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哀憎使いの英雄譚  作者: しゅりりんね
デュエル
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別に要らんくね?

 トーマスは、明日のその向こうを眺めるような青い目を鈍く光らせて話し始めた。


「まず、魔法の仕組みについて説明すると。

思考や感情によって脳から神経に超〜よっわい電気信号、つまりは電流が流れるワケだが。その効果を身体の外に出し、増幅させて他の何かに影響を与えたり一時的に何かを出現させたりするのが魔法だ」

「なるほど。でもそういう話、あんま聞かないですよね」

「そうだな。発明された当初は小学校の授業とかで習ったらしいんだけどな。魔法の存在が当たり前になりすぎて、必修じゃなくなったらしいが」


 少なくとも俺は習ってねえ、と呟き足元に転がっていた小石を蹴飛ばした。

 石がコロコロと転がる音は競技場の騒がしい声たちに掻き消されてよく聞こえなかった。

 今頃、模擬試合でもやっているのだろうか。


「んで、発動体は弱すぎて全然使い物にならん電流を増幅・魔法に変換する役目がある。

つまり、魔法っつーもんは元々発動体があることが前提で存在してるんだ。だから、発動体なしで魔法が使えるなんてことは理論上あり得ねぇ」


 蹴飛ばした小石はうろついていた鴉の側で動きを止めた。

 もう空は薄暗くなっているというのにそれは力なく項垂れ、寝ぐらへ帰りに飛び立つ気配もない。

 ただでさえ憂鬱な気分になる日暮れどきだというのに、それを住処とする鴉ですら元気がないとはなんたる縁起の悪さだろうか。


「まあそれでも実際のところ、発動体無しに魔法バンバン使えるやつもごくたまーにいる。ちょうどさっきのお前みたいにな」

「じゃ、使える人はなんで使えるようになるんですかね。自分でもよくわかんないですけど」

「知〜らね☆」

「は?」


 トーマスの口から放たれた、インターネットに飽和している承認欲求に塗れた女性達がするような甘い口調。


 吐き気に似た感覚に襲われ、思わず辛辣な反応をしてしまった。

 恐らく三十は過ぎているであろう男性の「☆」口調はなかなか来るものがある。


 勿論、悪い意味で。


「いやー、スマンスマン。まあ本当に知らんし、それ以前に魔法自体状況証拠でしか証明できんらしーからな」

「? というと?」

「んあーっと、俺バカだからよくわかんなかったが。魔法で物を動かした時、何がどういう風に動かしたかは確かめらんねーけど、動いたという結果は確かだから『まー存在するっしょwww』っていう考え……」

「ああ……」


 アリナは、もうトーマスに質問した所で大して役立たない気がしていた。

 何となく仕組みや発動体を使う理由が分かっただけでも十分だが、専門的な事柄はマシューに訊いた方が早そうだ。

 それにしても不思議なのが、これほどまでに仕組みが知れ渡っていない代物(魔法)を、民衆は今に至るまで長い間なんの疑いもなく使い続けてきたという事実である。

 それが孕んでいる危険性を考えてみようとはしなかったのか。

 それが起因して大きな災厄が生まれるとは思いもしなかったのか。


 しかしそんなことを考えるのも、今となっては愚かなことなのだろう。

 アリナは溜息をついた。


「よくわかんねーモンではあるがな。スゴい能力であることは間違いないし、発動体なしでデュエルやってる奴に弱いやつは居ねーよ」

「えへぇ、ありがとうございます。そろそろ暗くなってきたんで、今日はこの辺で……あ、いやもう一個」


 もう特にトーマスから知るべき事もないが、なんとなく気になってきた事があるらしい。


 やけに白い部分が広い鴉の足取りが、だんだんとおぼつかなくなってきた。


「ヘンデルさんだったら、発動体ナシで魔法を使えるようになりたいと思いますか?」


 トーマスは発動体を使わない人間を「スゴイ」「強い」と肯定的に捉えている様だ。

 が、その能力を欲しがったり手に入れようとするのとはまた別である。


 トーマスは考えるような仕草もせずに即答した。


「いや、確かに尊敬はするがな。別に要らんくね?」

「うへ……やっぱりですか?」

「うーむ、アリナにこう言うのはなんか申し訳ない気もするが。発動体でもデュエルやる分には満足だし、使えたところで役に立ちまくるワケでもねーしな。あったらちょい便利なだけで、わざわざ苦労して習得するメリットはないんじゃねーの? 知らんけど」


 とどのつまり、高度な技術があっても利益は大して期待できないだけである。

 トーマスの回答はアリナもうっすらと想像していたものだったし、芽吹きかけた自尊心をすり減らすだけの結果だった。


「そうですか……まあ、そんなもんですよね」

「いやー、分からんよ。そうは言ってもデュエル競技者の見解の内のたった一つでしかないし。

俺は使えるからこそ得られるメリットを知らないだけだ」


 そうですか、と言い目を落とした先の鴉は知らぬ間にぐったりしていた。

 もう再び動き出す気配も無い。


「それじゃあ。今日はありがとうございました、また来ます」

「おう。じゃーな」


 投球練習しろよ、と笑うトーマスの声を背に受けてふらりと飛び立ち、少女アリナは宙の帰路についた。

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