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それぞれのRe:Start フェルネット

   ep.4-2 それぞれのRe:Start フェルネット


「––––着替え、持った。お弁当、よ~し。賄賂(おみやげ)、おk」

 パーティーの方針を話し合ってより、一日。朝食を終えたフェルネットは、旅装を整え、指差し確認で持ってゆく荷物のチェックをしておりました。

 ––––特に、師へと捧げる『おみやげ』は慎重に。

「フェルネット、準備できたの?––––て、少な!あんた、砂漠越えなのにそんな荷物で大丈夫なの?」

「あ、ルビィ。うん、へーきへーき。砂漠の中突っ切っていくわけじゃないし。商都(リロ)まで行って、そこから砂漠の外縁沿いの馬車に乗る予定だし」

 リロ、というのは、商都の名が示す通り、ここピンガ共和国における商業の中心地であり、政治の中枢である政都、サン・パルモと並ぶ大都市でございます。

「商都、ですか?私も一度行ってみたいです。この街以外、見たことがないですから」

「あぁ、機会があったら行ってみるといいさ。リロのバザーって言ったら大陸有数の大きさだからな。目ん玉ひんむいてひっくり返ること請け合いだぜ?」

 二人の会話に、ルビィの後ろからひょこりと顔を出したエリュシアが興味を示し、更に一歩退いた位置からテッドが、大げさともとれる街の情報を口にします。

「ん~。ひっくり返るかはともかく、帰りも同じ旅程(ルート)の予定だから、何かおみやげでも買ってきてあげるよ」

「本当ですか⁉だったら私、珍しいお菓子がいいです!」

 フェルネットの提案に快哉を上げるエリュシア。その脇ではルビィが、「あんたも意外と切り替えが早いわよね」と苦笑を浮かべます。


 ––––––––––––


「じゃあ、行ってくるよ」

 街の東部、駅馬車の乗り場にて、旅装を整えたフェルネットがルビィ達と言葉を交わします。

「うん、気をつけてね。––––あ、ハンカチ持った?外套(マント)大丈夫?途中、生水なんか飲んじゃダメよ?」

「もう、ルビィったら。お母さんじゃないんだから」

「なんだかんだ言って世話焼きだよな、ルビィ(こいつ)

「当たり前です!お姉さまの優しさといったら、それはもう天を衝くほどですから!」

 遠足に向かう子供にでも言うように心配をするルビィに、フェルネットは呆れたように、テッドが苦笑交じりに言い合っておりますと、何を当然のことをと言わんばかりにエリュシアが、ふんす!と鼻息も荒くルビィを讃えるのでございました。

「……あ、そろそろ出発の時間だね。じゃあ、ルビィ、みんな。二十日くらいで戻れると思うから……抜け駆けしないでよ?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんとあんたのこと待っててあげるから、頑張ってきなさい。––––あんたの修行の成果、楽しみにしてるわよ」

「もっちろん!ま~かしといて!」

 ––––こうして皆に別れを告げ、フェルネットは旅立ったのでございます。


「~♪~♪今回は~アタシが主役~~~♪」

 商都・リロへ向け、東へと進路を取る乗り合い馬車に揺られながら、フェルネットは車窓を流れる風景を眺めておりました。

 旅の行程は、まずは半日をかけて商都へと向かい、一泊を挟んでより後、二日ほどの日程で目的地のラダへと至るというもの。

 直線距離で砂漠を渡るという選択肢もあるにはあるのでございますが––––

(近道しようとして、サソリ人間(スコーピオンマン)にでも出くわしちゃったら大変だしね)

 砂漠固有のモンスターとの遭遇を避けるために、敢えて迂回路をとることにしたのでございます。

 ちなみにサソリ人間(スコーピオンマン)とは。

 全長六フィート(約二メートル)ほどもあるサソリの頭部から、ヒトの上半身が生えたような姿をしたモンスターであり、蜂や蟻のように女王(クイーン)を頂点としたコロニーを形成する種族でございます。

 そして、女王を除くほぼ全ての個体は雄生体であり、往々にして墓所や遺跡の入り口を護る遺跡の守護者(ルインズ・キーパー)として外敵の排除を行うもの、ともされております。

「まぁ、今回は外縁の街伝いだし、だいじょーぶだよね~」

 ……人それを『フラグ』と呼びます。

「ちょっと()めてよね!」

 ––––そうこうするうち、馬車は何事もなくリロへと到着いたします。

 街門をくぐり抜けた先、馬車を下りて一歩を踏み出せば、商都に相応しいバザーの喧騒が視界いっぱいに広がります。

 通りを埋め尽くす露店の数々は色とりどりの花で飾られ、あちらの露店を覗けばヤシやナツメといった果物が並び、こちらのお店からはケバブかシュラスコか、香ばしく焙られた肉の香りが食欲をそそり。

 どこからともなく流れてくる楽の音は心浮き立たせ、道行く旅人たちを呼び止める陽気な客引きの声と相まって、フェルネットの瞳をキラキラと輝かせるに足るものばかりでございました。


「あ、おっちゃんおっちゃん!その串焼き二本ちょーだい!あと、そっちのトルティーヤも!」

 ––––漂う芳香に刺激され、「くぅ」と鳴るお腹の音に負けてか、街に着くなり早速食べ歩きに興じるフェルネット。目的は憶えているのでしょうか?

