!」

「もうっ!それ、やめてってば!」

 サソリ十一号の背に揺られたフェルネットは、夜通しかけてようやく街の南門が見える所まで差し掛かっておりました、が––––

「おい、門番!早く通してくれ!街の中にモンスターが溢れだしてきてるんだよ!」

「早く!早くしてちょうだい!このままじゃ、モンスター達に食べられちゃうわ!」

「ちくしょう!なんだってこんなことになってるんだ!ギルドは何をやって––––」

「おい、ちょっと待て!……あれ、なんだ?」

「南の……沙漠の方から何か来る!」

「あ、あれは……ス、ス、サソリ人間(スコーピオンマン)だぁぁっ!」

「「「っっっ!!!」」」

 ––––猛然と駆けてくるサソリ十一号の姿に、ただでさえ混乱していた門前は、輪をかけて混乱に陥り、蜂の巣をつついたような騒ぎとなってしまったのでございます。


「……あ、ヤバ。みんなパ二くっちゃってる」

「お任せください、フェルネット様!……すうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 図らずも余計な混乱を招いてしまい、顔を引きつらせるフェルネットに、ドンと胸を叩いたサソリ十一号は、大きく息を吸うと……

「みなっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!安心してください!わたくしは悪いサソリ人間(スコーピオンマン)ではありませんよぉぉぉぉぉぉっ!はいっ、ちゅーもーく!」

 ムキッ!とポージングを決めて、大声で定型(テンプレ)の無害宣言をするのでございました。

「みなさん!(ムキッ!)只今、この街は(ムキムキッ!)非常に危険な状態になっております!なので(モリィッ!)、慌てず急がずすみやかに!(モリモリッ!)ここより西!パンジョ村へと避難してくだっさぁぁぁぁぁぁい!(ビシィィッ!)」

 そうして人々の注目を集めると、言葉の一節ごとにポージングを決め、どこかのマッスル天気予報のように避難を促すのでございました。


「––––門番さん!ごめんなさい、このヒト協力者で、味方です!」

 サソリ十一号の背から飛び降りたフェルネットが駆け寄ると、警戒感を露わにしていた中年の門番が、訝しげに眉を上げてフェルネットに目を向けます。

「あんたら一体……いや、あんたは確か……」

「はい。冒険者のフェルネット=パジェスです!お師匠様––––えっと、エレシュ=バラクからの伝言で……」

 自らの冒険者登録証を示して身分を明らかにしたフェルネットは、師の名前を持ち出して、現状––––悪意ある何某かがETDのモンスターを放出していること、これらのモンスターは強化付与が施されており、ギルドや教会の結界は用をなさないことなど––––を説明して、速やかな住民の退去を促したのでございます。

