ガラクタじゃない!
「おい、お前! クーリエだな!?」
ガズーが私に怒鳴って、倒れている冒険者さん達が見上げる。
三体のゴーレムにビックリしたのかな。ガズーは次の言葉がなかなか出てこない。
「ガズー、どうしてこんな事するの」
「そ、それがゴーレムか! フン……思ったよりガラクタだな。動いているのが不思議なくらいだよ」
「ガズーの家はお金持ちだし、お父さんもお母さんも優しくしてくれる。それで十分でしょ」
「十分? 何が?」
ガズーは本気でわかってない。それがどんなに恵まれている事か。当たり前だと思ってる。
エドワールとアグネは私には冷たかったけど、ガズーは愛されている。泣いた事はないけど、少しだけ羨ましいと思ってた。
「この小娘、本当にゴーレムを作ったのね。ガズー、いい機会よ。立場をわからせてやりなさい」
「あんなガラクタ、僕がぶっ壊してやるよ!」
ガズーが勢いよく1号に斬りかかってきた。こっちも片腕の刃で受ける。
「こ、こいつ!」
「ガズー、もうやめて」
「まぐれで粋がるな!」
ガズーが剣で連撃を繰り出すけど、マルクトさんのおかげでゴーレムの反応速度は上がってる。
回転を混ぜつつもガズーの剣を次々と弾いた。
「上半身が回転した!? キモいな!」
「人間に出来ない動きが出来るのもゴーレムの強さだよ」
「そこのカス冒険者よりはマシじゃないか。だけど僕だって全然、本気を出してないんだからな」
「カスじゃないよ。その人達も本気だったと思うけど、魔物相手じゃないからね」
「負け惜しみだっ!」
「待ちな」
リッドさんが割って入ってきた。振り切ったガズーの剣を軽々と剣で止めている。
ガズーがいくら力を入れても、リッドさんは涼しい顔をしていた。
「お坊ちゃんにおばさんよ。これはさすがにやりすぎだろうよ」
「は!? お、おばさん? 誰に向かって口を利いてるの!」
「いろいろ調べてわかったんだがな。この街におけるあんた達の評価は地に落ちている。身に覚えはないか?」
「ないわよ! それより、どけなさい!」
「周りを見てみな」
アグネがハッとなって、集まってる人達を見渡した。怯え、呆れ、怒り。口に出さないけど、顔を見るだけでわかる。
リッドさんがガズーの剣を軽く弾いてから、距離を取った。
「馬鹿じゃなけりゃわかるだろ。あんた達が地位にあぐらをかいてるうちに、こうなっちまったんだよ」
「何よ! 誰のおかげでこの街に住めると思ってるの! 嫌なら出ていきなさい!」
「本当に出ていかれたら困るのはあんた達だろう。もう一度、周りをよく見てみな」
今度は周りを見ようともしない。ガズーの手を引いて、この場からそそくさと逃げた。
ガズーが振り向きながら、すごい顔をして私を睨んでいる。
「おい! お前! このままで済むと思うなよ! 次はもっと強くなってそのガラクタを壊してやるからな!」
「ガラクタじゃないもん!」
「だったら勝負しろ! 明日! 広場で!」
「……いいよ!」
「逃げるなよ! 明日の昼に広場にいろ! 他の奴らもだ! 僕のほうが強いんだってわからせてやる!」
叫びながらアグネに手を引かれてガズーの姿が見えなくなった。
周りの人達は何かヒソヒソと囁いている。アグネとガズーの悪口が聴こえてきた。
「はぁ……。この街も変わっちまったよな。前の町長はよかったのに……」
「あんなのが上にいるから、この街も人が離れるんだよ」
「冒険者さん。大丈夫か?」
冒険者さん達が街の人達に手当てを受けている。私のほうにも寄ってきて、心配された。
「君もあんなの相手にしなくていいからね。そのゴーレム……というのか。すごく強いけどあいつら、何してくるかわからんよ」
「そうそう。この街を出るって言ってたよな。明日の朝にでも発ったほうがいい」
「でも、街の警備兵が通してくれなくて……」
「奴らは国の兵隊だが、どうも怪しい」
リッドさんが警備兵について話してくれた。裏でお金をもらってる人がいるみたい。買収っていってた。
厳戒態勢というのも、私を街から出さないためじゃないかとリッドさんは言う。
「あのお坊ちゃんの強さも謎だ。この前、手加減して遊んでやった時なんかひどいもんだった。見たところ、動きは素人そのもので身体能力だけが跳ね上がってる」
「ちょっと息をきらせてた」
「何だって?」
「逃げる前までは何ともなかったのに突然でした。ほんの少しだけど……」
「よく気づいたな」
ガズーとはそれなりに一緒にいたから、癖や体力が大体わかる。リッドさんの言う通りだ。あれはガズー本来の力じゃない。
「リッドさん。私、ガズーと戦う」
「いや、そんな必要はない。すぐに終わるからな」
「終わる?」
「こっちの話さ。それよりやめておけ。そこの街の人も言ってたが、どんな手を使ってくるかわからんぞ」
「いいんです。私もガズーに腹立ちましたから、コテンパンにします」
「……それなら止めないぞ。思いっきりやれ」
プロドスに行く前にガズーとは決着をつけたい。最初はガラクタだったゴーレムだけど、今は立派に戦えるところを見せてやる。
勝ったらもう不遇職なんて言わせない。少なくとも私はゴーレムを作ったんだから。