ふぁふえへはいよ(わすれてないよ)。(もぐもぐごっくん!)まずは腹ごしらえしなくっちゃね」

 満面の笑みをたたえて語るフェルネットは、それから五軒ほどの露店をハシゴしてお腹を満たすと、ヤシの実を器にしたトロピカル・ミックスジュースを片手に散策を続けます。

「ん~、お師匠様のご機嫌とりのためには、予備のワイロ(セカンドおみや)もあったほうがいいんだけど……」

 移動の日数も考慮に入れ、日保ちのしない生菓子の類は明日以降に立ち寄る途上の街で(あがな)うこととし、まずは師の好みそうな細工物を吟味するため、小間物の露店を見て回るのでございました。

 やがて、フェルネットが目を止めたのは小鳥を(かたど)った黄金(きん)地金(じがね)にラピスラズリをあしらった髪留め。

 他の装飾品と見比べ、()めつ(すが)めつ慎重に吟味を重ね、これならば師の長い銀髪にも映えるのではないかと思い、その値段に目を剝きながらも購入を決断した逸品でございます。

「こ……これで勝負だよ……っ!」

 頬に汗を伝わらせ、来たる師との面会に緊張を漂わせるフェルネットは、決意も新たにつぶやきを落とすのでございました。


 ………………

 …………

 ……


 一夜が明け、準備も万端、南へと向かう馬車に乗り込むフェルネット。

 万事つつがなく進むかと思われた旅路でございましたが、この日の夕、フェルネットは異変に遭遇することとなってしまいました。

 右手に垣間見える砂漠地帯に沈もうかという太陽が真っ赤に染まった光を投げかけ、街道に沿って立ち並ぶヤシの木が、長々とした影を地に落とすころ。

 間もなくこの日の宿泊を予定していた、ウルの町へと到着せんとしていた時のことでございます。

「––––…………?」

 最初にその異変に気が付いたのは御者でございました。

 行く手を遮るように立ち尽くす、人と思しき影。

 それは、近づくにつれて輪郭をあらわにし、()の背で揺れる尾––––鎌首をもたげた甲殻類のような––––を認めるや、御者の顔に緊張の色を浮かべさせるに値するものでございました。

「……お客さん方。すいやせんが、誰か腕に覚えのある方ぁいらっしゃいやせんか」

 務めて抑えられた声で、御者台の小窓から投げかけられる御者の声。

 何事かと思い、フェルネットが小窓から行く手の先を見ると、そこに見えるシルエットは、まごうことなきサソリ人間(スコーピオンマン)の姿。

 翻って車内を見回してみれば、商人、子供。およそ戦うことのできそうな者の姿はございませんでした。

「申し訳ねぇんですが、この馬車にゃあ護衛がいねぇんで。万が一の時にあいつを追っ払ってくれるだけのお人がいてくれたら心強いんですがね」

 元来、サソリ人間(スコーピオンマン)とは見境なく襲い掛かってくるモンスターではございません。たどたどしいながらも人語を解し、稀にヒトとの交易を行うこともあるほど。

 とは言え、守護者の異名の示す通り()のモンスターがいるということは、その先への道を塞ぎ退けるため。

 道を空けてもらえる余地はあるのか?交渉をするためにも、荒事に対処できる人物がいてくれれば––––襲い掛かられる可能性を考慮して––––心強いと御者は言います。

「はあ……アタシ、一応魔術師ですけど。で、どいてくれるか聞いてくればいい?」

 安全な道を選んだはずなのに、とため息を吐いたフェルネットが名乗り出ると、御者は「本当にすいやせん。お客さんの運賃の方は勉強させていただきやすんで」と申し訳なさそうに頭を下げるのでございました。


 なるべくサソリ人間(スコーピオンマン)を刺激しないよう、少し離れた場所に停車した馬車から降りたフェルネットは、用心しながらゆっくりとサソリ人間(スコーピオンマン)に歩み寄り、十フィート程の間を開けて()と対峙いたします。