「……うむ、む。それは分ったが、まだ逃げ遅れてる人達が大勢いる。それに、強化されたモンスターが押し寄せてきたら、我々では対処しきれんぞ」

「街の中には、アタシが行きます。仲間が––––他にも戦ってる人がいるはずだから。それと、ここの防衛はこのサソリ人間(ヒト)にお願いしてあります」

「お任せください!拠点防衛といえば我らサソリ人間(スコーピオンマン)のお家芸!なぁ~に、強化されたモンスターなど、一匹たりとも通しはしません!」

 表情を曇らせて懸念を口にする門番に、サソリ十一号の肩に手を置きながらフェルネットが言うと、その信託に応えんとする十一号は、ドン!と頼もし気に胸を叩き……

「だから、門番さんはみんなの誘導、お願いします!––––【雷よ(バラク) 集まれ(マジュムーア) 我が足に(カダム)】!」

 そう言い残すと、フェルネットは自らの足に(いかづち)を纏わせ、瞬く間に街の中へと駆けだして行き……

「あっ、おい!……もう行っちまった。………………(チラッ)」

「…………………………………………(ニッ)」

 置き去りにされた門番が恐る恐る顔を上げると、彼と目が合ったサソリ十一号は、無言のままアルカイックスマイルで応えるのでございました。


 そうして、時は一刻ほど遡り––––


「––––何よこれ!一体どうなってんの⁉」

 外の騒ぎに宿を飛び出した私達は、中央広場に差し掛かるなり我が目を疑った。

 スライムやゴブリン、それどころか、豚鬼(オーク)のような大型のモンスターが、群れを成して街の人達を襲っていた。

 着ていた服をビリビリと破られ、押し倒される女の子。スライムに足を搦めとられて必死に助けを求める少年。よく見ると、モンスター達は街の人達を殺したり食べようとしているんじゃなくて––––無差別に、犯そうと、している⁉

「まさか、こいつら……エロモンスター⁉」

「そんな……こんなに、たくさん……」

「God Damn!こうなりゃ片っ端からやるしかねぇ!一人でも多く助けるんだ!」

 驚愕に固まりかける私とエリュシアに、テッドが声を張り上げる。

 そうだ。ボーっとしてる場合じゃない!幸いにもギルドはこの広場に面している。すぐにでも他の冒険者が参戦してくれるだろう!

 気を取り直した私達は、近くで女の子に群がっているゴブリンに斬りかかった。


「––––大丈夫?立てる?」

「……ぅ、ぁ……ぇ……?」

 五~六匹からのゴブリンを斬り伏せ、女の子に声をかける。

 ショックで呆然としていたその子は、助け起こされると震えながらコクコクと小さく頷く。幸い、大したケガもしてないみたい。

「ごめん、動けるなら逃げて!早く!」

「っ!う、うん。……ありが、とう」

 顔色を青くさせながらお礼を言った女の子が、服を破かれて露わになった肌を隠す余裕もなく、よろめくようにして駆けだすのをちらりと見て、前に向き直る。

 悪いけど、庇いながら戦える状況じゃない。北の大通り(メインストリート)からは、まだまだうじゃうじゃと湧き出るようにモンスターが押し寄せてきている!

「こんなの、一匹ずつ相手にしてらんない!こうなったら……まとめて、ぶっ飛ばす!プリフィ––––」

「待ってください、お姉さま!」

「––––って、なに⁉エリュシア!」

「まだどれだけの敵がいるのか分らないんです!お姉さまの浄化(ソレ)は温存していてください!ここは––––私がやります!」

 そう言うと、エリュシアは私の前に進み出て、左手に握った短杖(ワンド)を真っ直ぐ前に突き出した。

「目覚めよ、純潔の月乙女(アルテミス)!不浄を許さぬその大弓以て穢れし者を穿て!––––【狩り月夜(ハンティング・ムーン)】!」

 エリュシアが呪文を唱えると、短杖の両端から延びた銀の光が大きな弓の形を描き、(つが)えられた銀光の矢は、放たれるなり幾条もの光矢に分かれ、モンスター目がけて殺到した。

