サバイバーズ・ギルト
両親の発動体の効果が出てくる部分が壊れていた。
これは非常に強い感情による魔法を使ったことを示す。
そして自分が助かった時は、風に吹き飛ばされ母の魔法の芳香がした。
つまり。
両親は死の間際、自分を守るために魔法を使ったために、彼ら自身が助からなかったのだ。
アリナがそれに気付くのに長い時間は要さなかった。
故に、強い自責の念や後悔、哀しみ、さらには呪玉に対する憎悪にとらわれることになった。
これらの感情は、最も簡単に人を支配する。
それに十二歳などというものは、ひとときの感情に動かされやすいものである。
その源がサバイバーズ・ギルトによる罪悪感というものであれば、素直なアリナなら尚更苦しくなって当然だろう。
(酷い。許せない。どうしてあんな怪物がなんの対策もなしに、野放しになっているんだよ)
『やめるんだ、アリナ』
はっとする。
聞き覚えのない声が、自分に語りかけているようだ。
声のした気がする方向を素早く見回す。
しかし、アリナの近くにはすうすうと寝息をたてるアンナがいるだけだ。
(ああ。貴方は、誰なの?)
声の主は、アリナの問いかけには答えなかった。
代わりに諭すような声で、また一言分の声が聞こえた。
『その感情も、きっと想呪を生み出している。』
(——ああ。)
そうだ。
アリナは脱力した。こんなちっぽけな子どもの感情で、何が解決するわけでもない。
寧ろ、下手に怨念を募らせては新たな犠牲者を生むための手助けをしてしまう。
そりゃそうだ。
でも、それでも。
(……どうする? 感情を止めるなんてできっこないし……ただ……垂れ流しのままじゃいけないんだよな)
溢れ出る感情のエネルギーを、無意識に手で押し固めるように、集める。
そのエネルギーの集合は黒々とした玉になって、少しずつ膨張していった。
玉の周りを、紫色の閃光が駆けている。
エネルギーが最大限に溜まったであろう時、それを暖炉に投げつけた。
大きな音がして、暖炉のレンガが焼け焦げところどころにヒビが入った。
「……うああっ」
アリナ自身、自分のした事、いや、できた事に驚いた。
どうしようかと考えるまでもなく、感情を昇華する方法を見つけたのだ。
「お姉ちゃん、どうしたの……。すごい音がしたけど」
はっと我に帰り、薄く開けた目を擦る幼き少女がちらと目に入ると、心の中で苦笑する。
アンナを起こしてしまったようだ。
少々の申し訳なさと、妹をこれから守らねばならない、という責任感が無意識に湧いてきたようだ。
「ううん。なんでもないよ、アンナ。起こしちゃってごめんね」
そう言って、アリナは立ち上がり、キッチンに向かった。
その背の方からは再び寝息が聞こえ、確かにそこにある生きている命の存在を証明した。
アンナが再び目を覚ましたら、母のように美味しいご飯を食べさせてやりたい、と願う。
まずはそこからだ。
すっきりした心はなんとか前を向くことができたが、先ほどの声の主の事はすっかり忘れてしまったようだった。
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