プロローグ
E・T・Dスラッシャーズ! ~ ポンコツ美少女三人組は、処クリ目指してエロトラップダンジョンに挑戦するようです ~
プロローグ
––––ダンジョン。それは、魔物ひしめき、死と隣り合わせの栄光が眠る場所。
故に、命知らずの冒険者達は、一獲千金を夢見る。
––––ETD。それは、女性しか入ることを許されず、淫靡な罠と魔物が手ぐすね引いて待ち受ける、常であれば決して寄り付くべきでない、【エロ・トラップ・ダンジョン】。
然してここに、その常軌を逸したダンジョンに敢えて挑もうという、三人の少女たちの姿があった。勿論、自ら進んで罠にハマりに行こうという、酔狂な自爆プレイ目的、ではなく、あくまでも処女クリアを目指して。
今!まさに!美少女剣士、ルビィ=ルルとその仲間たちの冒険が幕を開ける!
「……ねぇ、ルビィ?燃えているところ、悪いのですけれど、私達の紹介もしてくださるのよね?まさか、貴女の添え物のような、今ので終わりではないですわよ、ね!」
ギラリ!と睨みつける、菫の花のような、紫の甲冑を纏う少女。
「う、うっさいなぁ、もう。今から紹介するところだって!」
口を挟んできたのは、シャトー=リューズ=イエーガー。さる名家のご令嬢だそうで、いかにもな金髪縦ロールの、腰まである長髪が自慢。気の強そうな青い瞳に、さぞかし手入れを欠かさないであろう、スベスベのお肌。正直、うらやま憎らしい。
「あら、知りたいのでしたらお手入れ、教えて差し上げましょうか?うふふ」
うっさいし。勝ち誇ったように言うな!……とにかく、彼女の職業は魔法剣士。
……とは言っても、魔法のセンスは壊滅的。まともに発動したことがないほどだ。
「ちょっと、失礼なのではなくて?十回に一度くらいなら、成功してますわよ!」
世間では、それを成功とは呼びません。次、次。
「言いたい事があるのなら、せめて台詞で仰いなさい!」
「はいはい。話が進まないから、次でぇ~す」
「覚えてなさい!きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
それでは、もう一人の仲間。向日葵のような、黄色いローブに身を包んだ魔術師の女の子。高々と括った、特徴的な髪型の黒髪、活発そうなとび色の瞳のこの子は––––
「んん?ねぇねぇ、アタシのこと、呼んだ?ルビィ!」
この子は、フェルネット=パジェス。一言で言うと、脳筋魔術師。
「えぇ~~~?アタシ、脳筋じゃないよぉ~!ぶーぶー!」
「……じゃあ、あんたの魔術、見せてみなさいよ」
論より証拠。百聞は一見に如かずって言うしね。
「うん!いいよ!……それじゃあ、ファイヤーァァァァァ……」
右の拳に炎を纏わせて、大きく跳躍。
「ナッコウッ!!!」
ゴウ!と燃え上がる拳を、標的の立木に叩き込む!
「……ね?」
満面の笑みで言ってるけど、一事が万事、拳と蹴りで解決するのを、脳筋と言うのよ。
「ヒド~~~イ!」
さて、最後にお待ちかね!美少女剣士の誉れも高き……
「ヒンジャク剣士」
「ハレンチ剣士」
「ちょっとちょっとちょっとぉ!そんなに言うことないんじゃない?」
「あら?さっきまで私達のこと、なんと仰っていたのかしら?自業自得でしてよ?」
「そ~だそ~だ~!筋力へなちょこのくせにぃ~~~!」
「うっ……そりゃあ、確かに、ちょ~っと筋力足りなくて、剣もLv.低いし、全身鎧も着れないから、ビキニアーマーだけど……いいじゃない!別に!」
そう、剣士としては、チョッピリ不利なことに、普通の鉄の剣すら装備できず。鎧も、並みの皮鎧を着こんだだけでもへばってしまうので、露出キワッキワの、ビキニアーマー。
「私だって、好きでこんなの着てるわけじゃないもんっ!」
「まぁ、別にいいですけれど。その格好でETDに向かったら、襲ってくださいと言っているようなものではありませんの?」
「きゃはははっ!ルビィはえろえろ確定だぁ!」
ああ、もう。うっさいうっさい!うっせ~わ!私の紹介させなさいよ!
「「どうぞどうぞ」」
まったく。……それでは改めまして。私こそは美少女剣士の呼び声高いルビィ=ルル!輝くようなヴァーミリオンの短髪、燃え上がるような紅玉の瞳!蝶のように舞い……
「蚊のように刺す、と」
「もう!混ぜっ返さないでよ!シャトー!……あぁ、もういいわ」
いつまでも言い合っていても仕様がない。今まさに、私たちの目の前にはETDの入り口が聳えているのだ。一人として無事に出て来た者のない、エロスの魔宮。その最奥には、何でも願いが叶うアイテムがあるとかないとか。条件はただ一つ、処女クリアすること!