「エリュシア。あんた、それ……」

「不浄な者だけに反応する、自動追尾(エイミング)機能付きの光矢です!」

 バタバタと、刈られた麦のように倒れるモンスターの群れ。

 そして、それを確認してえっへん!と胸を張るエリュシアだったけど……

「あっひいぃぃぃっ!」と声がして、そちらを見ると、流れ矢がお尻に刺さったおじさんが悶絶していた。

「………………………………不浄な者?」

「……えっと……ヒトが抱く程度の、不浄、なら?大した、ことは、ない、かと?」

 私がおじさんを指差して半眼を送ると、エリュシアは目を泳がせて言い訳を始め……

「じゃなくって。被害に遭ってたおじさんも不浄扱いするの?って言ってるんだけど」

「––––ごめんなさいっ!」

 更に私がジト目で詰め寄ると、エリュシアは勢いよく頭を下げた。そして––––

「それよりもお前ら。今のうちに街の人達を助けるぞ!」

「あ、うん。分かった!」

「はいっ!」

 おふざけ(コント)もほどほどにしろ、とばかりにかけられたテッドの声に応えて、私達は急いで広場に倒れている人達の救助に向かった。


 ––––––––––––


「––––動ける人は早く逃げて!他のモンスターが寄ってくる前に!」

「に、逃げろったって一体どこに?」

「モンスターは北から来てるみたいだ!だから、とりあえずは南へ!南へ向かってくれ!」

「お、おじさん、大丈夫ですか?」

「……ああっ!こんな俺なんかにまで優しい言葉を!聞いてくれ!今までの俺は人を騙したりスリを働いたり……今にして思えばなんて罪深いことを!」

 私達が広場の人達に避難を呼びかけていると、さっきの流れ矢が刺さったおじさんがエリュシアの手を取って懺悔し始めた!すごい効果というかなんというか……

「あ、あのあのっ!そういうのは後で教会にでも行ってくださいぃ!今は早く避難をですね⁉」

 そうして、困り果てたような顔でエリュシアが叫んでいると……

「おい!次が来るぞ!」と、テッドの鋭い声が飛ぶ。

「みんな早く!走れない人はギルドか教会に––––」

『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 モンスターが入ってこれないように結界の張ってある、ギルドか教会に非難するように呼びかけようとしたとき、よりにもよってギルドの中から(、、、、、、、)その悲鳴は聞こえてきた。

「っ!今の声……カティ⁉」

 まさか……結界が破られた?ウソでしょ⁉

「ルビィ、エリュシア、行ってくれ!何があったか確認してくるんだ!ここは……俺が守る!」

「ちょっ!ムチャ言わないで!あんた一人で何ができるってのよ!」

「おいおい、ちょっとは格好つけさせてくれよ。それに……」

 そう言ってテッドは、手にした大楯をガツリ!と地面に打ち付ける。

 すると、盾の縁が剝がれてその下からは鋭い刃が現れ、盾本体も中央から二つに分かれて……その形は、まるで二つの巨大なダガーのようだった。

「俺の盾は、守るだけじゃないんだぜ?」

 キラッ☆と白い歯をのぞかせて決め顔のテッド。けど、物理職一人で次から次へと湧き出てくるような物量相手に対抗するなんて!

 私が次の行動を決めあぐねていると横合いから、「よく吠えたよ、小娘!」と言う声が。

 声のした方、西の大通り(メインストリート)を見ると、ドン!ドン!と力強い足音とともに一人の人物が現れる。

「近所の……農家のおばちゃん⁉」

 節くれだった手で肩にクワを担いだその人は、街外れの畑で野菜を育てているおばちゃんだった。

「あたしが助太刀してやる!存分に戦いな、小娘ぇ!」

「ちょ、危ないっておばちゃん!早く非難し––––」

 引き留めようとする私を振り切るように北の大通り(メインストリート)に駆け込んだおばちゃんは、手にしたクワを高々と振り上げて––––

「うおぉぉぉぉ!地斬衝破(アース・ブレイカー)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「っっ‼えええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ⁉⁉⁉」」

 天高く掲げられたクワが眩い光を放ち、地面を耕すように振り下ろされた途端、轟音とともに通りを埋め尽くすほどの衝撃波が迸り、掘り返される地面ごとモンスターを次々に吞み込んでいった。

 そして、驚愕の叫びをハモらせる私とエリュシアをちらりと見やったおばちゃんは、「これでも若い頃は冒険者だったんだ。それに、エロモンスター(あいつら)には随分とこの身体を耕されちまったからねぇ。今度はあたしが!奴らを細切れになるまで耕してやるよぉっ!」と言って、更にクワをもうひと振りするのだった。

