夜襲も何のその!
一日が終わって夜、宿泊所で毛布を被る。
お金も溜まって準備も整ってきたから、いよいよ工業都市プロドスに出発する日を決めた。
この街に来てから嫌な思いをしてばかりだったけど、今は冒険者としてなんとか暮らせている。
リッドさんや街の皆に良くしてもらったし、ゴーレムも最初の時からすごく強くなった。
出発は一週間後。まずはシダルの森を抜けた先にある村で休憩して、次にシダル山道だ。
山道を歩く事になるから、こっちの準備もしないと。
「……え?」
今、誰か入口にいたような。私が見たら慌てて体を引っ込めた。帰ってきた冒険者にしては変な行動してる。
少し考えてから宿泊所を出て、受け付けに行った。おじさんがまだいるはず。
「今、誰か通りませんでした?」
「ん? 冒険者じゃないか?」
「どんな人でした?」
「さぁ……」
何か書き物の仕事に夢中だったみたい。でも誰かが通ったのは間違いない。
ちょっと気になるけど、何かあったらゴーレムが守ってくれるから今夜は寝よう。
* * *
旅の準備のために今日は導具屋にやってきた。寝袋だけだと雨が降った時に大変だから、簡易テントがほしい。
今のゴーレムがお空を飛んでビューンって行けたらいいんだけど。
2号で持ち運びできる簡易テントはいくつかあるけど、さすがに安いものから高いものまで種類が多い。
「どれにしよ……」
また視線を感じた。導具屋の出入口から出て行く後ろ姿が見える。
急いで追いかけたけど、外にはたくさんの人が歩いていて誰かわからない。
「何だろ……」
じっくりと考えた。誰かが私の事を見ている。ゴーレムが目立ったせいかもしれない。
何かをする隙を伺っているのかな。どうしよう。このまま見張られ続けるのも嫌だ。
冒険者ギルドに帰ってから、ゴーレムの回路を修正した。あとは――
* * *
夜道を歩いているとやっぱり誰かがついてくる。どんどん歩いて、廃材置き場のほうへ行く。
ここならほとんど人が来ない。それでもまだ誰かついてくる上に突然、走り出した。
その途端、ゴーレム1号の頭がぐるりと半回転する。
「ぐあぁぁっ!」
サーチライトを当てられて、誰かが目元を抑えていた。人がいない場所なら油断してくれると思ったし、何かしてくるなら撃退しやすい。
怯んでいる隙に2号が抱きつくようにして抑えた。地面に落ちているのは槍かな。この人の武器だと思う。
「あなたは誰ですか? どうしてついてくるんですか?」
「な、何の事だ! 俺はたまたま」
「今のゴーレムなら、大人をぺしゃんこにできますよ!」
「うぎぎ……ゴーレムを連れて歩く少女を、連れてこいって……頼まれたんだ……」
「誰にですか?」
「し、知らない……」
「ぺしゃんこー!」
「わかったわかった!」
もちろん本当にぺしゃんこにしない。でもちょっと力を入れただけで結構痛いはず。
その証拠にかなり苦しそうな顔をしてる。
「マルサ……知ってるだろ?」
「エドワール家のメイド長のおばさん!? いっつも叩いてきた!」
「元傭兵のあの女は、その手の連中に顔が利くのさ……」
「おじさんは傭兵なの? エドワール……あの人はどうしてこんな事をするの?」
「さぁな……俺は金さえもらえりゃ何でもよかった。だからお嬢ちゃん、気をつけるんだな」
おじさんがニヤリと意地悪く笑う。
「俺みたいな安い金で雇われるような後がないロートルでよかったな。もっと上手の怖い大人達じゃなくてよ」
「ぺっしゃんこっ!」
「いぎぎぎわわるかっだぁぁぁ!」
「おじさんは警備隊のところに連れていきます」
2号がロートルおじさんを抱いたまま移動を始めた。近くにある警備隊の詰め所におじさんを連れていくと、警備兵の人達がさっそく確認してくれる。
質問をしていくうちにロートルおじさんの事がわかってきた。
「傭兵崩れのおっさんが、こんな子ども相手にねぇ。世も末だな。しかも雇い主は町長だって?」
「名前はオルドー……。クラスは槍兵。傭兵時代に足を負傷して引退してからはろくな仕事につけず、ズルズルと安金の仕事で食いつなぐ。若い頃はそれなりに腕が立つ奴だったみたいだな」
「槍兵はそこそこ恵まれたクラスだってのに、もったいない。でも、それで食っていけなくなったらどうしようもないからなぁ」
いいクラスに目覚めても、怪我をして続けられなくなる人が多いみたい。
このオルドーさんみたいに、変なお仕事しか出来なくなる。例えば槍兵でお仕事ができなくなっても、料理店で働かせてもらえない。
私みたいに調理師のクラスじゃないからといって断られちゃう。
「いい治癒師に治療してもらう金もない……。だからマルサから声がかかった時はやれるって思ったんだ」
「雇い主に足のケガの事は伏せてたんだな?」
「あぁ、言えば俺なんかに依頼しなかっただろうよ。相手がただの子どもとくりゃ、やれると思ったんだ」
「この子は街でも有名だからな。そこのゴーレムはネームドモンスターを討伐しているともっぱらの噂だ」
「ケッ……。恵まれてる奴は恵まれてるもんだ。いや、俺もガキの頃は不遇職の奴を馬鹿にしてたか」
「あんたにその気があるなら、味方になってくれないか? この子次第だが、態度次第ではそう罪も重くならないだろう」
「何だって?」
警備隊の人がオルドーさんに何か相談していた。私もいろいろとお話をして、警備隊の人達の狙いがわかる。
私が知らないところで、話がすごく進んでいた事がわかった。