レッツ・トライ・デュエル(仮)
「って感じで。なんていうか、すごい楽しそうだったんですよ!」
「分かったから。其の話、もう七回目だぞ」
興奮気味に話すアリナをなだめつつ、マシューは生徒達の資料をまとめていた。
四十枚ほどの紙の山の横には、紙切れ四枚が無造作に置かれている。
四枚の中には、アリナの名前が書かれたものもあった。
「ああ、すいません。とりあえず参加申し込みはしたんですけど。練習に行けるの、すごい楽しみです」
あれだけデュエル観戦に消極的だったのに。
一度ハマるとこうである。
うっとりしたような目で、明日の方を眺めた。
「そうか。で、お前」
一息ついたのか、くるりとアリナの方へ向き直った。
「アリナ、飛べるのか?」
「……ひゃい?」
飛ぶ、とは、空中を移動する、または飛行することを表す言葉である。
箒などに魔法をかけて飛行する技術は一般的であるし、アリナの幼馴染もよく箒を乗り回しているが。
彼が言いたいのは、生身での飛行のことであろう。
「いや、んなワケないですよ。あたし、人間ですよ⁉︎」
「は? 人間でも飛べるが。見た事無いのか?」
「いやいやいや。あるわけn……」
あった。
入学して間もなくの頃、だっただろうか。
食堂のステンドグラスの窓から飛んできた上級生を、アリナの左右色の違う目で、しっかりと目撃していた。
その上級生は箒を持たずにふわふわと飛んできて着地したあと、普通に知人と思しき人物と談笑していた。
実際に飛んでいる人はそう多くはないが。
難易度はさほど高くないのだろうか。
「ああ……そんな人いましたっけ」
「はァ……。その言い方だと、身近に習得者居ないな」
「はい、さっぱり。で」
どうにも、マシューの質問の意図が読めない。
デュエルの会話の途中で、なぜこんな質問をされるのか。
「飛べなかったら、どうにかなるんですか?」
どう考えても、想呪対抗学で身につける必要性は全くない。
それを、飛行に全く関係がない分野の教授に言及される理由が、理解できない。
思考を回らせていると、マシューが呆れたように口を開いた。
「如何もこうも。恐らくだが、練習に参加出来んぞ」
「……へ?」
放課後、飛べない少女アリナは、普段体育学部が使っているグラウンドの端で座り込んでいた。
マシューから借りた「二週間で飛行マスター」などと書かれた本を手に、わかりやすくため息をつくばかりである。
『あのイカれ競技、魔法の速度が尋常じゃ無いだろう。安全性を考慮して、飛行等で攻撃を回避出来ん奴は、試合どころか練習も禁止されてるんだ』
彼が言っていたことは、確かに公式ルールの一番上に記述されていた。
そんな大事なルールを、アリナが認識していなかったのは。
「ロッティ……なんで、あのメモに書いといてくんなかったの……ああ……」
とりあえず、彼女の胸中ではシャーロットのせいらしい。
『脚力があれば、跳んで避ければ良いんだが。その脚じゃ、鍛えるにも魔法整形にも無理があるだろ。
まあ、デュエルやらなくても、習得するに越した事は無い』
十五歳にしては細すぎる自身の足を見つめる。
確かに、この脚でデュエルをするのには無理がある。
「ああ……。もー腹括ってやるしかないか。飛べない人間はただの人間、って言うしね。
……がんばろ……」
本の文字を指でなぞる。
飛行するための手順や練習方法などがびっしりと書かれていて、アリナは内心うんざりした。
「ああ……まず。『飛翔欲求を心に溜め込む』……か。
……なにそれだるぅ……」
発動体を使わない魔法なので、普通魔法よりマナの消費も多いのだろう。
しかし、アリナの心にそんな余裕はなかった。
「ああ、もう。次は……。『感情のエネルギーを下半身、特に腰あたりに集中させる』……ね。
……意味不明……」
意識を下半身に向けることで、飛ぶためのエネルギーを調整する、的なことなのだろうが。
そもそも、感情のエネルギーを体感できる人間なんているのだろうか。
一応、それぞれの手順ごとに丁寧な説明がついているのだが、読む気も起こらない。
「んで……『タイミングを見て、軽く地面を蹴って、飛ぶ……』
……もうマジでなんなん⁉︎」
うんざりを通り越して、怒り始めた。
特待生とはいえ、元々勉強が好きというわけでもない彼女は、習うより慣れろ派なのだ。
抽象的な説明をされ続けるくらいなら、そんな教師は捨ててしまえ、と言わんばかりである。
ずいっと立ち上がり、混沌とした感情を無理に増幅させた。
一度深呼吸をして、地面を蹴り。
アリナは空中に飛び立ち——
一秒で着地した。
「うわあああああああああああああああん!!!!」
数キロ離れた所からは、狼——若しくは負け犬の遠吠えと聞き違う様な絶叫だったそうな。
おまけ
「でも脚力ならまあまあある方だと思いますけど? スープレックスできるぐらいだし」
「否、それは主人公補正と言うか御約束と言うかだから気にするな」
「あ、はい」
レッツ・フライ・デュエル改題、レッツ・フライ・フォー・デュエル