「行きな、お嬢ちゃんたち!ここはあたしとこの小娘が引き受ける!」

 思わず啞然としていた私達だったけど、おばちゃんの一喝で我に返る。

「……じゃあ、行こっかエリュシア」

「はい……ギルドで何が起こっているかの確認も、大事です、からね」

 遅まきながらも駆けだした私達の背後では……

「……あれ?おい、俺の活躍は⁉」

「ああ、いくらでも暴れさせてやるよ!ほら、ボサッとしてんじゃないよ小娘!そのご大層な得物は飾りじゃないんだろう?」

「……ちっくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼」

 見せ場を奪われたテッドの、悲痛な叫びが木霊していた。


「––––カティ!」

 黒檀の大扉を押し開け、ギルドに飛び込んだ私達の目に映ったもの。それは––––

 数え切れないほどの触手が蠢き、白濁にまみれて倒れ伏す何人もの冒険者たち。

 そして、ツンとすえた匂いが漂う淀んだ空気の中、メチャクチャに荒らされたカウンターの向こうで。

「いや!いやぁぁぁっ!止めてくだサイ!だ、誰か……ひっ!そこ……そこはダメェ!助けテ!誰か!誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 悪夢から逃れんとするかのように足をばたつかせ、ギルドの制服をビリビリに破かれ、触手に絡みつかれて宙吊りにされたカティの姿があった。

 露わになった肌を隠すことも許されず、とめどなく大粒の涙をこぼすカティ。更にその足にも汚らしい粘液を滴らせる触手が這い寄り、無理矢理に足を広げられる。

 泣き叫ぶカティを嬲るように、男の人のアレ(、、)にも似たグロテスクな触手が、彼女の大事な(オンナノコの)部分に狙いを定めるように持ち上がるのを見て、私はためらうことなく飛び込んだ。


「––––ぁあっ!【Purifi(プリフィ)caciōn(カシオン)】‼」


 私の身体から吹き上がる白金の炎が、そこかしこに蔓延る触手を洗い流すように迸る。

 間髪入れずに走り出していた私は素早くアレに似た触手を切り落とし、続けてカティを捕えていた触手もまとめて斬りはらう。

「きゃんっ!」

 ドスン!と尻餅をついて床に落ちたカティを抱きとめると、まだ事態が呑み込めていない様子の彼女と目を合わせる。

「ごめん、カティ。ちょっと遅くなっちゃったね」

「………………ル、ビィ……?」

 落ち着かせるように、優しく背中をさすりながら声を掛けると、私の顔を見て安心したのか、カティの目にはまたも大粒の涙が浮かぶ。

「……––––ルビィ……こ、怖、かった……怖かったよぉ!うわあああああああああああっ!」

 ついには大きな声で泣き出してしまうカティ。無理もない。この子はあくまで受付嬢、戦いなんてできる子じゃないんだもの。

「うん。大丈夫。もう大丈夫だからね。……あー、でも、毛布(ブランケット)かなんかあれば良かったんだけど、急いで出てきたから掛けてあげるもの、持ってないや。ごめんね?」

 カティの金の髪を梳くように撫でながらそう言うと、彼女はようやく顔を上げて、小さく笑みを浮かべる。

「……ううん。ルビィが、助けに来てくれて……嬉しかった、デス。……でも、まだやらなくちゃいけないことが––––っ!そうダ!顔役が!」

「顔役?あのおじさまがどうかしたの?」

 ショックも大きかったはずなのに、けなげにもギルドの仕事を全うしようとしたカティは、そこでハッとした様子でカウンター奥の扉に目を向ける。

 ここのギルドの顔役といったら、そこそこナイスミドルなシブ中のおじさまだ。

「––––け、結界が破られそうになったときに、『責任者は最後までギルドに残る権利がある』って言って、奥の部屋に……」

「それってどこの艦長⁉……あーもうっ!ちょっと見てくるわ。エリュシア!」

「はぁい!今行きます!」

 どうやら、無駄にカッコいいことを言って奥に引っ込んでしまったらしい顔役の様子を見るため、そこらで倒れていた冒険者やらを治療していたエリュシアを連れて、私達は奥の部屋へと向かった。


