なにこの雑いラブコメ
計らずパロネタ回になってしまったんで苦手な方はすいません
想呪対抗学の教室の扉に全身をぶっ叩かれたシャーロットを見下ろすのはなかなか滑稽なのだと、アリナは悟った。
「ああロッティ、ごめっ……wwwいやっほん、ごめwwwwwww」
「うるさいっ! ホント、いった〜い……」
半泣きのシャーロットは床に転がったまま何かをほざいていたが、アリナの笑いはどんどん加速していく。
「あっははははははははは!!!!!!! なんでwwwwwwなんでこんなとこにいるのっ、はははははは!!!
顔半分真っ赤だしwwwwww」
「いや、出待ち? っていうか! そろそろ来ないかな〜って待ってただけだから!」
「ドンマイ、ここのドアは外開きでした〜」
不確かな記憶ではあるが、この校舎を建設する際にお雇いのアジア出身大工が間違えて外開きに設計してしまったらしい。
その大工は「何やってんねん!」などと糾弾され、罰として三週間オヤツ禁止になったとかなってないとかだが。
特に不便でもないので、そのまま今まで外開きのままである。
お陰でシャーロットのように全身ビンタされる被害がしばしば発生しているが。
日々膨大なストレスを抱えて働いている教授にとってはちょっぴり幸せな笑いのタネとなっているため、ヨシ! としよう。
「そーじゃなくても、ドアにへばりついて待ってる必要ないから。フツーに見苦s……怖いし」
「……ねえまってアリナ」
なんの脈絡も無く豹変するシャーロット。
この状況が意味するのはただ一つ。
ねっとりした視線の先の、白衣を着た若い男性を指差した。
せわしく机間巡視をしている彼の目は前髪に隠されていて、良く見えない。
まずい、と思った。
何がと問われれば、シャーロットの名誉と彼の貞操が。
「ねえ……あのお兄さん、誰ぇ? その、なんていうか……ものすごぉくかっこいぃ」
またか、と思い深いため息をついた。
この女は逆ナン常習犯なのだ。
道ゆく人にしょっちゅう一目惚れしては、とにかく迷惑をかけてまくってからアリナに引き摺られ去っていくまでがテンプレートである。
大体週一回のペースで起こるこの症状を、アリナは密かに「セルフ媚薬大盛り発作」と呼んでいる。
よくもまあ、今まで通報されずに済んだものだ。
それに関しては精一杯の祝福を捧げたい。
怒りのゲンコツなどを添えて。
アリナ及びシャーロットの友人一同らは、以上のようにコメントしている。
「ええ……お兄さんってか、マシューの……教授の手伝いしてる院生だから。眼中にもないと思うよ、やめときな?」
「名前は?」
間髪を容れず訊くということは、シャーロットは既に倫理観を失い、哀れな猿と成り下がったということである。
要するに、手遅れというわけだ。
「えと、確か……シド・ブルーム? だっけ」
「ウホッ、いい名前……! それでそれで、どんな人?」
「そんなの知らないよ。あの人は実験とか解説してるだけだから、あたしは少しも喋ったことないし」
「……むう」
会話したことがないのは嘘ではないが、何にせよ情報は渡さない方が諦めてくれるものかと抱いた淡い期待はいとも簡単に破られた。
シャーロットは不満気な声を漏らすと、まだ講義が終わっていない中教室に侵入し、一目散に彼の元へ駆けて行った。
「ちょっ、ロッティ待って!」
紅色の底の高い靴で、よくもと思う程の速さだった。
通常フォルムシャーロットの三倍以上の俊足を、アリナは密かに「ヤンおばさんの襲来」と呼んでいる。
最近読んだ小説に影響を受けてしまうアレである。
たった三秒でシドに到着・ナンパ開始した。
こうなっては、もう手の施しようがない。
残念だが、シドには犠牲になってもらう他ない。
「はじめまして、私シャーロットっていいます。どうぞお見知り置きを」
「? どーも……」
シドは講義中に侵入していることには特に咎めず、怪訝そうに会釈する。
内気さを窺わせる猫背がシャーロットへの拒否感を物語っている。
「てかお兄さん、すっごくかっこいいね」
「ファッ⁉︎ 何言ってんスかアナタ」
「んふ、素直なキモチですよぉ」
ベタなナンパ文句を耳にしたシドもまた、ベタなリアクションをかました。
わかりやすく身を引き、口角の向きから嫌悪感がひしひしと伝わってくる。
こうかはいまひとつのようだ。
当たり前である。
「もー……いい加減にしてロッティ。すいません先生、注意はするんですけどこの子いっつもこんな感じなんで……」
「はあ。いっつもこれとは……心中お察しするっス」
「いやもうホントそうなんですよ、聞いてくださいよこの前なんか……」
「ねえアリナ、なんでもう被害者の会始まってんの?」
セルフ媚薬大盛り発作、略してセ媚盛は未然に防ぐ方法が未だ確立されていない。
現時点で分かっているのは、被害者の会を開けば鎮静化することぐらいだ。
「あれ、というか……シャーロット、さん? 顔半分どうしたんスか、だいぶ真っ赤に腫れてますけど」
「あっ……これは」
醜態を晒していたことに気付くと、途端にいつもの自信なさげな目つきに戻りそそくさと退場した。
いや、退場しようとしたところで、シドに肩を掴まれて引き止められた。
前髪とヒビの入った眼鏡越しに光らせたつぶらな瞳が眩しい。
「もしかして……アナタもドアビンタ食らったんですかァ?」
何かと思えば、これである。
側から見たら反吐が出るような成人男性のうるうるとした瞳に胸のときめきを感じつつ、シャーロットは震える声で答える。
「う、うん……実は。もしかして、貴方もそうなの?」
「ボクと同じじゃないですか!」
「私達は♪」
「「よく似てる(っス)ね〜〜〜♬」」
尚、このハモリは読者のみなさんの想像以上に酷いものとする。
「なに、この雑いラブコメ」
「失礼だな、偏愛だよ」
「いやラブコメにしないでくださいっス……」
ふと教室を見渡すと、兵器レベルの不協和音に耳をやられた生徒たちが数人倒れて動かなくなっていた。
閑話休題。
「おふざけはこの辺でよして、さっさと帰って下さいっス。講義の邪魔だし、そろそろマシューが帰ってくr」
「じゃ、最後にこれだけさせてぇ」
そう言ってフリルスカートのポケットから糸巻き状の発動体を取り出し、シドの顔に放った。
「ななな、何するんスか⁉︎」
「んふふ。眼鏡、割れっぱなしじゃ不便でしょ?」
柔らかな光がシドの顔を包み込む。
細い縁の眼鏡は見る間に新品同様の代物へと修復した。
魔法は苦手で、攻撃系のものは殆ど使えないシャーロットだが、このようなものは得意らしい。
ぴかぴかの眼鏡を満足そうに見届けた後、妖艶な笑み(のつもりの、非常に気持ち悪いニヤつき)を浮かべ。
「また遊んでね。シディーちゃん♡」
という捨て台詞とウインクを残し、颯爽と帰って行った。
出待ちの目的のアリナを置いて。
「「ホントなんなんだろあの女……」」
呆然と立ち尽くす二人を、ややキレ気味のマシューが仁王立ちで見つめていた。
ご立腹の理由は勿論、二人のハモリである。




