一方、ソードマスター 1!
「パパ! 剣が軽いや!」
「ハハハッ! 当然だ、お前のクラスはソードマスターなのだからな」
我が息子ガズーは大人でさえ持つのがやっとな剣を軽々と振り回している。
職式の儀からたった数日で、師である元傭兵のメイド長マルサをも唸らせる仕上がりだ。
「さすがはお坊ちゃまです! 私がいなくても問題なさそうですねぇ!」
「マルサ! 僕は天才か?」
「もちろんです。例えば、ソードマスターの劣化とされている剣士のクラスならば、私から一本を取るなど不可能でしょう」
「フン! 劣化の奴らはかわいそうだな! だから冒険者なんてやるハメになる!」
「えぇ、えぇ。その通りですよ」
マルサのクラスは格闘士で格闘主体の戦いを得意とする。剣の扱いが得意ではないものの、何せ十歳のガズーに追いつめられたのだ。
まるで最初から剣の扱いを知っていたかのようだった。これがクラスの力、これがソードマスターだと再認識できる。我が妻アグネも、思わず見とれていたようだ。
「アグネよ、見たか」
「もちろんよ、あなた。とんだ未来の大器だこと。私の現役時代よりも、誰もが見惚れるわ」
「そういえば、お前は踊り手のクラスだったな。商人のクラスである私との間にガズーが生まれるとは……」
「ねぇ、そろそろステップアップしてもいいんじゃない?」
「ほう、というと?」
「マルサとの特訓だけじゃ、あの子も飽きるわ。他に誰か呼びましょ。例えば、それこそ剣士とか」
我が妻も悪い女だ。噛ませ犬を読んで、息子の肥やしにしようというのだ。
剣士ならば、そこら中にいる。息子が言っていた冒険者を適当に雇って相手をさせればいい。
「いいだろう。では手配しよう。おい!」
「はい! 旦那様!」
「今から冒険者ギルドにいって息子の相手を探してこい!」
「かしこまりました!」
指を慣らして、使用人を呼びつける。ギルドにいって依頼を出させるのだ。
依頼内容など、どうでもいい。息子から一本を取れたら金をやると言えばすぐに釣れるだろう。
どうせ冒険者など、日々の暮らしすらもままならんような連中ばかりなのだ。少しくらいは稼がせてやってもいい。
* * *
「クッ! やられたっ!」
「へへん! やっぱり冒険者はザコだな!」
集まった冒険者は全部で三人。一人目の相手はリッドとかいう若者だった。
顔はいいようで、アグネも熱を上げるほどだ。それとは別にしょせんは冒険者、息子の相手など務まるはずもない。
試合が開始してからリッドはすぐに息子に追いつめられて、膝をついて降参した。
「いやぁ、さすがはエドワールさんの息子だ。血筋からして違うのかな?」
「ハハハッ、当然だ。お前も冒険者にしてはよくやったよ」
「どうもです。あの、さすがにこれじゃ勝負にならないんで仲間と相談していいですか?」
「む、作戦会議か?」
「はい。一応、オレ達にもメンツがあるんで……」
「いいだろう! 存分にやってみろ! 無駄だろうがな! ハハッ!」
リッドが仲間達を集めて、そそくさと遠くに行く。この広い庭に冒険者がポツンと三人。よりちっぽけな存在に見えて、可笑しく思えた。
「はい、準備できましたぁ! 始めましょう!」
「よし! 息子、やってしまえ!」
「なんだか、さっきより体が軽いや!」
ガズーが剣を巧みに操り、続く冒険者も追いつめる。冒険者の剣が甲高い音を立てて、息子の刃に弾かれた。
「あー! ダメだぁ!」
「お前、さっきの奴より弱いな! 次!」
最後の冒険者は少し粘ったようだ。息子と数秒間、剣同士をぶつけ合った。
しかし、しょせんは下位クラス。生まれ持ったクラスには勝てんのだ。
「こ、降参!」
「なんだぁ! 作戦とか言っておきながら、全然ダメじゃないか! アハハハッ!」
「ガズー様はさすがソードマスターですよ。そりゃ俺達なんかが敵うわけありませんって」
「物分かりがいいな! ねぇパパ! かわいそうだから、少し恵んでやってよ!」
息子の頼みだ。三人に少ないながらも恵んでやれば、大喜びだった。
こんなものペットの餌代にすらならん額だというのに。ますます哀れでならない。
私のように先代からの財産を引きついて、この街を取り仕切っている貴族とは比べようもないな。
あまりに退屈な結果だ。そこでアグネを見習って、私も一つ考えるか。
「おい、お前達も冒険者ならば腕利きの者くらい知っているだろう。そいつを教えろ」
「俺達より強い奴ですか? そりゃいますけど……あ! そうだ! すげぇのがいますよ!」
「ほう! どいつだ!」
「ちょうど、この街の宿にあの剣聖マルクトが滞在しているんです! この前、挨拶に行きました!」
「剣聖だと! それはいい!」
剣聖マルクト。王国騎士団の騎士団長、"英雄"の師匠という話だ。このザコどもよりだいぶ格上だが、まぁ問題ない。
「俺、今からダッシュで声かけてきます!」
「うむ! 頼むぞ!」
「お、おい! リッドォ!」
走り去るリッドを追いかける二人の冒険者。あわよくば、また恵んでほしいのだろう。そう思うと、少しだけ可愛げがある奴らだ。