「……いい?開けるわよ」

「はい」

 カウンターの棚から見つけた毛布(ブランケット)に包まったカティは少し休ませて、私達は奥の部屋に通じる扉の前にいた。

 小声でエリュシアと言葉を交わしてドアノブに手をかける。壁越しに浄化の炎が届いていたのかは分からない。緊張から、じわりと汗の滲む手でノブを回し、そっと扉を開く。

 細く開かれた隙間から覗き込む、私達の目に映った光景(もの)。それは––––

『ダメェェェッ♡らめらめそこはらめなのぉぉぉっ♡んっほおおおおおおっ♡♡し、知らないっ!こんなの、ワシ、しらにゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♡あっへえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ♡♡♡』

「「………………………………うわあ……」」

 ……残念ながら、顔役はM・S・O・Tしてしまったようだ。

 あ~あ。せっかくいい感じのイケおじだと思ってたのに。おお顔役よ、メスオチてしまうとは情けない……

 とはいえ、このまま放っておくわけにもいかないし……

「……エリュシア、やっちゃって」

「はい。……えっと、【狩り月夜(ハンティング・ムーン)】……?」

 戸惑いがちに戸口の隙間から撃ち込まれた光の矢が、部屋の中で蠢く触手の群れと顔役を射貫く。

 部屋中にはびこっていた触手が消し飛び、胸元を射貫かれた顔役は、ややあってから我に返ったみたい。

 けれど、たぐり寄せた服で胸元を隠して女の子座りでたたずむその姿に、元に戻るのは時間がかかりそうだなぁ、と思えた。

 今はただ、そっとしておいてあげよう。……変な道に目覚めないことを祈って。


「––––あ、ルビィ。顔役は、大丈夫デシたか?」

「あー……今は、そっとしといてあげて……」

 座り込んでいたカティのもとへ戻ると、彼女は私を見上げて心配そうに訊いてくる。

 けれど、顔役(かれ)の面子とか、自分の上司があんな(、、、)ことになってるなんて聞いたら、カティ(このこ)も嫌だろうなぁ、とか思うと、あいまいな笑みを浮かべてごまかすことしかできない私なのだった。


ギルド(ここ)はとりあえず大丈夫そうね。––––カティ。悪いけど私達は広場に戻るわ。テッドとおばちゃんが食い止めてくれてるけど、さすがに二人じゃキツイだろうしね」

「……おばちゃん、デスか?」

「そ。農家のおばちゃん。なんか、昔は冒険者だったらしくて、もの凄く強かったよ」

「––––っ!そ、それって、まさか……腐人会⁉」

「ふじんかい?」

 ––––カティの説明によると、腐人会(ふじんかい)というのはエロトラップダンジョンOG会の別称で、かつてETDに挑んだものの処クリ叶わず花を散らされ、それでもなおダンジョンに挑み続けて最下層踏破を成し遂げた人達の集まりだという。

 我が身を穢されたということで、自虐的に『()人会』だなんていってるけど、裏を返せば最深部のモンスターとも互角以上に渡り合ってきた人達なわけで。

 そんな彼女たちは普段は一市民としてこの街に暮らし、今回のような壊滅的有事に備えているのだという。……そりゃあ強いわけよね、あのおばちゃんも。

「たしか、今現在街に在籍されている腐人会メンバーは十人にも満たないはずデス。けれど、彼女達が出てきてくれたのなら……––––っ!ルビィ!」

「な、なに⁉」

「教会へ行ってくだサイ!さっきから伝声管(コール)が繋がらないんデス!教主様も腐人会メンバーなんですケド、避難した人達をかばって満足に戦えないのカモ!」

「うん、分かった!行こう、エリュシア!」

「はい!あ、結界張っておきますね。お姉さまの浄化も残ってるので、しばらくは大丈夫だと思いますから」

 エリュシアが結界を張り終わるのを待って、私達は教会に向けて駆けだした。教会といえば広場を挟んで反対側だ。テッド達の様子も確認できるし、なにより教主さんもあのメチャクチャ強いおばちゃんと同じ腐人会メンバーだという。戦列に参加してくれるなら心強い!