 ––––腕を組み、微動だにしないサソリ人間(スコーピオンマン)と相対することしばし。

 砂漠を渡る、熱く乾いた風が向日葵色のローブを、高々と(くく)ったフェルネットの黒髪を揺らす中、彼女は、静かに相手の出方を窺います。

 やがて、おもむろにガサリと多足を動かしたサソリ人間(スコーピオンマン)は、敵意がないと言うようにゆっくりと、慎重にフェルネットの下まで歩を進め……

「あの、失礼ですが冒険者の方、でよろしかったでしょうか?」

「め……めっちゃ流暢にしゃべってる……」

 ––––大変丁寧な口調でフェルネットに語りかけてきたのでございます。

「……え、えっと……」

「ああ、失敬。名乗るのが遅れてしまいました。実はわたくし、こういう者でして」

 突然のことに固まってしまうフェルネットに、ピシリと四十五度のおじぎで差し出される一枚の紙片。その物腰はサソリ人間(スコーピオンマン)と言うよりもまるで––––

「サ……サソリーマン⁉」

 受け取った紙片には『営業部長 サソリ十一号』と書かれておりました。

「どうかわたくしの話を聞いてはいただけないでしょうか。……お恥ずかしい話、他の方々は皆様引き返すか襲い掛かってくるかで、わたくしの声に耳を傾けてくださる方がいらっしゃいませんで。つきましてはこの先の町に酒場を予約しておりますので、一席設けさせていただければと……」

 よどみなく語るサソリ人間(スコーピオンマン)、いえ、サソリーマンに気圧されるように、彼の先導でフェルネット達は町へと向かうのでございました。


 ––––ウルの町の酒場、『カラカラ亭』。

 その奥まった位置にある個室で、フェルネットとサソリーマンは(テーブル)を挟んで向い合っておりました。

「––––女王(クイーン)の様子が、おかしい?」

「ええ、その通りなのです。あ、先に何かお飲み物でも。エールがよろしいですか?それとも甘めの果実酒でも?」

「……じゃあ、果実酒で。ていうか、本題に入ってもらってもいいですか……?」

 席に着くなりおしぼりを差し出し、飲み物を注文し、食べ物を注文して––––と、テキパキした動作で接待を繰り広げるサソリーマンに辟易としながら、フェルネットは話の続きを促します。

「これは重ね重ね失礼いたしました。……ええ。実は最近、我らの女王が乱心と申しましょうか……あ、この酒場のザクロ酒は中々の逸品と噂だそうで。ささ、ぐぐ~っと」

「……いいから。続き」

 注文の品が届くたび、隙あらば接待に精を出してしまうサソリーマンに半眼を送るフェルネット。

 サソリーマンが言うには、この町より馬で半日ほど進んだ先、砂漠地帯に踏み入った所にある彼らのコロニーを治める女王の様子がおかしいとのこと。

「……以前は厳しくもお優しい、威厳に満ちた御方で、我らの誇りでした」

 それが、最近になって日も夜もなくサソリ人間(スコーピオンマン)達を寝所へ攫うように連れ込み、攫っては搾り、搾りつくしてはまた攫いということを繰り返している、ということでございます。

 それゆえ女王の寝所前には、精も根も尽き果てて搾りかすとなった犠牲者達が放り捨てられ、山のように積み重なっているというのです。

「……………………それって、発情期なだけなんじゃないの?」

「いいえ!今までであれば、つがいとなる者を一名選んで、それで治まっていたのです!」

 半ば呆れたように言うフェルネットに、サソリーマンは今までにない異常事態である、と力説いたします。

「はぁ~……で?アタシにどうしろって?」

「……暴走している女王を…………止めていただきたいのです……」

 重い息を吐き出したフェルネットの問いに、サソリーマンは苦渋に満ちた顔を俯かせて答えます。

「我らとしても、もうあのような女王のお姿を見るのは(しの)びないのです。不甲斐ない話ですが、我らではお(いさ)めしようにも喰われて屍を重ねるのみ。最早力づくでもあのお方を抑えることができる冒険者の方におすがりするしかないのです!」

「それって、ぶちのめしてもいいってこと?」

「……今の女王は、言葉が通じないほどに錯乱しておられます。最悪、女王がお命を落とされることになっても、我らは貴女様を恨みに思うことはございません。それはお約束しましょう」

 硬い表情のまま、サソリーマンは絞り出すように『女王の名誉を守ってほしい』と言うのでございます。

「もちろん報酬の方もご用意させていただきます。我らがコロニー秘蔵の黄金を。それでも足りないと申されるのでしたら、わたくし自ら酒壺に浸かって、強精作用の高いサソリ酒にでもなりましょう!」

