許せない!
「街から出られない!? なんで!」
「厳戒態勢中だ。君も家に帰りなさい」
何度も理由を聞いたけど、同じ事しか言わない。
明後日、プロドスに行く前にゴーレムの最終調整を終えたかったのに。引き返して別の場所で調整するしかなかった。
人があまりいない街外れに向かう途中、なんだかガヤガヤしてる。あそこは冒険者ギルドの前だ。
「おい、お前! 僕と勝負しろ!」
「へ? 俺とガズー様がですか?」
「そうだ! 僕が勝ったら冒険者をやめろ!」
「いやいや、そんなわけにいかないでしょ。そもそも町長のご子息と剣を交えるなんてな」
「あら、怖いのかしら?」
あれはガズーとアグネだ。人だかりが出来ていて、ガズーが冒険者さんに剣を突きつけている。
冒険者さんのほうは困った様子で何とかこの場を離れようとしていた。
「怖いっすよ。じゃ……」
「おい、お前」
「うっ……!」
ガズーの剣が冒険者さんの顔をギリギリかすめる。口癖の「おい、お前」は相手を見下してる証拠だ。私も何回も言われた。
「お前、それでも冒険者か? 僕が子どもだと見下して、怪我をさせたらどうしようとか考えてるだろ?」
「そんな事ないですよ」
「冒険者のくせに安全な戦いしかしないのか? それでよくこの街にいられたものだな!」
「勘弁して下さいよ……。俺、これから仕事なんです」
「だったらこうすればどうだ!」
ガズーが剣を振ると、冒険者さんが後ろに下がってかわす。今のは殺す気で振っていた。
さすがの冒険者さんも渋々、剣を抜く。
「……いくら町長の息子といえど、さすがにやりすぎでしょう」
「怒ったか? フンッ! かかってこいよ、ザコ!」
冒険者さんは怒ってるけど、さすがに本気は出してないと思う。だけど、ガズーがすごい。
冒険者さんの剣がどんどん弾かれて、かなり苦戦していた。
「くっ……!」
「どうした! お前、どうせ剣士だろ! だから弱いんだよ!」
「調子に乗るんじゃねぇ!」
「おっと」
冒険者さんが怒って、今度は本気で攻撃した。だけどそれを簡単に剣で受け止めるガズー。
大人と子どもなのに、冒険者さんのほうが押されている。
「な、なんだ、この力……!」
「お前さぁ、まだ何が足りてないかわかんないの? 僕はソードマスターでお前は剣士、敵うわけないじゃん」
「うあっ!」
ガズーに押し切られた冒険者さんは尻餅をついてガズーを見上げた。
立ち上がろうとする冒険者さんにガズーが蹴りを入れて倒す。
「うぐっ……」
「剣士が努力したってせいぜい城の門番だよ。アルヴェインを知ってるだろ? あいつは僕と同じソードマスターだから出世できた。
英雄ってのは自分がなるもんじゃないんだ。クラスが選ぶんだよ」
「さぁ! 次の相手は誰かしら? オホホホッ!」
冒険者さん達が青ざめている。あのガズーが普通じゃない強さだとわかったんだ。
そんな冒険者さん達の顔をアグネが覗き込んでる。
「ねぇ? どうしたのかしら? 怖気づいたなら、とっとと出ていってくれない? 小汚い乞食みたいな恰好で私の街をウロウロしないでちょうだい!」
「調子に乗るなよ、ババア! その代わり、負けたら覚悟は出来てるんだろうな!」
「何の覚悟かしら? ガズー、相手をしてやりなさい」
「うん、ママ。コテンパンにしてやるよ」
冒険者さん達が勝つと思っていた。それなのにガズーは大人の冒険者さんを圧倒して一人、また一人と倒していく。
今度は本気なんだと思う。剣を軽々と扱って、まるで遊んでいるようだった。そしてついに一人の冒険者さんがバッサリと斬られる。
「ぐあぁぁっ!」
「まずいぞ! 早く治療院に連れていかないと!」
「警備隊は何をしてるんだよ! 通報したんだろ!?」
「そのまま死ねばいいよ! ゲラゲラゲラ!」
怪我を負った冒険者さんが二人の大人の人に支えられて連れていかれた。他の冒険者さんも、ガズーに言われるがままだ。
「ほら見ろ! ソードマスターの僕が一番強いんだ! この世界ではクラスが絶対なんだ! 僕は選ばれた!」
気がついたらグッと拳を握っていた。一歩ずつ、ゴーレムと一緒に人混みをかき分けて進む。
「お前らは選ばれなかった! かわいそうな奴らなんだよ! いいか、よく聞けよ? 僕はパパの跡を継いでこの街の町長になる! いや、支配者だ! そうなったら駄クラスの居場所なんてない! 全部、追い出してやる! 嫌ならペコペコと頭を下げるんだな!」
ガズーが大声を上げている前で、皆が怯えている。子どもが大人達を圧倒したんだ。怖いに決まってる。
ソードマスター、確かにすごいクラスだ。これじゃ魔導機師が不遇職なんて言われちゃうのもしょうがない。
ガズーが言う通り、出世してお金持ちになるんだと思う。
「生まれた時から神様に見放された不遇職の哀れな奴らは今、手を上げろ! パパはお金が大好きだからね!
たくさんお金を上げたら、機嫌よくなると思うな? あっ……不遇職だからお金を稼げないのか……プッ、ハハハ……アハハハハハハハハハハ! ヒーヒヒヒ……ヒー……あぁ笑いすぎてお腹いたいよぉ。ん?」
ガズーの前に出ると、私に気づいた。