真意の所在
ヘブンを脱出したジュン達は
タマエリアのジュンが保有する別荘に来ていた。
「手大丈夫?」
ブバルディアが心配するのも無理もない、
ジュンの右手からは出血を防ぐための
包帯がぐるぐる巻きになっていた。
ここに来るまでジュンは追跡を防ぐためにあらゆる手段を用いた。
まず、ジュンはインプラントチップを右手の皮膚をえぐり取り出した。
インプラントチップから直接追跡することはできないが
個人情報が記載されているため、実質使うことができない。
決済等を行うと決済した場所が特定され追跡されるからだ。
次にジャミングと光学迷彩を車自体に施すことによって
車の追跡もできないようにした。
当然盗聴器やGPSなどの発信機も設置されていないことは確認済みだ。
ブバルディアにも全身スキャナーして、
不審な電波を放つ機能をオフにしてもらった。
超高度情報社会はあらゆる情報で監視されている。
「やれやれ、やっと一息つけるな」
「ずっと、走りっぱなしだったものね。
あ、電源入れて大丈夫?」
「ああ、構わない、完全自家発電だしな
ただ、ホログラムなどの通信機付きのものはNGだ。
何にせよ、ここのカードキーを持ってて助かった。」
タマエリアの山の中腹にポツンと立つ一軒家の中に二人はいた。
山の中というのもあり、付近に住居はない。
「ここは追っ手はこないの?」
「ここを知ってるやつなんてそうはいないはずさ、
それこそ・・・」
ジュンはしまったと顔をしかめる。
「それこそ?」
「リュータとカノンくらいなものだ。
あいつら、俺たちとはぐれた後どうなったかな・・・?
俺たちと違って変な嫌疑にかけられてないといいけど」
この別荘はほとんど使ってなく、
ジュンが来たのは数えるほどだ。
幼い頃に両親と来た時とオペレーター就任祝い時に
リュータとカノンを一度招待した時くらいだ。
「私達だって何も悪いことしてないじゃない、
むしろシブヤを救った英雄よ?
逆にご褒美の一つや二つくらいあってもいいじゃない」
「あれは、失敗だった。
本来なら管制システムの破壊を阻止しなければならなかった。
もっと俺がしっかりしていれば・・・」
「誰にも活躍を認められないのがヒーローさんの辛いところね、
でもみんながなんて言おうが、私がしっかり覚えているわ」
「しかし本当に困ったことになった。
まさか、指名手配までかけられるとは・・・」
「ジュンは悪くないわ、
それもこれもみんな統制機構が悪いのよ!」
「どれもこれも状況的なものばかりだ、
統制機構が全て悪いと断言はできない。
最初は後で報告すれば何とでもなると思ったのだが・・・」
「もう統制機構、ぶっ潰しちゃえば?」
ブバルディアが頭が悪い人の顔をして発言する。
「無茶いうな、そもそもブバリアがいう
統制機構の黒幕とやらも全くわかっていないんだぞ」
「ねえ、外に誰か来てる」
ブバルディアはマジックミラーになっている窓から
外に誰かいることをジュンに伝える。
ジュンは慌てて、窓を覗くとそこにはリュータが
この別荘にやってくる姿があった。
「これは、嫌な予感しかしないな・・・
ブバリアはここに隠れていてくれ」
「アイアイサー!ジュンがやられたら?」
「その時は火星が滅ぶんだろ?」
「てへ、そうでした・・・」
ジュンは別荘を出るとリュータがいた。
「なんだ?お前一人か?」
「ああ、俺一人だ」
「嘘つくなよ、善良な一般市民から通報があってよ。
閃光弾みたいなもの浴びせられた際に女の子を拉致って逃げたって、
あの嬢ちゃんだろ?」
「善良な一般市民・・・ね」
高級クラブでアロハシャツにグラサンかけた
電子ドラッグのバイヤーが善良な一般市民ではないだろうと思いつつ
ジュンはリュータに尋ねる。
「なんでここがわかった?」
「すでにお前の自宅は捜査済みでよ、
他に心当たりがあるといったらここぐらいしか思い浮かばなかった」
「ちっ、お前をオペレーター就任歓迎会に呼んだのは間違いだったようだ」
「あっ、ひっでー、一応お前とは友達だと思ってたんだけどな」
ジュンとリュータは軽口を叩きながら、互いの隙を伺っていた。
「なぁ、リュータはアキハバラエリアのロボット暴走の件は知らないのか?
