ガズーと決闘!
朝、街の広場に大勢の人達が集まっている。私もゴーレムの調整を終わらせてから行くと、ガズーが腕を組んで待っていた。
私を見つけると鼻で笑ってから剣を抜く。
「おい、お前。逃げ出さずによく来たな。これから僕に負けるわけだが、何か言う事はないか?」
「私が勝ったら傷つけた冒険者さん達に謝って」
「何を言ってるんだか。お前はこれから僕に負けるんだよ。わかる?」
「謝って」
ガズーが広場の石畳に剣の切っ先を立てる。見たところ、質が高い剣だ。この街で売られてないと思う。
素材名:フランベルジェ
ランク:B
状態:普通
効果:攻撃+360
「何だよ。ジロジロと気持ち悪いな」
「鉱石はいいのにもったいないなぁ……」
「何だと!」
何を斬ったかわからないけど、手入れをしてないから少し刃こぼれしてる。このままだとダメな状態になると思う。
使われている鉱石がいいから、まだ何とかなってるだけだ。
「じゃあ、相手は1号でいいよね」
「どいつでも同じさ。フンッ、えらく物騒な見た目だが見掛け倒しで終わらないでくれよなっ!」
いきなりスタートだ。昨日よりも速くて力強く、ガズーの剣がゴーレムの頭を狙った。
鉱石の質が高いおかげで、ゴーレムに甲高い音を響かせている。
「固いなぁ! うわぁ!」
1号が回転斬りをすると、素早く後ろに下がる。その隙を見逃さずにポイズンスピアを放って、ガズーの顔の前で止まる。
「……終わり、だよね?」
「は、はぁ!? これからだろッ!」
今度は石畳を蹴ってから剣でのフェイントだ。1号が反応した直後に、ガズーの追撃が右肩に入った。
1号 耐久 223/230
「ちょっと欠けたぞ! やっぱりガラクタ」
ガズーが安心した後に1号が片手のアイアンパンチが炸裂! 勝負が終わってない!
ガズー 耐久 62/80(推定)
「うげっ……」
少し当たったみたいだけど、寸前でかわした。だけど何か変だ。
ガズー 耐久 54/70(推定)
「さぁ、勝負は……まだこれからだぞ……ハァ……ハァ……」
「ガズー、大丈夫?」
最初にかわした時は絶好調だったと思う。だけど今はなんだかすごく消耗してる。
ただ消耗してるんじゃなくて、体全体がしぼんでいくような。そんな感じかな。
ガズー 耐久 43/64(推定)
「おおりゃぁぁ!」
動きも鈍くなってるせいで、1号が簡単にガズーの剣を受けた。その後、力が抜けたようにガズーがずるりと倒れかける。
「ハァ……ハァ……」
ガズー 耐久 35/56(推定)
もう立ってるのがやっとに見える。そして剣を落として膝をついた。
さすがにこれ以上、続けられない。皆も同じ事を思ったみたいで、ガズーの元へ寄ってくる。
「何だよ、まだ、やれる……」
「馬鹿な事を言うな! すごい発汗で顔色も悪い! すぐに治療院に連れていく!」
「ガズー!」
見物していたエドワールとアグネが出てきた。ガズーを連れていこうとしていた皆を押しのける。
「邪魔だ!」
「エドワールさん! その子を治療院に」
「まぁ慌てなさるな」
どこからともなく、ゆらりと姿を現したのはマルクトのおじいさんだ。その隣にいるのはリッドさんで、片手に小袋を持っている。
一番、驚いたのは縛られながら歩いている知らない人だ。
「マルクトにリッド! それにそいつは……」
「この者がすべて吐きましたぞ。ほれ、こいつをガズー君に飲ませなさい」
「このジジイ! 何を飲ませる気だ!」
「息子の命が惜しくなければ飲ませろと言ってるのだッ!」
声の大きさだけで、ビリビリとくる。腰を抜かしかけているエドワールに代わって、マルクトさんが小袋から何かを取り出した。
ガズーに飲ませたそれは薬かな。最初は呼吸を荒げていたガズーも、段々と穏やかになっていく。
「なに、何だ。どうなってるんだ?」
「まぁ、私はただの付き添いです。リッド殿」
「はい」
何だか雰囲気が違う。別人みたいな顔つきでエドワールとアグネの前に立った。
「話はこのシモンから聞いた。アグネさん、こいつから薬を買ったんだってな」
「し、知らないわよ! そんな男、見たこともないわ!」
「呆れたおばさんだな。この悪党は素直に吐いたってのによ」
「悪党……?」
リッドさんがシモンという人のマフラーを剥ぎ取る。同時にその人の顔が書かれている紙を見せつけた。
あれはもしかして手配書という紙かな。シモンという人は悪い人だった?
「薬師ヤフス。違法薬物製造、販売の罪で国内で指名手配されている。顔を隠していたとはいえ、何もチェックしてないんだな」
「し、指名手配……」
「まだ知らぬ存ぜぬか? 少なくとも、あんたのところのメイドは知ってるみたいだけどな。ほれ」
「マ、マルサ!」
警備兵に拘束されたマルサがしょんぼりしてる。何がどうなってるんだろう。
「この女が必死こいてヤフスを探していた。幸い、俺達が先にこいつを確保できてよかったよ」
「マルサ! 帰らないと思ったら何をやっていた!」
「すみません、旦那様ァ……。もう逃げられませんよぉ」
「おのれ……どいつもこいつも! リッドとか言ったな! 一介の冒険者風情がマルクトと組んで粋がるな!」
「はぁ……じゃあ、もういいかな」
リッドさんが道具袋から取り出したのは何かのシンボルが刻まれたカードみたいなものだった。
その途端、皆の表情が固くなる。エドワールもアグネも、呼吸が止まったみたいに何も言わない。
「そ、そそ、それ、は」
「そんなに権力が大好きなら、こいつには逆らえないってわかるよな?」
「馬鹿な、偽物だ、ありえない、ありえない……」
あのシンボルはもしかして。私も何となくわかった。
「俺はフェルメール国、第二王子リッド……。エドワール及びアグネ。横領、収賄、買収の容疑といえば身に覚えがあるな?」
名指しされた二人がその場に座り込んじゃった。王子様? リッドさんが?