「いらないいらない、サソリ酒(そっち)はいらないから」

 果してそれが報酬たりえるのかはさておき、何故か妙にサソリ酒を推して、自ら酒浸けになりたがるサソリーマンに、フェルネットは頬を引きつらせてしまいます。

 サソリ酒(そんなもの)は、是非とも遠慮したい、と。


 ––––––––––––


「ん~~~……」

「お願いします!わたくしの言葉に耳を傾けてくださったのは貴女様だけ!是非に!」

 ザクロ酒を飲み干し、オニオンスライスを口にして、どうしたものかと思案するフェルネットに、すかさずおかわりを注いだサソリーマンは、彼女の空いている手を取り懇願します。

「ああ~もう!分かった!分かったから!やるからちょっと待ってってば!」

「おお!引き受けてくださいますか!ありがとうございます、ありがとうございます!それではお礼に、この酒場で評判の踊り子の––––いや、むしろわたくしが感謝の舞をっ!」

「––––いいから!まずはちょっと落ち着いて!」

 サソリ人間(スコーピオンマン)特有のつるりとした禿頭に、どこからか取り出したネクタイをハチマキのように絞めて踊りだそうとするサソリーマンを、フェルネットは慌てて引き止めるのでございました。


「––––確認しときたいんだけどさ。あんたたちって、雷属性(イカヅチ)に耐性あるんだよね?」

「その通りです。むしろ我らの弱点と言えば炎か水か……そう言えば大昔、追い立てられた挙句、井戸に落ちて亡くなった同族がいたとかいないとか……」

ミヤザワ(それ)は置いといて。アタシは炎と雷の魔術が使えるけど、女王には通用するかなぁ……」

 フェルネットの懸念を受け、サソリーマンは語ります。彼等の女王は、彼等のおよそ五倍の体躯を持ち、伴ってその甲殻の厚さから並みの魔術は跳ね返されてしまうのだと。

「だったら、やっぱ狙うのは上半身?」

「それしかないかと」

 狙うは、甲殻のない女王の上半身。その方針を確認するフェルネットでございましたが、女王の下半身にあたる部分だけでも十五フィート(約五メートル)ほどの高さがございます。

「……まるで怪獣退治だね」

「ご無理は重々承知しておりますが、どうにかお願い致します」

 ため息交じりに愚痴をこぼすフェルネットに、深々と頭を下げるサソリーマンが重ねて懇願します。

「まぁ、やるだけはやってみるよ。ただ、準備してからでないと勝ち目もなさそうだから、行くのは明日の朝でもいい?」

「もちろんです!あ、何かご入り用なものがございましたら何なりとお申し付けください!」

 ––––こうして、行き掛かりのこととはいえ、フェルネットはスコーピオン・クイーンとの戦いに赴くことになってしまったのでございました。


 翌朝––––

「うわぁ!スゴイスゴイ!スッゴイ速い!」

「速い––––そーろー⁉」

「そっちじゃなくて!馬より速いんじゃないの?って!」

「––––馬並み以上⁉」

 フェルネットは、背中まである黒髪をなびかせながら歓声を上げ、先ほどから何故かショックを受けたり興奮したりと感情の起伏著しいサソリーマンの背に乗り、砂漠を駆け抜けておりました。

「それにしても、ニンゲンの女性をお乗せするのは初めてですが……女性に背中を踏みつけられていると思うだけで、心の奥から何かがこみ上げてくるような……ふぉぉぉぉおおお、エークスタシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」

「え?なになに?––––っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 ぶつぶつと何事かを呟いていたサソリーマンは、やおら吠え猛るような奇声を上げると、フェルネットの悲鳴を伴って猛然と速度を上げるのでございました。


 ––––一刻後––––


「イィィィィィィィィヤッフーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」

「ねぇ!十一号さん!ねぇってば‼」

 砂漠を渡る熱風(かぜ)に、束ねられていない(、、、、、、、、)髪をかき乱されながら、新たななにか(せいへき)に目覚めてノリノリで疾走(はし)るサソリーマンことサソリ十一号へ、叫ぶようにフェルネットが声を飛ばします。

「!はいーっ!なんでしょうかフェルネット様!」

「あんたらのコロニーまで!あとどれくらいー?」

「それならば、間もなく見えて参りますよぉぉぉ!––––あちらでございます!」

 吹き荒れる風に負けじと声を張り上げる二人の行く手に、巨大な岩石でできた砦、いえ、小山ほどもある岩城とでも言うような岩塊が、砂の海の中に忽然と現れます。

「––––うわ、でっか!ていうか!そろそろスピード落としてもいーんじゃない⁉」

「イエス・マイ・クイーン!ゴー!ゴゴー‼」

「アタシは!あんたの!女王様じゃなぁーい!あとちょっと落ち着いて!『ゴー!』じゃないから!おち、おち……落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ‼‼‼」