統制機構が事件自体を隠していたようなんだが」
「なんだ?唐突だな?いや、知らねぇ。
それとお前の今の状況はなんか関係あるのか?」
「ああ、統制機構は俺たちオペレーターに隠していることがある。
アキハバラエリアが壊滅したのも統制機構が情報を隠したせいで
オペレーターが誰一人救援に向かわなかったからだ。
俺は統制機構に嵌められたんだ」
「嵌められたという証拠は?」
「・・・ない」
「話になんねぇな・・・
それよりも、あの嬢ちゃんを渡しな。
指名手配が掛かっているのはどっちかというとむしろあの嬢ちゃんなんだぜ。
もし、嬢ちゃんを引き渡すのであれば、
お前を見逃すように上に掛け合ったっていい」
「さっきも言ったがここには居ない」
「居ないなら家入ってもいいよな・・・?」
ジュンは露骨にリュータの侵入をブロックする。
「邪魔するってことは居るってことでいいんだな?」
「ちっ」
ジュンは事前にセイフティを外していたトランスリミッターの引き金を引く。
パラライズブレットがリュータに向けて発射されるも
事前に動きを読んでいたリュータはパワードスーツで加速し躱す。
「いいぜ、お前とは一度本気でやってみたかったんだよな!」
「お前とだけはやりたくなかったぜ」
ジュンとリュータはパワードスーツで加速していく。
ジュンの左足下段からの蹴りをリュータは左腕で受け、
リュータの右手の正拳突きをジュンは左に避ける。
凄まじいパンチと蹴りの連打の応酬が始まる。
ジュンはリュータの攻撃を受け流しながら、
自分が別荘の入り口から移動させられていることに気づく。
そこに何らかの意図を読み取るもののリュータの足払いでバランスを崩す。
「くそっ」
「掛かったな」
そのタイミングを逃さずリュータはジュンを突き飛ばす。
後ろを振り向くと地面に電撃罠が仕掛けられているのを視認する。
あれに当たると感電して身動きとれなくなってしまう。
ジュンはとっさに体を反転しトランスリミッターで罠を撃ち抜く。
「俺の特製のパラライズトラップを撃ち抜くとは流石だな、
だが、この辺一帯にすでに仕掛けて置いたからな、
俺の方が圧倒的に有利だな」
リュータは倒れたジュン目掛けてトランスリミッターでパラライズブレットを発射するが、
ジュンはうつ伏せ状態から転がって回避する。
「それはどうかな?お前の罠のパターンは熟知している」
ジュンは耳に装着した未来を予測するデバイスを起動しておく。
こいつは脳への負荷が高いから切り札だ。
ジュンとリュータはトランスリミッターで互いに撃ち合いになる。
お互い一撃でも当たれば遠隔操作による電撃で負けが確定する。
周囲に銃撃音が響き渡るも誰一人駆けつけることはない。
銃撃を躱しながらジュンは岩陰、リュータは別荘の影に隠れ、
互いの隙を狙っていた。
先に動き出したのは、ジュンだった。
リュータの元へ一直線へ突撃していく。
「血迷ったか?撃ってくださいって言ってるようなもんだろ?」
リュータはパラライズブレットを何発も撃つも
尽くジュンに回避される。
その全てがジュンには弾道の軌跡がイメージとして
シミュレーションされていた。
「何故当たらない、何故撃ち返してこない!?」
(右足を狙う確率100%、
胴を狙う確率100%、
左腕を狙う確率100%、
頭を狙う確率100%、
左足を狙う確率100%)
やはりな、攻撃が銃のみに限定される状況下での予測は100%だ。
最も見てから躱すができるのが予測の前提条件だろうが・・・
焦れば焦る程、思考が単純化し行動が読みやすくなる。
ジュンはあっという間にリュータとの距離を詰め、
リュータの首根っこを捕まえると同時にトランスリミッターを眉間に突きつける。
脳が焼ききれるような激痛を悟らせないように平静を装いながら。
「俺の勝ちだな」
ジュンが勝利宣言するもリュータは不気味な笑みを浮かべる。
「いや、俺の勝ちだ」
リュータが手をあげると別荘の背後から銃撃音がし、壁が壊れる音がする。
その直後、ブバルディアの悲鳴が聞こえる。
「な!?」
「事前に呼んでおいたんだよ、軍事ロボットを、
お前がいるってわかってて一人じゃ来ねぇよ」
周囲を見渡すと実弾入りのマシンガンを持った体長3mほどの
横幅のある自律二足歩行型のゴツいアーマーロボットがジュン達を囲んでいた。