「と、いうわけで、私たちがその第一号になるのよ!そして私たちは有名に……いえ、このETDアタックで、伝説になる!」
「おぉ~~~!」と、みんなで拳を突き上げる。
ETD、突入。その、第一階層。
仄暗いダンジョンの中は、明らかに人の手によると思われる、つるりとした壁面。私たちは、モンスターやトラップに警戒しながら、慎重に進むことに––––
「あ~!こんなところにスイッチがあるよ!……ふむふむ。『ショートカット』だって!!やった!押してみよう!」
––––し、慎重……に……
「ちょ、ちょっと!お止めなさい、フェルネット!そんな見え透いた––––」
「えいっ!すいっちおん!」
制止の声も間に合わず、入ってすぐの壁に設置されたスイッチを、フェルネットが押してしまう。すると、辺り一面に、怪しげなピンクの靄が……まさか、毒?
「みんな!息止めて!」
慌てて息を止めるも、時すでに遅し。毒ではなかったものの。
「……え?何これ。お、お腹が、熱い?……んっ♡」
「はぁっ♡な、なんですの?これ」
「あっ♡お腹、お腹が……あうんっ♡、あ、アッツイよぉ♡」
––––突如として、お腹の奥から湧き起こる熱波。ジワリジワリと、熾火が身奥を舐めつくすように、徐々に熱量を増してゆく。
そればかりではなく、頭の中から囁くように、淫靡なイメージが脳内を駆け巡り、意識には靄が掛かったように、思考が定まらない。
何が起きたのかとお腹をみると、ピンク色に輝く、見慣れない紋様。それが、お腹で疼くように、脈動するように光を放つ。––––淫紋トラップに掛かってしまった!
「フェ……フェルネットぉ。あんた……はうっ♡なんてこと、して、んっ♡くれてんのよぉ!」
問い詰めようにも、淫紋のせいで、体が疼いて力も入らない。ヤバイヤバイヤバイ!入ったばかりで、秒でトラップ踏むなんて!こんなとこ襲われたら、終わりじゃん!
「い、言い争いをしている場合では、あぁんっ♡ありませんわ。ここは、撤退を!」
「それもそう……はあぁぁんっ♡だね!シャトー、帰還アイテム出して!」
「も、もちろ、んんん~~~~~っっ♡はぁ、はぁ、早く、こちらへ!」
「ほ、ほら、フェルネット。置いてけぼりになりたくなかったら、……あっ♡行くわよ!」
「~~~~~~~~♡うん、わ、分かった。……あ!なんか近づいてくるよ!」
指差す方を見れば、ずるずる、ぺたぺたという足音をたてる複数の影。薄汚い、緑色の子供のような矮躯。手には棍棒や石斧を持ち、その眼には欲望をギラつかせる––––ゴブリン!更にその後ろからは、ゼリーのような粘液質の塊––––スライムまで!
「って!エロモンスターの二大巨頭!こんな所で処女散らすなんて、冗談じゃないってのよ!シャトー!まだ準備できないの?」
え?触手はどうしたって?知るか!こっちはそれどころじゃないっての!
––––エロトラップダンジョンを脱出する方法は三つ。一つは、ダンジョン最奥までの踏破。二つ目が、敗北して、フロア中のモンスターに散々犯された挙げ句、どこに開いているのかも分からない、ダストシュートと呼ばれる穴から排出されること。最後に……
「準備出来ましたわ!さぁ、近くへ!」
最後の方法。このダンジョン限定の、特殊な脱出アイテムを使うこと。結構な高額で、しかも使い捨て。できれば使いたくなかった、このアイテムの名前は……
「【全裸の生贄乙女像】、発動!」
……まったく。誰がつけたんだ、この名前!とにかく、シャトーが手にした、文字通りの少女の全裸像、そのアイテムが光を発し始める。
「いくわよ!よろしくって!……えぇ~~~い!」
全員が揃ったのを確認して、光放つアイテムを……地面に叩きつける!
NNN……OOOOOh!HHooooooooooooooooooooooooooooow!!!
地面に激突したアイテムは、よりにもよって、耳を覆いたくなるようなオホ声を出した。「なにこれ!なんっちゅう下品な声出してんのよ!このダンジョンといい、アイテムといい、作ったヤツ、頭おかしいんじゃないのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」
…………………………
………………
……
こうして、ルビィの叫びごと、少女達は、眩い光に包まれ、ダンジョンを後にしたのでございます。 少女達の冒険は、その一歩目からつまずき、散々な幕開けとなってしまいましたが、はてさて、この先、どうなってしまいますことやら……
少女達が冒険の果てに掴むものは、勝利の栄光か、はたまたモンスターの……失礼。
兎にも角にも、今しばらく彼女達の冒険を見守りたく存じます。
……え?私が何者か?それはまた、追々のお話。
これより開幕致します彼女たちの冒険奇譚。皆々様にもお付き合いいただけましたら幸いでございます。