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人工知能が見る夢

ブバルディアは夢を見ていた。

いや、それは夢というよりもむしろ過去の断片的な録画が再生されたものに過ぎない。

電脳機械は情報整理が随時されているため本来夢を見る必要がないのだ。


「はい、じゃあ今回の旅行の様子を録画しようと思います。」


「お父さん、早く行くよ?」


「ああ、ごめんごめん。

ここに戻ってくるまでドローンの完全自動撮影をONにしておいた。

せっかくの家族旅行の思い出を残しておきたくってさ」


声の主はユメノ博士だった。しかし、その姿はボサボサ白髪姿ではなく黒髪で

その隣には黒髪の幼い娘と妻らしき女性が映っていた。


「地球旅行楽しみね、あなた」


その映像はそこで途切れ、次に映し出された映像は花園の様子だった。


「しかし、地球の庭園は実に見事だな、

火星には持ち込まれていない種の花がたくさん見れて実に興味深い」


「お母さん、この白い花はなーに?」


「その花はブバルディアね」


「赤いお花とかもあるけど」


「ブバルディアは品種改良されているから、

赤、ピンク、白、黄色、オレンジなど様々な色があるんだよ」


「ブバルディアは結婚式のブーケとかにも使われるのよ。

結婚式のブーケを受け取った人は幸せになれるといわれているわ。」


「そうなの?私幸せになりたい」


「アカリにもそんな人が見つかると良いわね、でもね自分の幸せを願うなら

他の人の幸せを願わないと駄目よ、悪い子の元には幸せはやってこないからね」


「私、お父さんとお母さんには幸せになっててほしいな」


そういうとアカリは近くに生えているシロツメクサで花冠を作り、両親に手渡す


「まぁ、この子ったら」


「アカリが元気で居てくれたら私は幸せだよ」


二人はアカリを見ながら微笑む。


二つ目の録画もそこで途切れ三つ目の録画は、アカリ達は砂漠の中にいた。

近くには砂に埋れた宇宙船があった。


「ここはどこなんだ?」


ユメノ博士が乗務員らしき女性に尋ねる。


「どうやらメトロポリスから数百km離れた砂漠のようです。

残念なことに、他のどの都市からも離れており、通信は繋がりません」


ユメノ博士がホログラム型通信機で接続を試みるも通信エラーの表示がされる。

火星に移住が成功した人類といえども、火星全ての緑化ができたわけではない、

都市圏やその近郊以外は未だにこのような砂漠が広がっている。


「何とかして知らせる方法はないのか!?」


博士が焦るのも無理はなかった。

なぜなら、宇宙船が不時着した際に負傷した人が大勢いたのだ。

特に博士の妻、アカリの母親に関しては手足を骨折しており歩くこともままならない状態だった。


「宇宙船の通信設備も故障しており、飛行場の管制塔に連絡ができていない状態です。

まことに申し訳ございません。

最後の通信位置が宇宙空間だったもので管制塔側に私達の位置が伝わっていない状態です。

そのため、ここに救援が来るまで最低でも数日はかかるかと」


「そんな・・・」


一般的に徒歩の移動速度は、時速4~5kmであると言われる。

完全な徒歩旅行の場合歩ける最大の距離は、1日の内、食事・休憩を入れて8時間、延べ30kmくらい。

しかし、これは健常な成人の場合であり、砂漠のど真ん中で多数の怪我人がいる状態で

この速度で行進するのも無理がある。


「食料は持ちます、しかし空調設備も壊れており・・・」


「なんということだ・・・」


人類が大気を作り出すまでの火星の表面温度は最高でも約20℃だったと言われている。

それは大気を作り出し、温室効果による火星全体の気温上昇がなされた後でも、

地球よりも太陽から離れたこの惑星は昼夜と赤道極点間の寒暖差は地球のものとは比べ物にならないほど激しい。

ましてや野ざらしの砂漠の中だ。


夜になると砂漠は氷点下以下の極寒の地と化す。

動力源ともはやされていない石油燃料などはなく、火を焚くこともできない。

人々は凍える体を温めるべく壊れた宇宙船の中の一室で身を寄せ合う。


遭難してから3日目の夜、

アカリの母親は虚ろな目をして側にいるユメノ博士とアカリに伝える。


「私、もう駄目かもしれないわ・・・」


衰弱と低体温症により意識が朦朧としアカリの母親は冷たくなっていく。


「お母さん、嫌よ。死なないで!」


疲弊しきっているはずのアカリが持てる限りの声を出す。


「あ・・・なたが大きくなった姿をもう少しみたか・・・ったわ」


アカリの母親はそう呟いて事切れるとその手には一輪の花が握られていた。

それはブバルディアの花だった。


次の日の朝、救援隊が災害救助ロボットともに駆けつけた。

