選ばれたんじゃない
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「少なくとも、今迄に闇魔法を直接使う事が出来た魔法使いは、君一人だけだ。ミス・ノア」
「あ、アリナでいいです……」
初めての想呪対抗学の講義を受け、ちょっとした実力テストを受け、たった今、教授と一対一で随分と大きな事実を突きつけられた。
アリナは、この短時間での出来事を全て噛み砕くのに時間がかかっているようである。
「ええと。……どうしてそんな離れ技がこんな、どこにでもいるような者にできたんですか?」
「さあな。神のみぞ知る」
「ええ……? みそしるぅ……?」
「神のみぞ知る、な。そもそも、大抵の人は魔法を使う時、無意識に風等のエフェクトに変換してしまうんだ。其れを意識して止める事もそう簡単には出来ん。
……仕組みを理解してる奴が出来ないのに、何で何も知らん唯の学生が出来るんだか」
マシューは当たり前のように話すのに、アリナはよく知らない事ばかりだ。
あれから三年も経っているのに。
こんなに無知じゃいけない、と思った。
「とりあえず、この闇魔法が使えるのが凄いってことはわかりました。けど、わざわざ呼び出して、何の」
「そうだ、其れを話さねば成らん」
本来の目的を忘れてしまっていたらしい。
クールそうな目をしているが、意外と感情的になりやすいのだろうか。
人は見かけによらぬものだ。
「光魔法と闇魔法の実験には、私も興味を持ってな。呪怪を使って実験してみたのだよ。アリナ、此れを見てみろ」
そう言うと、奥の棚から紙やファイルを取り出してきて、アリナに見せた。
紙に印刷されている写真に写った呪怪は、大きかったり小さかったりと、全く違う様子をしている。
「此れはその時の資料だ。見れば判る通り、普通の攻撃系魔法よりも光・闇魔法の方が呪怪に大きなダメージを与えることができる」
「うわぁ、凄い。こんなに差が出るんだ。 ……ってことは」
マシューの目を見た。やはり、嬉しそうな目である。
「そうだ。君は呪怪を倒す為に必要だ。絶対に。……だから、お願いだ。呪怪と関わる事を拒まないでくれ」
なぜだろうか。胸騒ぎがする。
それを落ち着かせるように、すうっと深呼吸をした。
「マシュー」
「……何だ?」
「あたしの両親は、呪怪に殺されました。あたしの目を見て頂いたらわかる通り、あたしも想呪症候群にかかりました。これ以上失いたくない。失わせたくないです。——少なくともこんな方法では。だから」
なぜか涙が溢れそうになったが、必死でこらえた。
「あたしからもお願いです。あたしの手で、呪怪を殺させてください」
「……勿論だ」
最初の一歩を踏み切って、ようやく二歩目を探せる。アリナの顔がほころんだ。
「あと、もう一つ言わねばならん。アリナ、君は魔法を操るのは得意でないだろう? 少なくとも、闇魔法は」
「ああ……確かに、上手く扱えないんですよ。水魔法もそんなに……あ、普段は水魔法使ってます」
「そうか。なら、此れから先、水魔法も含めて扱いの練習をしておいてくれ。あのままじゃ、どうも危なっかしい気がしてな。言いたいことは此れだけだ、もう戻っていいぞ」
なんだか、幸せな気分だ。が、アリナの心に多少のつっかかりがあるようだ。
「ありがとうございます。……なんか、変な感じです。おとぎ話で読んだような、お前は選ばれし者だ、お前には呪怪を根絶させる使命がある、って言われてるみたいで」
それを聞いて、マシューは目を落とした。彼自身の中の思い出を探るような顔になった。
「選ばれたんじゃない」
捻り出したような声だった。
「選ばれても、使命を与えられても、アリナには関係ない。君が選んだから。君が君の意志でこの道を選んだから、君は呪怪に立ち向かうんだ。私も、私の意志で君達を選んだよ」
そう言うマシューの口元は、手で隠れていれど、緩んでいるのがわかった。
「そうですね。……マシュー、本当にありがとうございました」
マシューは、失礼します、と言い部屋を出るアリナを見送った。
アリナは晴れやかな心を胸にしまい、次の講義へと急いだ。