 ––––––––––––


 ––––一方、広場では。

「ああくそっ!こうなりゃヤケだ!V(ヴイ)-スラァァァァァァァッシュ!」

 広場の防衛を請け負ったテッドが、二つに分かれた盾の先端どうしを合わせ、V字に構えたまま悪態をつきながら、通りを押し寄せてくるモンスターに吶喊をしておりました。

「おうおう!中々いい突っ込みっぷりじゃないか!後ろはあたしが持ってやるから、気にせず暴れなぁ!」

 そして、通りの入り口に構えて討ち漏らしに衝撃波を放つのは、元冒険者にして腐人会メンバー、近所のおばちゃんことドワーフのコクヨウその人でございました。

「うっせぇよ!あんたじゃなくて、あいつに見せなきゃ意味が––––って、邪魔だデカブツ!X(イク)-シザース!」

 次いで眼前に現れた豚鬼(オーク)に、大きく両腕を交差させたテッドは、勢いよく左右に振り抜いた盾で、(はさみ)のように豚鬼(オーク)の首を刈り飛ばし––––

「ま、だ、まだぁ!フライング-T-血華風車(ムーラン・ルージュ)!」

 両腕に装備した、刃を備えた盾。その片方を素早く半回転させ、左右に開いた腕を風車の羽根に見立てて、独楽(コマ)のように回転しながら周囲の敵を切り刻むのでございました。

「よし。……一旦戻りな、小娘ぇ!デカいのブチ込むよ!」

「はいはい……よっと!てか、なんであんたが仕切ってんだよ!」

 機を見て張り上げられるコクヨウの声に、不満を滲ませるテッドは敵先陣の足元をひと薙ぎ。敵の体勢を崩して進撃を遅らせると、石畳を蹴りつけて駆け戻ってまいります。

「これも年の功ってやつさ。ほれ、これでも食べて息を整えときな!」

「なんだ、リンゴか?それじゃあまぁ、ありがたく……んん?」

 コクヨウが放って寄越した小振りな青りんごを、すれ違いざまに受け取ったテッドが、りんごを(かじ)るなり目を丸くして驚きの表情を浮かべます。

「疲れが取れて……力が湧いてくる!おばちゃん、なんだよこのリンゴは!」

「驚いたかい?ウチの畑でとれたリンゴさ。絞ってジュースにしただけで強壮薬(スタミナポーション)になるってんで、結構人気があるんだよ」

 見る間に回復してゆく体力に驚くテッドの問いに、いたずらを成功させた子供のような茶目っ気をのぞかせて片目を閉じ、豪快な笑みを浮かべて答えるコクヨウなのでございました。


「––––にしても、ルビィ達はまだ出て来ねえのか?一体ギルドで何が……」

 頂いたリンゴで体力を回復し、ひと心地をついたテッドがぼやき交じりの言葉を落とすころ。

「あ、いた!テッド!」

 勢いよくギルドの扉を開けて飛び出してきたルビィが大声で呼びかけてまいります。

「ルビィ!ギルドの方は大丈夫だったのか?だったら––––」

「ごめん!ギルドはもう大丈夫だと思うんだけど、教会と連絡が取れないから見てきてって言われてるの!だから、もうちょっと二人で頑張ってー!」

「って、おい!」

 これでルビィに格好のいいところを見せられる!……そんなテッドの気持など気付く(よし)もないルビィは、そのまま広場を横切って教会へと向かってしまうのでございました。