先人を切って、人々を先導したのがジュンの父、マキノセユウゴだった。

ユウゴは事切れている母親に覆いかぶさっているアカリを見つける。


「すまない、謝って済む問題ではないかもしれない、

私がもっと早く見つけることができれば君のお母さんは助かったかも知れないのに」


「ううん、いいんです。おじさんも必死で探してくれていたんですよね。

私が・・・私がもっと強ければ、私にもっと力があれば」


アカリは憔悴しきっているも泣き腫らした目の奥は強い決意に溢れていた。

そこでブバルディアの意識は途切れる。



そこは最新鋭の設備が揃った研究所だった。

しかし巨大な試験官に自然界に実在しないようなキメラがホルマリン漬けになっていたり

危険な薬品やサイボーグや生体兵器の開発など違法な研究をしているのは明らかだった。

ブバルディアは研究室のベットで無数の配線付きデバイスを頭に被って寝ていた。

ガラスで仕切られた隣の部屋でヨウイチはブバルディアの超演算を使い、

新薬開発に必要な新規物質の発見と創製、

非臨床実験、臨床実験のシミュレーションのプロセスを凄まじいサイクルで行う。

数時間後、ディスプレイにはsuccessの文字が表示され、ヨウイチが歓喜の声を上げる。


「ようやく、ようやく完成したぞ。これでリン、お前を救うことができる。」


ヨウイチが完成した新薬の溶液を取り出そうとする直前、

何者かが研究室に入ってくる。

ヨウイチが振り向く


「おまえは・・・!?」


間髪をいれず乾いた銃声が鳴り、

実弾がヨウイチの眉間を貫き、絶命する。


その数十分後、ジュン達が研究所に侵入し、

遺体となっているヨウイチを発見する。


「これは一体・・・」


ジュン達は背後の気配に気づき、振り返るとそこにはブバルディアがいた。


「ジュン!」


ブバルディアがジュンに抱きつく


「うお、何だ!?いきなり」


「私はアカリ、トオヤマアカリよ。」


「待て待て、どうゆうことだ、

ヨウイチになんかされておかしくなってしまったのか?

お前はブバリアだろ?」


「そう、この素体はブバリアっていうのね」


そこでアカリは奥で倒れているヨウイチの遺体に気づく


「ひっ・・・!?ヨウイチ・・・なの?

まさか、ジュン達が・・・?」


「違う、違う、俺たちが来た時にはすでに死んでいたんだ。

俺たちはブバリアとアカリがここに囚われていると聞いて助けに来たんだ。」


ジュンは必死に否定する。

アカリは完成された新薬に気づき、それが入った溶液を取り出す。


「これは・・・そう、ヨウイチは完成させたのね、リンの治療薬を」


「何が何だかわからないのだが、説明してくれ。

本当にアカリなのか?ミナガワヨウイチとは一体どうゆう関係なんだ?」


「ジュンは私が意思のあるロボットの研究をしていたのは知っているよね。

そしてもう一つ研究していたのが、意思のあるロボットへ人の記憶と感情を転写する研究よ」


「まさか、ブバリアに自身の記憶と感情をコピーさせたっていうのか!?」


「複製ではなくて元の体から完全に移す行為よ、これは危険な賭けだったのだけどね。」


「俺はあの事故でアカリはてっきり死んだとばかり・・・」


「三年前の私の誕生日、あの日ジュンと別れた後テーマパークの爆発に巻き込まれ、

気づいたらこの研究所に軟禁されていたの。

そして意思のあるロボットを軍事利用に使うための研究を強いられたわ。」


「あの事故は統制機構の仕業だったのか!?」


「色々あったけど数ヶ月前に私は意思を持つロボットを完成させたの。

けれども私が作った意思の持つロボットは研究員を殺害し、逃亡したわ。」


「ひょっとしてそれがMkJ01なのか?」


「ええ、MkJ01は私が作った意思のあるロボットよ、

ただ、同時にお父さんに匿名で私の研究データを送っていたのよ。

そして完成したのがこの娘というわけね」


「まさか、親子で同じ研究しているとは思わなかったよ」


「昔、宇宙船の不時着事故でね、私お母さんを亡くしちゃって

それ以来ずっと人を助けるロボットの研究をするって決めてたの。

でも人を殺すための軍事ロボットに使われるなんて私耐えられなくって」


「なあ、どうしてわざわざブバリアに記憶と感情を移すなんて危険な事をしたんだ?

この研究所にアカリはいるんだろ?」


「それは・・・多分見てもらった方が早いわ」


アカリは研究所の地下深くの自分が軟禁されているという部屋にジュン達を案内する


「驚かないでね・・・」


そこには全身包帯巻きになって

生命維持装置に繋がれた変わり果てたアカリの姿があった。


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