私のクラスは不遇職!?
「クーリエ、今からお前はうちの子ではない」
職式の儀で私は不遇職、レアだけどはずれ職として有名な魔導機師だとわかった。
クラスによって今後の人生が決まるこの世界で不遇職。すごいクラスならたくさんの人が求めるし、そうじゃないならどこにも行き場がない。
お母さんが死んで私を引き取ったエドワールおじさんは、怖い顔で私を睨みつけている。儀式をやった神殿から帰ってからずっと無言だったけど、やっぱり怒ってた。
「よりによって魔導機師とはなぁ……。神様も罪な事をする」
「あなた、今まで通り雑用でもやらせればいいんじゃない?」
「ダメだ! 不遇職だとわかった以上、無駄飯を食わせるわけにはいかん!」
「あーあ、かわいい息子は『ソードマスター』なのにねぇ」
ガズーのクラス、ソードマスターもかなりレアだ。エドワードおじさんとアグネおばさんもそう話していた。
でも魔導機師とは違って、こっちは当たりクラス。王国騎士団の騎士団長と同じクラスで、将来安泰みたい。それに比べて私の魔導機師は――
「職式の儀は眠っているクラスの素質を引き出す。だが、魔導機師は玩具のようなものしか作れずに生涯を終えているのだ。物語の中に出てくるような魔導機……ゴーレムなど現実にはありえん」
「しかも数十年……いえ、百年に一人だったかしら? とんだ拾い物をしたわねぇ! おほほほ!」
「笑いごとじゃないぞ、アグネ! あの女もとんだ出来損ないを生んだものだ! おかげで私がいい恥をかく!」
「そんな事を言って……。その出来損ないが睨んでるわ」
そんなつもりはなかった。何か言う前に私の頬がおじさんに叩かれて、屋敷の床に倒れてしまう。
ニヤニヤして私を見下ろすのはガズーだ。
「おい、お前。まさか魔導機師じゃなければ、うちの子になれたと思ってんじゃないだろうな? しょせん、平民のお前は他所のガキなんだよ!」
「いたいッ……!」
頭を踏みつけられて涙が出そうになる。綺麗なお洋服は着せてもらえなかったけど、家事とお掃除は一生懸命やった。
だけど魔導機師とわかって私は今、捨てられようとしている。
「この世界でクラスは絶対なんだよ。パパは商人だからお金持ちになったし、ママは王都で大ブレイクした踊り手だ」
「ガズーの言う通りだ。いいクラスならば、いいスキルにも恵まれる。必然的に多くの人間に必要とされるわけだ。だから私は国王にも気に入られて、町長になれたのだよ」
「パパ、不遇職の奴ってどんな人生なの?」
「誰にも必要とされずに野たれ死ぬか、犯罪に走る傾向にあるようだな。しかし魔導機師なんぞスキルなしと同義だから、犯罪をやろうにもとっ捕まって終わりだ」
「アハハハッ! 惨めぇ!」
ガズーが私を踏んだままゲラゲラと笑う。ようやくどけてくれたと思ったら、今度はエドワールおじさんに胸ぐらを掴まれて立たされた。
「とんだ外れクジを引かされた! これからは本当に無駄メシ食らいになるのだからな! この屋敷から出ていけ!」
「待って! もっと頑張って家のお手伝いするから!」
「うるさい! まったく……大金があればもっと孤児を集められるものを……」
突き飛ばされて屋敷から追い出されてしまう。扉が締められて、鍵をかけられる音が聴こえた。
「集められるって……」
私みたいに身寄りのない子ども達を引き取って、いいクラスとわかったら可愛がる。そうじゃないと私みたいに捨てられるって事かな。でも、そんなのどうでもいい。
「どう、しよう……」
――幸せにしてあげられなくて、ごめんね
死ぬ前、お母さんが私に言ってくれた。本が好きな私にたくさん買ってきてくれたお母さん。
最初は読み聞かせてくれたけど、読み書きを覚えてからは自分で読むようになったんだ。
病気で体が弱ってもずっと私の心配ばかりしてくれたし、そんなお母さんに謝らせたくなかった。
「不幸じゃないもん……私は違う」
ここで泣いてもダメだ。歩かないと、何も始まらない。屋敷を離れて私は街を歩き回る事にした。
辛い事は辛いけど、お母さんが死んだ時よりはマシだ。あの時は泣いたけど今は泣いてない。
どこかで雇ってもらおうと私は街にある店を訪ねた。
「魔導機師? かわいそうに……。悪いけど、うちは『調理師』のクラスを持たない人間はお断りだ」
「頑張って覚えますから! 何でもやります!」
「ダメだ!」
ドアを強く閉められる。また歩いて次の店に頼み込んだ。だけど次は魔導機師と言っただけで、いきなり蹴られてお話も聞いてもらえない。
「鍛冶師と魔導機師を一緒にするんじゃねぇ! 舐めんなよッ!」
「ゲホッ……ゲホッ……」
痛むお腹を抑えながら、何とか歩く。また蹴られたらどうしようと思ったら、もうどこにも行けなくなった。
泣かないと決めていたけど限界かもしれない。もうすぐ夜になるし寒くなる。
どこか暖かいところを探そうとしたけど、疲れて座り込んでしまった。
「どうしよう……」
いよいよ涙が出そうになった時、ふと目の前にあるものが目についた。あれはいらないものを捨てる場所、廃材置き場だ。
その時、私の中で今まで見たものが次々と思い浮かぶ。