すごそうな人と出会った!
「おや、これは失礼」
「あ、いえ、こちらこそ!」
道を歩いていると、うっかり人にぶつかる。
見上げると、その人は白い筆みたいな髭をはやしたおじいさんだった。
「お嬢さん、怪我はないか」
「大丈夫です」
「それはよかった……」
細い目に皺だらけの顔と、どう見てもおじいさんなのに不思議とおじいさんだと思えない。
それどころか、とても力強く感じる。腰に収まっているのは剣かな。
「それは一体?」
「これはゴーレムです。戦ってくれたり荷物を運んでくれて便利なんです」
「……君はもしや魔導機師か?」
「はい」
「ほう! なんとぉ!」
いきなり大声を出してビックリした。細いおじいさんからは想像できないほどの大きさだ。
ゴーレムをペタペタと手で触って撫でまわして、後ろからも眺めている。
「なんとなんとなんと! ゴーレムをここまで完成させたと! お嬢さん、お名前を聞いてもよろしいか!」
「クーリエです」
「いや、まさかこの歳になってゴーレムを完成させた魔導機師と出会えるとは! 前代未聞どころではないぞ!」
「はい、はいはい! そうです!」
興奮しすぎて、さっきまでのイメージと違う。ようやくおじいさんが落ち着いた後、筆髭を指で撫でた。
「クラスに目覚めたのは最近だろう。それなのに、ゴーレムをどのようにして?」
「えーと……」
「む……またしてもすまない。初対面の私に話せるような内容ではないか。私はマルクト、クラスは『武士』……」
「ぶし?」
「ソードファイターの亜種みたいなものでな。私もまた不遇職という事で苦労した」
この言い方からして、この人は魔導機師が不遇職だときちんと知ってる。
このおじいさんがどういう人かわからないけど、武士というのが気になった。見たところ、悪い人には見えない。
少なくとも私を追い出した人達とは違う気がした。
「おや、そんなに私の身なりが気になるか?」
「いえ、お話しましょう」
「では場所を変えよう」
場所は喫茶店で、マルクトさんはオレンジパフェを食べている。私にもイチゴパフェを奢ってくれた。
甘くて冷たくて、あまりのおいしさにお話どころじゃなくなる。
「おいしい!」
「よいだろう。この店のパフェは絶品だ。ところで話のほうだが……」
私は思い切って話した。パフェがおいしかったからじゃない。私もこの人が気になったから。
マルクトさんは何の反応もしないで黙ってパフェを食べている。最後の一口を食べ終えたところで、ようやく話が終わる。
「クーリエさん、辛い身の上話をさせてすまなかった」
「いいんです……。頑張るって決めましたから」
「なるほど、いい……。これこそがクラスなどよりも、もっとも必要な素質かもしれん。そう、大切なのはやはり心……」
「あの?」
すごく感心してる。口の周りにクリームがついてるから、なんかかっこ悪い。
「そのゴーレムはまだまだ強くなれる。しかし、足りない部分もあろう。私でよければ、見てあげよう」
「マルクトさんはゴーレムの事がわかるんですか?」
「いやいや、私が見るのは動きのほうだ。聞いている分にはまだまだ改良の余地がありそうでな」
「確かに……」
回路は私もすごく苦労して作ってる。斬る、避ける、パンチみたいに思いつく動きしかさせられてない。
「しかし、簡単ではないぞ。私もこう見えて、それなりに有名な人間ですからな」
「が、頑張ってみます」
喫茶店を出て、今度は街はずれに移動した。人があまりいない場所のほうがやりやすいみたい。
さっそくゴーレムとマルクトさんが向き合う。
「さて……少々、痛めつける事になるがよろしいかな?」
「修理が出来るので多少は大丈夫です」
「では……」
マルクトさんが抜いた剣はすごく細かった。少し曲がっていて、折れそう。
それを持ちながら、変な恰好で構えている。なんだろう、アレ。
「いつでもよいぞ」
「ゴーレム! いけー!」
森の粗暴者を討伐した回転斬りだ。あの時より速さも威力もすごく上がっている。
自分でもビックリするくらいの速さだけど――
「あっ……!」
マルクトさんが剣を振り上げて、ゴーレムの後ろにいた。
その後、ゴーレムの腕が切り落とされる。
「え、え!?」
「これぞ武士の神髄。居合……。受けてしまえば折れる刀、構えありきで隙だらけと酷評された武士の構え……。不遇職に恥じない評判だった」
「これで不遇職……」
「が、クラスなど他の要素でいくらでも覆る……。それはクーリエさんがよくわかっているであろう」
あの細い剣は刀というみたい。ゴーレムの片腕を修理しつつ、マルクトさんを観察した。
素材名:カタナ?
ランク:?
状態:すごく良い
効果:攻撃+? 速さ+? 武装『????』 アビリティ『????』追加
マルクト 耐久 ?/?
「何かわかったかな?」
「いえ!」
観察してたのがバレた? マルクトさんが意地悪く笑う。
「今ので大体わかった。そのゴーレムには速さ以上に精密性が足りない」
「精密性……」
「細かい動作、対応というべきか。特に防御に関しては貧弱極まりない」
「確かにそうかも」
なんだか急にマルクトさんが大きく見えた気がした。この人、何者なんだろう。
とてもすごい人と関わっている気がして、少し寒気がした。