 フェルネットの制止も空しく、テンション爆上げとなってしまったサソリ十一号は、岩塊の下部に開いた穴へと向かって突撃を敢行してしまうのでございました。

 ––––––––––––

「あー、死ぬかと思った……」

「申し訳ございませんっ!言い知れぬ高揚感に促されるままに、つい……」

 岩城内部。

 結局のところ、高ぶるテンションのままに突っ込んでしまったサソリ十一号の勢いは止まることなく、岩城の入り口から入った先、岩窟のエントランスホール正面の壁に激突する羽目になってしまったのでございます。

「もー!アタシ言ったよね!落ち着いてって言ったよね!」

「面目次第もございませんっ‼」

 フェルネットの怒声が岩窟の壁を震わせる中、サソリ十一号は深々と、それこそ地に打ち付けんばかりの勢いで頭を下げます。

 そうして、わぁん、という残響が去り、無人の(、、、)エントランスホールを静寂が支配する中––––

「……ねぇ」

「……はい」

「ここ、あんた達のコロニーの入り口、なんだよね?……静かすぎない?」

 遅まきながらに辺りを見回したフェルネットが、訝しむようにひそめた声で問いを発します。

「––––確かに。昨日、わたくしが()った時には、少なくとも二十名ほどの同胞が残っていたはずなのですが……見張りもいないなど、いくらなんでもありえません」

 フェルネットの指摘を受け、強張らせた視線を巡らせるサソリ十一号も、周囲のただならない様子に、一抹の不安を覚えているようでございました。

「まさかとは思うけど、ここにいたサソリ人間(ヒト)たちって、もう、みんな……」

「ご、ご冗談を。さすがに、一晩で全員だなんて……は、ははっ、ははは……」

 彼女がこぼした最悪の––––全滅の可能性に、いくら錯乱した女王といえど信じられない、とサソリ十一号は乾いた笑声をもって応えます。あるいは、信じたくない、と。

 その時––––


『……リヌ』


 岩窟の奥から、微かな『(こえ)』が二人の耳朶を打ちます。

「「………………………………」」

 顔を見合わせ、耳を澄ませる二人のもとに、また。

『足リヌ……』

『足リヌ……(ワラワ)ノ子供……妾ノ男……』

 断片的に聞こえてくる、不穏な聲。続いて、何かを貪るような音も。

「……行って、みよう」

 意を決したフェルネットが、囁くように告げると、身体を強張らせていたサソリ十一号も、ゆっくりと、黙って頷きを返し、二人は慎重に岩窟の奥を目指すのでございました。


 ………………

 …………

 ……


 程なくして辿り着いたのは、広大な岩石の広間(ホール)。ですが……

「床が……」

「抜けて、ますね……」

 声をひそめて囁きかわす二人の目前、通路の先の集会場のようにも見える広間の床は、見るも無残に崩れ落ち、軽く見積もっただけでも五階層分もの深さの大穴となっておりました。

 恐る恐る大穴の縁に近寄り、用心深く覗き込んだ穴の底。

 フェルネット達の目に飛び込んできたのは、崩れた床の残骸とみられる岩塊がうず高く積み上げられ、その狭間に埋もれるように転がるサソリ人間(スコーピオンマン)達の姿。

 ––––そして、その中心に(そび)える、ひと際大きな巨影(かげ)

 転がる岩石の間を無造作にまさぐり、摘まみ上げたサソリ人間(スコーピオンマン)の躯を、ヒト型の上の口と下半身にあるサソリの口に運んでいるのは、スコーピオン・クイーンでございました。