 ––––––––––––


「いい?開けるわよ、エリュシア。……さっきみたいになってるかもしれないから気を付けて」

「……はい」

 教会の前まで到着した私達は、緊張の面持ちで扉の前に立っていた。

 扉を開けた途端、さっきのギルドみたいにモンスターだらけということも考えられるので、エリュシアは私の後ろで魔術をスタンバイしている。

 そして、いざ扉に手を掛けようとしたとき、キイ、という微かな軋みを上げて、内側から扉が開かれた。

「––––あら。冒険者の方かしら」

 中から出てきたのは、真っ白なローブに、銀の縁取りの入った真っ白なケープを纏った、どこかおっとりとした印象の女の人。

 その装いは、教会の中でも上位に位置する聖光術士(ホーリーメイデン)、いわゆる聖女と呼ばれる人のものだ。けれど––––

「……あ、あの、教主さん、ですか?」

「はい。当教会を預からせていただいております、ローザ=フロレンスと申します」

 穏やかな笑みを浮かべるその人が身に着けているローブもケープも、返り血と思われる赤黒い汚れがべったりと付いていた。

 そして彼女の手には、今もボタボタと何ともいえない色合いの……血?体液?を滴らせる、拳大のトゲトゲ付き鉄球をいくつも連ねた、凶悪な形の鈍器?が提げられていた。

「あの、教主さん?それって一体……」

「––––これは失礼いたしました。何しろ教会内にまでモンスターが入り込んでしまったものでして。このような汚れた姿で、お恥ずかしい限りです」

 私が恐る恐る尋ねると、空いている手で頬を抑えながら恥じ入るように応える教主さん。

 そして、その肩越しに見えた教会の中には、主に人型のモンスターが、なぜか揃ってもだえ苦しんだ顔で、お尻を押さえて(、、、、、、、)倒れていた。

 驚愕に見開かれた私の視線に気付いた教主さんは言う。

「昔、私が冒険者だったころ、私に襲い掛かってきたモンスターは、なぜかお尻を辱めようとするものばかりでしたので」と。

 ……え?もしかして、その時の仕返しでお尻ばっかり狙ってんの⁉

 その時、恐れおののく私の視界に、ゆらりと立ち上がる大きな影が映る。

「––––!オウガ!教主さん、うし––––」

「あらあら、討ち漏らしがあったみたいですね。えいっ♪」

「ォボオッ‼⁉」

 私が警告の声を発しようとすると、それよりも早く振り向いた教主さんの、鋭く振り抜いた棘付き連鉄球がオウガのお腹にクリーンヒット!

 その一撃で膝をついたオウガの頭を鷲掴んだ教主さんは、流れるような動きで踏みつけたオウガの頭を地面に叩きつけると、平伏すような格好でオウガを取り押さえてしまった。

「––––モンスター(あなた)達には、あの時私が味わわされた苦しみと痛みを、たっぷりと教えて差し上げます♪この菊門抉りの轟棒、『ア・ナルパの屈辱』で!」

「グガッ!ギッ!ヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼」

「さあ!お尻を!差し出しなさいませっ♪」

 逃れることも叶わず泣き叫ぶオウガ。

 そして教主さんは、高々と掲げた棘付き連鉄球を容赦なくオウガのお尻に……ぶっ刺した!