軍事ロボットのジェノーと呼ばれる対人無人殺戮兵器だ。
「くそっ」
ジュンはリュータにパラライズバレットを撃ち、電撃で動けなくすると
トランスリミッターに別の種類の弾丸を装填する。
トランスリミッターの銃身に電撃が走ると雷鳴のような音が響き渡り
超高速で放たれた雷の弾丸がジェノーの一体に命中し、黒焦げにする。
トールブレット、パラライズブレットよりも遥かに高電流を流す弾丸で
主にパラライズブレットが通用しない大型ロボットなどを止める際に使用される。
その破壊力の高さから人に当たった場合は殺傷能力があるので使用が制限される。
なお、パラライズブレットとは違い着弾時点で電流が流れる。
だが、トールブレットは上記の性質上、
トランスリミッターに負荷がかかるため、
クールタイムが必要で連射できない。
今倒したのを除いて別荘の周囲を計10体以上のジェノーに囲まれていた。
「まずいな」
ジュンは別荘の裏側に回り込むとジェノーの右腕に
ブバルディアが逆さ吊りの状態で捕まっていた。
スカートが捲れ、逆てるてる坊主のような状態になっていた。
「ちょっと、放しなさいよ!!」
ブバルディアはブンブン腕を振るもジェノーには届かない
「ブバリア!」
「ジュン!助けてー!」
ジュンがブバルディアを助けようとすると、
背後から別のジュノーに足を撃たれる。
「くっ!」
絶体絶命かと思ったその時、何者かがブバルディアを掴んでいたジェノーを狙撃し、
ブバルディアは開放され、ライフルを屋根に載せた車がジュン達の前に飛び込んでくる。
「ジュン、大丈夫?さぁ乗って」
「カノン!どうしてここに!」
「いいから!そこのお嬢さんも連れて突破するわよ」
カノンはブバルディアを担ぎ、
ジュンは足を引きずりながら車に乗り込むと急発進し、
蛇行運転しながらジェノーの包囲網をくぐり抜ける。
「まあ、そりゃ追ってくるわよね」
カノンが車のバックモニターを映し出すと
背後からジェノー達が追ってくる。
「あれを使うしか無いわね。」
カノンは車を自動運転モードに切り替え、
車の屋根に載せたライフルの照準をジェノー達に合わせる。
そしてライフルの設定を荷電粒子砲モードに切り替え、発射ボタンを押す。
ライフルに高エネルギーが収束し、プラズマの弾丸が射出される。
音速を超えて放たれた弾丸は追ってきていたジェノー達を貫通していた。
その後、大気が揺れ、遅れてきた衝撃波が車を襲い、揺れる。
揺れが収まるとブバルディアが感嘆の声をあげる。
「わー、びっくりした!お姉さんすごいのね」
「フフ、もっと褒めてもいいのよ」
「相変わらず、無茶苦茶するな、いつつっ!」
「ジュン、足撃たれたの?」
「どうやらそのようだ、靭帯じゃなかっただけマシだが」
ジュンは服の袖を破り、太ももに巻きつけ止血するも
布が真っ赤に染まる。
「何故俺たちを助けた?」
「私があなたの恋人、トオヤマアカリを殺したようなものだから、
これは私なりのあなたへの罪滅ぼしのつもりなの」
「どうゆうことだ?」
「あの日、アカリが事故現場に行ったのは私のせいなのよ。
私が統制機構本部からの調査の仕事を代わってもらったから」
「そうか・・・」
「それに統制機構の悪い噂も前々から聞いていたの、
時々オペレータに暴走ロボットの情報が流れないことがあるって」
ジュンは少し目を見開き、カノンの方を見る
「それはもしかして数日前のアキハバラエリアの壊滅事件も
関係あるかもしれないな」
「アグリってわかる?」
「みんな使ってる通販アプリのあれだろ?」
「そう、その噂が最初に立ち始めたのは
アグリの開発者にしてSR社社長の
ミナガワヨウイチが統制機構の管理者の一人として就任してからと言われているわ」
カノンはそのときのニュースをジュンにホログラムで見せる
「なるほど、大分前だが調べたほうが良さそうだな」
「これからどうするの?」
「イケブクロエリアに知りあいの闇医者がいる、そこに向かおう」
ジュン達はイケブクロエリアの闇医者の元へとたどり着き、
ジュンは足の傷の縫合治療を受け、すぐに歩けるようになる。
同時に右手の治療も行い、すっかり傷は完治していた。
治療が終わったジュンは医院の廊下を歩いていると
なんとミナガワヨウイチが訪れているのを目撃する。