「……ぶ、物理的に、喰ってる……」

「––––っっ!」

 顔を引き()らせながら呟くフェルネット。その横では、言葉をなくしたサソリ十一号が、凍り付くようにして息を吞んで立ち尽くしております。

 やがて、ゆっくりとその顔を上げたクイーンが、瞳孔のない(まなこ)をフェルネット達の居る通路へと向け、狂気に満ちた笑みを浮かべたのでございます。

『……見ツケタ。妾ノ子供。妾ノ男』

 そうして、フェルネットを丸ごと包んでしまえるほどの大きな手を持ち上げ––––

『オイデ、妾ノ子供。オ前ノスベテヲ搾リ取リ、オ前ノスベテヲ喰ラッテアゲル』

 瞳孔のない眼を笑みの形に歪め、下半身にあるサソリの口からはボタボタと(よだれ)を垂らしながら、サソリ十一号を(いざな)ってきたのでございます。

「うわ、完全にイッちゃってるね、アレ。……どうする?イく?」

「––––っ!––––っ!––––っ!」

 頬に汗を伝わらせたフェルネットの言葉に、傍らにいたサソリ十一号は、恐怖のあまり言葉を発することも出来ず、プルプルと首を横に振りながら後ずさってしまいます。

「……じゃあ、やるしかないよね。これ持ってて」

 怯えるサソリ十一号に、お気に入りの向日葵色のローブを託したフェルネットは、意を決して女王の待つ大空洞へと一歩を踏み出すのでございました。


『……ニンゲンノ、メス?––––退()キヤ。ソチニ用ハナイ』

 大空洞の通路口に姿を現したフェルネットを訝しげに見やったクイーンは、次には煩わしそうに口を開きます。

 そんなクイーンに対し、フェルネットは––––

「あのさぁ。十一号さんは行きたくないって言ってるんだよね。諦めてくれない?」

 ––––と、正面からクイーンの眼を見つめ返して言うのでございます。

『ナラヌ。妾ノ子供ハ妾ノモノ。ユエニ、ドウ扱オウト妾ノ自由』

「うっわー、横暴ー。じゃあさ、なんで自分の子供を食べちゃってるのさ?親に殺されて食べられちゃうなんて、そのサソリ人間(ヒト)達もたまったもんじゃないでしょーに」

『––––究極ノ王ヲ産ムタメ。全テノ子ノ精ヲススリ、ソノ身体ヲ余サズ取リ込ンダトキ、妾ハ究極ノ王ヲ身籠ルコトガデキル。ソノ子ガ最後ジャ。サア、分カッタナラバ妾ニ差シ出スガヨイ!』

 問答を続けようとするフェルネットに、徐々に苛立ちを募らせていったクイーンは、遂には語気を強めてサソリ十一号を差し出すように要求いたします。

「けどさぁ。アタシも頼まれてここに来てるんだよね。––––女王(あんた)を止めてくれって!」

『ッ!オノレ……オノレ羽虫ガ如キニンゲン風情ガ。––––妾ト子ヲ引キ離ソウト言ウカ‼』

 一歩たりとも怯むことなく放たれたフェルネットの言葉に、激情を露わにしたクイーンが怒声とともに打ち放ったのは、大木程もあろうかという太さの蠍尾の一撃。

 大鐘の音を幾重にも重ねたかのような轟音を伴って打ち付けられた一撃は、大空洞の岸壁を抉り取り、フェルネットがいた通路口もまた、夥しい岩石を撒き散らしながら崩れ去ってしまったのでございます。

「っ!フェルネットさ––––」

 驟雨の如く降り注ぐ砂礫に、両の手で顔を覆ってしまうサソリ十一号。彼の目に映ったのは、爆風(かぜ)に飛ばされ、衝撃のためかボロボロに千切れて行く彼女(、、)の上衣。

「––––あ、あぁ……」

 そして、徐々に収まってゆく砂煙の先には––––

「……【七つの衣(サブア・ヒジャーブ)】」

 上衣を失ってこそいるものの、傷一つ負わず(、、、、、、)に女王の蠍尾を押しとどめているフェルネットの姿。

「っ!フェルネットさん!」

「ナメないでよね。あらかじめこうなるかもって分かってたんだから、一晩かけて封環一つ解除しておいたんだよ!」

 自らに施された五つの(いまし)め、【酔封環】。

 その解除には複雑な術式が必要となり、自身でこれを解除するのには一晩を要した、とフェルネットは申します。それでも、ようやく一つ。

 ですが、それによる恩恵は魔術の出力上昇と使用できる術数の増加。

 恩恵によって発動された魔術の名は【七つの衣(サブア・ヒジャーブ)】。その効果は、攻撃の完全無効化。

 いかな威力であろうとも、七回までの攻撃を全て無効にするというものでございます。ただし、一度攻撃を受けるたびに身に付けた衣服は弾け飛び、七度目にして『すっぽんぽん』になってしまうという恐ろしい制約が……

「ぱ……ぱんつだけは絶対に死守しなきゃ……」

 決意も新たにクイーンを見下ろすフェルネット。

(会話にはなったけど……なるほど、確かに話は通じないみたいだね)

 妄念に囚われているクイーンの狂相を眼下に捕え、フェルネットは先の会話を振り返ります。

「ねぇ、十一号さん。さっき言ってたのってホント?」

「え?」

「ほら。『究極ノ王』ってヤツ」

「いえ、わたくしは聞いたことがないですね」

「じゃあ、あんた達に黙ってたか、何かでラリっちゃってるか……誰かに吹きこまれたか、だね」

 クイーンから視線を逸らさず、サソリ十一号に話の真偽を正したフェルネットは、素早く事態の推測をまとめると、全身に小さく弾ける(イカヅチ)を纏い––––

「なんにしても、これだけ盛大な挨拶をしてくれちゃったんだから、お返ししないとね。––––【雷速演舞(エレクトラ・アクター)】!」

 ––––クイーン目掛け、宙空へと身を躍らせたのでございます。


 ––––––––––––––––––––––––


「イっちゃえ!イ・カ・ヅ・チ・キィィィィィィィィィィィィィィィィック‼」

 宙空から、斜めの射線を描いて放たれた雷速の蹴撃は、クイーンの顎先を撃ち抜きながらも勢い衰えず、対面の岸壁に穿たれた一層下の通路口にフェルネットは着地いたします。

「へっへ~ん♪やっぱさぁ、最後にモノを言うのは殴蹴(ぶつり)だよねぇ~♪」

 クイーンに返礼の一撃を叩きこんだフェルネットは、得意満面に笑みを浮かべます。––––が、貴女は魔術師だったはずでは?