「––––ッ!ギャオォォォォォォォッ!ヒッ!ヒィッ!ヒギャァァァァァァァァァァッ‼」

「ふふふふふふふふふ♪まだまだ始まったばかりですよ♪まずはゆっくりと出し入れをして♪……」

 苦悶の悲鳴を上げるオウガのお尻の中を、ずーりずーり、と愉しそうにすりおろしてゆく教主さん。……あ、なるほど。あれって武器っていうより拷問器具なのね。

 妙に納得してしまったけどドン引きしている私の目の前で、凄惨な逆凌辱シーンが続く。

 後ろにいたエリュシアなんて、真っ青な顔をして涙目でお尻を押さえているくらいだ。うん。私も見てるだけでお尻が痛くなってきそう。

 やがて、「えいっ♪」というかけ声とともに轟棒がひねられると、切なげな断末魔の悲鳴を上げてオウガが沈黙する。エグい。エグすぎる……


「––––さて。大分時間を取られてしまいましたが、街の皆様の救助に向かいましょう。……騎士団(ナイツ)の皆さん、征きますよ」

 オウガのお尻からズルリ、と得物を引き抜いた教主さんが声を上げると、「はい!」と声をそろえて十名ほどのシスター達が進み出る。

 揃いの深緑の修道服に、それぞれ鉢金や胸甲を装備しているのは、教会が誇る修道騎士団(シスターナイツ)面々(メンバー)だ。

 彼女達が携える武器を見てみると、それはあるいは螺旋(らせん)状に(ねじ)れた刃のついた槍。または両端にイボイボのついた鉄棍。ドロボー(かぎ)のようなフックを持った人もいる。

 なんていうか、全体的に禍々しいというかなんというか……

 試しにどう使うのか訊いてみると、ひねりを加えて穴(どこの?)を引き裂くだとか、穴(だからどこの⁉)に差し込んで引っかけるとか。etc.etc.

「……え、なに?もしかしてあんた達、『お尻えぐり隊』なわけ?」

 恐れおののく私が声を上げると、騎士団(ナイツ)の一人が淡々とした口調で、「いえ、我々は翠玉隊の所属ですがなにか?」と答える。いや、そりゃそうだろうけど!

「お姉さま……この人たち怖いです……」

「うん。私も怖いわ……」

 そんな彼女達を前に、私とエリュシアはただただ生まれたての小鹿のように震えることしかできなかった。


「観測班!報告を!」

『はっ!敵勢力は現在北方より進撃中!北東、北西街区にも浸透しつつあります!』

「南街区の様子はいかがですか!」

『敵影は見当たらず!騒動を聞きつけた住民が避難のため南門に押し寄せております!』

 私達が教主さんと騎士団(ナイツ)に圧倒されていると、キリリと顔を引き締めた教主さんが教会屋上の物見櫓に声を張り、状況の確認を行う。

「よろしい。これより東西に防衛線を構築いたします。隔壁を展開なさい!」

「はい!」

「ビオラ、ガーベラは東西門の確保を!敵を一匹たりとも通してはなりません!」

「「承知いたしました!」」

「ウメ、モモ、サクラは北西、北東街区に赴き被害者の救助を!可能であればこの広場まで避難させなさい」

「お任せください!ウメ、モモ、行くわよ!」

「「はい!」」

奏楽(ブラス)隊は広場中央にて待機!この場を死守します!」

 矢継ぎ早に下される教主さんの指示に、騎士団(ナイツ)を始めとしたシスター達は弾かれたように動き出す。

 紺の修道服を身に纏った一般のシスター達は、通りの端にある操作盤(コンソール)に飛びつくようにして隔壁を作動させる。

 ––––ちなみに、この『隔壁』というのは魔力(マナ)を動力として地面からせり上がってくる防護壁で、街を十字に区切る大通り沿いに設置されている、三つのダンジョンを抱えたこの街ならではの設備だ。

 東西に延びる街道に沿って展開される隔壁によって、南北に街が分断される。

 その形は、円形を描く中央広場と相まって、まるでモンスターを受け止める酒杯(ゴブレット)のよう。

 更に指示を受けた騎士団(ナイツ)の少女たちが、東西の門に向かって、あるいは未だ侵攻を受ける街区へ被害者の救助のため、飛ぶように駆けだしていった。

 今も戦い続けている北の大通り、テッド達の援護に向かう人も。

 突如として動き出した場の空気に置き去りにされ、あっけに取られていた私達だったけれど、いつまでもボケーっとしてる場合じゃない。私も戦わなくちゃ!

 ふと我に返って、差し当たり放ったらかしにしてしまっていたテッド達を手伝おう、と北の大通りに向けて駆けだそうとしたその時、「あの、もし」と教主さんの声が私を呼び止めたのだった。


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