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時代遅れの価値観!?

「エドワールさんはこのような美人の奥さんと結ばれて幸せでしょうなぁ」

「オホホホ! 褒めても何もでないわよぉ!」


 昼下がり、夫がいない時に尋ねてきたのは薬師のシモンという男だった。最初はうさん臭さを感じたけど、思ったより気さくな人で安心。

 美肌効果がある化粧水の試供品をくれたのだけど、これがすごい効果! 肌に艶が出て、十年以上は若返った気分!


「あなた、いい商品をお持ちなのね。どうして流れの薬師をやっているのかしら?」

「定住して店を持つのは性に合わないというか……。こうしていろいろな土地でいろいろな方とお会いしたかったのです。例えば奥様のような美人とか……」

「まぁ! 隙あらばお上手! ウフフッ!」

「奥様のような方になら、いい商品を提供できそうです。いえ、私も売る相手は選んでいるものでね……」

「あら、そうなの?」

「商品価値がわからないような方には扱ってほしくないんです。こう見えても私は人を見る目だけはあります」


 シモンさんがバッグから取り出したのはいくつかの薬だった。見ただけじゃ何の効果があるのかさっぱりわからない。


「……時に奥さん。何か悩まれている事は?」

「え? 悩みねぇ……」

「旦那さんや息子さんの事でも……」

「……ガズーがね」


 ガズーについて、シモンさんにすべて話した。ソードマスターという恵まれたクラスでありながら、息子に上達が見られない。

 夫もソードマスターは不遇職ではないかと疑っている。シモンさんは黙って頷いて聞いてくれた。


「なるほど。それは問題ですね。しかし奥さん、結論から言えばソードマスターは不遇職ではありません」

「どうして? それならなんでガズーはいつまでも強くならないのよ」

「それはきっと古い価値観や考え方が蔓延しているせいです。汗臭い訓練をしてこそ上達する……。

古い人達はそうやって強くなってきましたから、今も尚そういった考えが根づいているんです」

「今は違うの?」

「はい。方法論も日々、進化しておりましてね。今ではそんな辛い事をしなくてもいいのです」


 衝撃だった。シモンさんによれば、普通に訓練しても遠回りになるだけみたい。

 特にソードマスターは他のクラスとは違って飛び抜けた存在だから、まさに普通ではダメってこと。


「今では訓練よりも、摂取して体を作るのです。息子さんはまだその体が出来上がっていないのでしょうけど、ご安心下さい。私がすべてお教えします」

「まぁ! それは本当に?」

「えぇ、まずはこちらの薬を毎日、摂取して下さい。これは細胞の成長を促進させる薬です。

次にこちらの薬はより集中できるようになる薬です。集中力、おわかりですよね。これが高まればより早く反応できます」

「こんなものがあったのね……。あのマルクトは嘘をついていた?」

「彼も古い人間代表のような方ですからね。悪気はないのでしょうが仕方ありません」


 方法を教えてくれるけど、決してマルクトを貶したりはしない。そんなシモンさんの人柄が私の心を打った。

 この人が今日、訪ねてこなかったら私も古い価値観にとらわれたままだったんだから。


「息子さんはいらっしゃるので?」

「ここに呼ぶわ。ねぇ!」


 手を叩いて、使用人を使ってガズーを呼びに行かせた。すっかり元気がなくなったかわいそうなガズー。

 虚ろな目で私の隣のソファーに座った。だけどシモンさんの丁寧な説明を聞くうちに、少しずつ元気が出てきたみたい。


「それほしい!」

「えぇ、もちろん買うわよ」

「これで強くなれるんだね。フフフ、パパったら最近はあのクーリエの事ばかり考えていたからなぁ。目を覚まさせてやる」


 私もガズーも乗り気だけど、一つ気になった。


「でも高いんでしょう?」

「少々値は張りますが、安く提供しますよ。価値がわかる方に使っていただきたいですからね」

「そう、それなら買うわ」

「はい、ではこちらを」

「さっそく飲んでもいいの?」

「もちろんです」


 ガズーが薬を飲む。少し待ってみたけど、特に何も変わらなかった。試しに剣を振らせてみても、ガズーは訝しるばかりだ。


「シモンさん。どう変わったのかしら?」

「ガズー様。少し体が軽くなられたのでは?」


「ほ、本当だ……」


 ガズーが何回か跳ぶと、少し高さが上がってる。しかも重い剣を持ったままだ。

 目を疑ったけどガズーが素振りをすれば、見違えるほど速い。


「す、すごいわ! 一回、飲んだだけでこんなに!」

「効き目に個人差がありますがガズー君には才能があるのでしょう。飲み続ければ、あのアルヴェインを超えるかもしれません」

「ガズー! よかったわね! これで強くなれるわ!」


「へへっ……。なんだか気分がいいや」


 ガズーがすっかり元気になって、室内を軽く走る。明らかに身軽な動きは、踊り手(ダンサー)でもやっていけそうなほどだ。

 

「どうです、奥さん。いかに古い価値観が忌むべきものか、ご理解いただけたと思います」

「えぇ! あのマルクトに文句を言ってやりたいわ!」

「ハハハ、そのうちガズー様のほうが強くなりますよ」


「クーリエめ。ゴーレムだか知らないけど、ソードマスターの僕が痛い目にあわせてやる。覚悟しろよっ!」


 ガズーが速い素振りで意欲を示している。この子がクーリエのゴーレムより強くなったら、熱を上げている人達も目を覚ますはず。

 この街の支配者が誰か。優れたクラスは何か。思い知らせてやる。

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