私が気になる!?
やはり婦人会ではゴーレム少女の噂で持ち切りのようだ。ネームドモンスターである森の統率者討伐。
蜜なる激母を討伐した上に蜜まで持ち帰る。鉱山事故での救助に当たるなど、活躍が目覚ましい。
それだけではない。街のとある料理屋では、一般的に不遇職と呼ばれている客にはサービス価格で料理を提供している。
不遇職の少女に助けられてから、考えが変わったそうだ。
乱暴者で有名だった鍛冶師は人格者となり、人当たりがよくなった。これも噂ではゴーレム少女が関わってるらしいが、真偽は不明だった。
「旦那様ぁ! やっぱり例のゴーレム少女はこのお屋敷にいた娘で間違いありません!」
「なに! マルサ! クーリエで間違いないのか!?」
「は、はい! 冒険者ギルドで清算しているところを見たので確かです! しかも、ゴーレムを三体も、従えてました!」
「ゴーレムを……!」
一体、どういう事だ。不遇職である魔導機師がゴーレムを完成させるなどあり得ん。
どんなタネがあるのか。調べてみようにもここ最近、情報の流通が鈍っている気がした。明らかに私との接触を避けている者すらいる。
「冒険者達にも可愛がられているようで……」
「どう取り入ったのかは知らんが、まずはゴーレムの謎だ! 一体、どうやって作った!」
「マイスターハンドがあればある程度は……」
「あれはあくまで素材加工までだ! 知識がなければどうにもできん! どうなってる! 誰かが入れ知恵でもしたのか!」
「わ、私に言われましてもぉ!」
ゴーレムの製造方法に関する文献はほぼないはずだ。まさかあの山のように大きなゴーレムを作ったのか。
いや、まずはそこだ。
「マルサ。その連れていたゴーレムというのはどの程度の大きさだ?」
「大人ほどの大きさで、私達が知るゴーレムとはいささか違うようですね……」
「なるほど。つまり、未完成ながらも作り上げたのだな。だがそんなものでネームドモンスターを討伐できるものか?」
「それも謎ですが、まずどうやって動いているのか……。あたしゃ、そっちのほうが気になりますよ」
魔導機師。これまで不遇職と言われ続けた理由はゴーレムの製造方法がまるで不明だからだ。
だが、しかし。もしゴーレムを製造する事が出来れば、話は変わる。手段はわからないが、あのガキはそのもしもを実現した。
一方、あれからソードマスターの息子も少しは訓練をしてみたがまったく上達の見込みがない。
もしかすると、ソードマスターのほうが不遇職という可能性すらある。
そうなると、まず英雄アルヴェインのクラスがソードマスターというのはガセという仮説が成り立つ。
あのジジイ、とんだタヌキか。弟子のアルヴェインはソードマスターではない、何かとてつもないクラスかもしれない。
「マルサ。クーリエは冒険者ギルドに出入りしてるのか?」
「はい。あそこは登録さえすれば簡易宿泊所がありますし、生活する事は可能ですから……」
「私も向かおう。この目で確かめなければならん」
「だ、旦那様がですか? あの小汚い場所に!」
「不本意だが気になって仕方がない」
身支度をしてから屋敷を出ようとしたところで、門の外に誰か立っている。
ハットを被り、マフラーで鼻から下を覆った怪しげな人物だ。
「誰だ?」
「初めまして。私は流れの薬師のシモンという者です。本日は営業に参りました」
「営業だと? フン、薬を売りつけようとしているのか。しかも流れ……薬師といえど、ピンからキリという事だな」
「お恥ずかしい限りです」
「薬など買わんぞ。きっちりと専属の者がいるのでな」
「そうですか。せめてお話だけでも……」
「いらんと言ってる! とっとと消えろ!」
シモンという人物は何も言わずに去った。町長である私ならば、巻き上げられると考えたのだろう。
まったく浅はかな考えだ。金持ちほど、金の勘定には厳しいのが常識だろうに。特に商人である私の嗅覚があれば当然だ。
「下らん時間を使った。マルサ、冒険者ギルドへ案内しろ」
「はい、旦那様」
冒険者ギルドなど、立ち寄った事もない。組織そのものが巨大故に手が出せんが、そうでなければ取りつぶしているところだ。
着いた先で、建物を見上げると何ともみすぼらしい。意を決して入ってみれば、外観以上に貧相だった。
うだつが上がらなそうな連中がテーブル席に着いて益のなさそうな会話に興じている。こんな連中はどうでもいい。受け付けにいる冴えない男に聞こう。
「おや、町長。当ギルドにご用でも?」
「ここにクーリエという子どもが出入りしていると聞いた。出せ」
「クーリエちゃんですか? 今は依頼を引き受けて、外に出ています」
「いつ帰る?」
「さぁ……。今日中に帰らないかもしれません。一度、外に出ると何日も帰らない子ですからね」
「チッ! では帰ったら……」
伝えろ、と言いかけて思い直した。普通に考えれば私を恨んでいるはずだ。
伝言などすれば、むしろ避けられる可能性すらあった。更に私があのガキを捨てた事が広まる可能性もある。
あのガキがすでに言いふらしているかもしれないが、ここはひとまず引き下がろう。
「町長、クーリエちゃんを知ってるんですか?」
「世話をしてやった。また来る」
二度と立ち入りたくもないが仕方ない。私の息がかかった者達に監視させておこう。