「るっさいなぁ、もう。魔術()使ってるんだからいいじゃん」

 そう言って振り返ったフェルネットの目に映るのは、視界を埋め尽くさんばかりの巨大なクイーンの拳。

「––––や、ヤバッ!」

 間一髪、フェルネットが壁面を(はし)る雷のように雷速での離脱を図ると、僅かに遅れて打ち付けられる、爆撃の如きクイーンの殴打。

『……ウルサイ、ウルサイ。羽虫ノヨウナ、ニンゲンメガ……』

 遠雷の如く響くクイーンの呟き。一方、すんでのところで上層の通路口に逃れたフェルネットは、「うへぇ……ピンピンしてるじゃん。だから嫌なんだよねぇ、大型級(ボスクラス)って」とぼやきながらも、その瞳に宿した戦意は衰えることもなく。

「これで、二発目。……こんにゃろー。一発でダメなら––––っ!」

 攻撃を躱した際に掠めたのか、サンダルが弾け飛んでしまった自らの足を恨めし気に見下ろしたフェルネットは、素早く複数の『落雷点』を設定いたします。その数、優に三十以上。

「……ボッコボコにしてやる!––––【高電圧(ハイ・ヴォルテージ)】!」

 バチバチという音を立てて彼女の全身を覆っていた雷が、キィン、と一段と高い音色へと変わり、その出力の更なる上昇を伝えます。

「いくよ––––【稲妻散華ライトニング・スキャッター】」

 技名を口にするや、フェルネットの姿は霞の如く搔き消え、クイーンを中心に––––特にその顎先を狙って––––文字通りの電光石火、稲光の大輪が花開くのでございました。


  ––––例えるならば、それは曇天を一杯に埋め尽くす稲妻の華。

 刹那の合間に幾筋もの軌跡を描き、自らを稲妻と化したフェルネットは、極限まで凝縮された体感時間の中で––––

(あと、何回もつかな……)

 雷速の連撃を繰り広げながら、焦燥に駆られておりました。

 封環の解除と、それに伴う出力の上昇。

 それは同時に、彼女の負担の増加をも意味しております。

 彼女の扱う魔術とは、文字・文様(シンボル)、あるいは言語の韻律によって魔力(マナ)を変換・操作をすることで行われるもの。

 特に雷属性の魔術は、行使の際の演算が膨大なものとなるため、彼女の脳には多大な負担が掛かってしまうのでございます。

 【酔封環】とは、使用できる魔術に制限を掛けると同時に、使用者の脳に掛かる負担を軽減するためのものでもあるのです。

 よって、それを解除したことにより脳容量(キャパシティー)には限界が生じ––––

 現に、雷速の蹴撃が十数回を数える頃になると、彼女の鼻や目頭からは、どろりとした血液が流れ出し––––沸き立つ焦りは思考の、射線のブレを呼び、やたら滅法に振り回されるクイーンの拳を、蠍尾を避けきれずに衝突してしまうのでございます。

 三度目、四度目の衝突で彼女の履いていたキュロットは完全に弾け飛び、次いで、避けそびれた蠍尾に叩き落とされる格好で最下段の地上へ激突。

 彼女の纏う衣服は、もはや上下の下着を残すのみとなってしまいました。


「ちっくしょー。やっぱカタいなぁ……」

 雷速を一時解除したフェルネットは、鼻から流れ出る血液をグイと手の甲で拭ってクイーンを睨み上げ……

「ふおぉぉぉ……あ、スッポンポン♪スッポンポン♪そーれ、スッポン、スッポン……」

「あんたどっちの味方っ⁉」

「っ!申ーし訳ございません!つい身体が勝手にっ‼」

 ……またしても何かのスイッチが入ってしまったらしいサソリ十一号を怒鳴りつけるのでございました。

「まったくもう!あんたホントは営業じゃなくて宴会部長なんじゃないの⁉」

「兼務させていただいておりますっ!」

「うるさいよっ!」

 暫時状況を忘れたかのようなやりとり(まんざい)を繰り広げる二人。そして––––

『––––捕マエタ』

 うかつにも、通路口の際まで出てきてしまったサソリ十一号を、クイーンの手が鷲づかみにしてしまったのでございます。

「ク、ク、女王(クイーン)!おま、お待ちください女王!」

『オ前デ最後ジャ。サア、他ノ兄弟トトモニ妾ノ胎内(ナカ)デトロケルガヨイ』

「ぜっ、ぜぜぜ、全力で遠慮申し上げたい所存っ‼」

 クイーンの手の中に閉じ込められ、いやいや、と(かぶり)を振るサソリ十一号。

 ですが、そんな彼の顔をべろり、とひと舐めしたクイーンは––––

『案ズルコトハナイ。スグニ快楽デ塗リ潰サレヨウゾ……ァハ、ハハ、アハァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼』

 己が子を身も心もむしゃぶり喰らう歓びに、狂おしき情欲に全身を震わせ、狂気に満ちた哄笑を上げ続けるのでございました。

 もはや籠の鳥。捕らえた己が子を、いよいよ取り込もうと自らの蠍の腹部へ(いざな)おうとした、その時。


「––––やらせないよ‼」


 クイーンの足元、地上から飛ばされた声に、クイーンは煩わし気な視線を落とします。

『マダ、オッタカ。……ナニユエ、妾ノ邪魔ヲスルカ』

女王(あんた)が、間違ってると思うからだよ!」

『下ラヌ。我ガ子ヲ妾ノタメニ使ッテナニガ––––』

「大間違いだよっ‼」

 クイーンの言葉を遮り、断固とした意志を瞳に宿したフェルネットは、クイーンの眼を正面から射貫いて言い放ちます。

「たとえ女王(あんた)が産んだ命でも!産まれたからには、その十一号(ヒト)の命はその十一号(ヒト)のものなんだ!親だからって、好き勝手にしていい命なんて、ないっ‼」

『ッ!……(マコト)、小五月蠅キニンゲンヨ。ナレバ、マズハ貴様ヲ叩キ潰シテクレヨウゾ!』

 想いを吼えるフェルネットに、僅かな動揺を見せたクイーンでございましたが、次にはその瞳孔なき(まなこ)を怒りに染め、眼下の敵を見据えるのでございました。

「ふんだ!こっちにだって奥の手(とっておき)があるんだからね!––––【超過電圧オーヴァー・ヴォルテージ】!」

 苦痛に顔を歪めながらも、現状で行使できる最大出力。フェルネットを覆う雷は急速にその密度を高め––––

「【雷王の雄牛(ライトニング・ブル)】!」

 彼女を覆う神気(オーラ)のように、凝集された雷のとった(かたち)。それは、金色(こんじき)に光り輝く雄牛の姿でございました。

(––––跳べるのは、あと一回だけ……これに、賭ける!)

 限界まで凝縮され、プラズマ化した雷に自らの皮膚もチリチリと()かれる中で、フェルネットは歯を食いしばりながらクイーンを見据えます。

 狙うは反応も回避も許さぬ天衝雷(あまつくいかづち)の一撃。

 あの、気に食わないクイーンに、目を覚まさせる巨牛の一角(ブル・ホーン)を叩きこむ!

 全霊の覚悟を総身に巡らせたフェルネットが、いざ踏み切らんとしたその時––––


「––––まったく。おかしな魔力(マナ)の乱れを感じて見に来てみれば。一体どういうことかしら?」


 真冬の夜空に冴えわたる月のごとく、凛然として怜悧な女声。

 その声のする方、大空洞の最上部にある通路口より歩み出てくるのは、一人の少女。

 白銀に艶めく長い髪は、流れるように膝まで伸び。

 切れ長の目の、その瞳の色は宇宙の深淵を映したかの如き漆黒。

 病的なまでに()いた雪白の細面には、およそ感情というものを窺わせることもなく。

 ゆったりとした真白(ましろ)の衣装を身に纏うその少女は、見た目には十二、三といった年の頃でございましょうか。

 眼下に広がる大空洞の光景に、万物を(こご)えせしむる一瞥を落とした少女は、通路口より更に歩み出でて何もない空間(、、、、、、)を進むと、クイーンの顔前に相対するのでございました。

「……無様なものね。もはや見る影もない、といったところかしら」

(タレ)カ。……貴様モ妾ノ邪魔ヲスルトイウカ』

「そうね。邪魔、というのならそうなるかしらね。まずは……暫く眠っていなさい」

『––––ッ!ガッ!』

 少女が僅かに目を見開くと、瞬く間にクイーンの眼から光が失われ、大空洞の壁面に身体を預けるように、どう、と倒れ伏してしまったのでございます。

「お……お……」

「術を解きなさい、フェルネット。それはまだお前には御することはできないと教えたはずよ」

「お師匠様⁉」

 驚愕に目を丸くするフェルネットに、冷然と言葉を落とす少女。

 少女の名はエレシュ=バラク。

 フェルネットの師であり、『雷の女帝』、『死の女神』といった異名でこの砂漠地帯に知らぬ者のない、高位の魔術師なのでございました。


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