押し付けられた呪い装備がデメリットを打ち消し合って、ただの最強装備になりました。~今更装備を返して欲しいといわれてももう遅い。僕はファラオになって国を作るので~
深夜テンションで思いついたタイトルを形にしてみました。
「あの、非常に言い辛いんだけど、この前みんなからもらった装備が呪われていて……」
「ぷっはっはっはっは! そんなことをいうために、わざわざ調べてこの酒場まで来たのか? ファハド、お前って本当に間抜けだな」
パーティのリーダー、サイードは酒を噴出さんばかりに笑った。
「その装備は要らないからあなたにあ・げ・た・の。要らないなら、あなたも誰かにあげれば?」
ムルジャーナはぱっと見美人のお姉さんだが、どこか人を見下したような眼をしている。
「君さぁ、もっらた時さぁ、一生大切にしますっていってたよねぇ」
アサーラは派手な見た目をしているが、お店の娘ではない。
「あの時は、まさか呪われているなんて思わなかったから」
僕は勇気を振り絞っていった。
「ちょうどいい機会だったんじゃないか?」
サイードはあっけからんといった。
「何がいい機会なの?」
「お前が冒険者を辞める以外に何かあるのか?」
「そうそう、あなた無能だし、死んじゃう前に冒険者を引退できてラッキーよね」
「ほんとそれぇ。諦める後押しをしてあげたあたしたちに対してぇ、逆に感謝して欲しいくらいよねぇ」
三人はこちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
「勝手なこといわないでよ! 確かに僕は弱っちいかも知れないけど、ダンジョンで命を落とす覚悟くらいはできているよ!」
「だったらファハド、お前は俺たちのために死んだんだ。俺たちのために戦死したなら、気持ちも楽になるだろ?」
「初めから……、初めから僕に呪い装備を押し付けるつもりで声をかけたんだね……!」
僕は拳を強く握り締め、目に涙を浮かべながらいった。
「あなたのおかげで、こうして私たちは最高の仲間に巡り会えたわ。しかも、呪い装備まで引き取ってくれるなんて、お人好しすぎない?」
ムルジャーナは皮肉たっぷりにいった。
これは後からわかったことだが、呪い装備で困っていたサイードが、同じく呪い装備にあぐねていたムルジャーナとアサーラを誘い、今回の計画を画策したのだそうだ。
「ねぇねぇ店員さぁん、この人お客じゃないみたいだしぃ、摘まみ出してくれないかなぁ?」
「ちょっと待ってよ、僕はまだみんなと話し合いたいことが――」
「――いけませんよ、ここは楽しくお酒を飲む場所です。揉め事を起こすなら、お引き取りください」
サングラスをかけた大木のような男が注意した。
ダンジョン都市ガリグの酒場では、探索から戻ってきた血の気の多い冒険者が、アルコールも入って頻繁にいざこざを起こすので、必ず腕の立つ用心棒が配備されていた。
「でも、サイードたちが僕を騙して――」
「――お引き取りください」
サングラスの用心棒が半歩詰め寄った。
「……はい」
これ以上ごねると力ずくで追い出される空気を感じた。
「達者でな」
「さようなら」
「じゃ~ねぇ~」
僕は嘲笑を背に浴びながら、酒場を後にした。
今から約千年前、突如四角錐の巨大な建造物、通称ピラミッドが出現した。
ピラミッド内部とその周辺では、世界の法則がねじ曲がっており、人類の築き上げてきた文明が無に帰した。一番大きいのは、電気がまったく使えない点だ。また人々には超常の力、スキルが発現した。
ピラミッド内部にはいくつもの石碑があり、それに触れると異なる難易度のダンジョンへ飛ばされる。そこには見たことも聞いたこともないモンスターが生息しており、オーパーツもごろごろと転がっていた。
そんな未知の世界に刺激を求め、あるいは一獲千金を夢見、あるいは自分を変えたくて、多くの人々が冒険者を志した。
呪い装備を押し付けられるまで、僕もそんな冒険者を志す一人だった。
酒場から帰路に着く僕は、サイードたちと知り合った日のことを反芻した。
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「おう、ファハド、生きてたか」
冒険者ギルドの求人掲示板を吟味していると声をかけられた。
「随分な挨拶だね、ハリール」
「久しぶりの再会を祝して一杯おごれよ。今回の遠征は大成功だって聞いたぜ」
ハリールは毛深い腕を僕の肩に回してきた。
ハリールは同業者であり、時折仕事を紹介してくれる顔見知りだ。
僕はハリールのことを友人だと思っているが、向こうがどう思っているかはわからない。ハリールは誰に対してもこんな感じで接しているからだ。
「遠征は大成功だったけど、契約は固定給だったから。あと、僕は未成年だからお酒は飲めないよ」
「はあ、手堅いというか、欲がないというか。その様子だと、ボーナスもなしか?」
ハリールはやれやれといった。
「僕たち日雇い冒険者にボーナスなんて出るわけないよ」
「まったくだ。まあ、どこのパーティにも所属していないってのも気楽でいいんだがな」
「そうだね」
僕は愛想笑いを浮かべた。
正直いうと、僕はパーティや仲間というものに強い憧れを抱いていた。
「そんなところでじゃれ合ってたら他の冒険者の邪魔よ」
「げげ、その声はシャザー」
「ごめんなさい、シャザーさん」
シャザーは冒険者ギルドの受付のお姉さんである。
「ああ、ファハド君にいったんじゃないよ。そこの人間もどきにいっただけだから」
「俺は列記とした人間だ! てか、どうしてファハドに対してだけそんなに甘いんだ?」
「だって、健気で可愛いんだもん」
「くう、可愛さだけは俺が持ち合わせていない要素だからな」
「ははは……」
もうそろそろ可愛いといわれても複雑なお年頃だ。
「なあシャザー、俺向きの求人は入っていないのか?」
「ああそれなら、またグリフィンの囮役の求人があるわよ」
「待ってくれ、また体中に生肉を巻いて逃げ回れっつうのか!?」
「そのためのスキル『スプリント』でしょ?」
「ちげえよ! 足が早い方がモテるって聞いたから習得したんだ!」
「ファハド君、馬鹿が移るから向こうへ行きましょ」
「ファハドは賢いよな。スキル『オーバーウェイト』とスキル『アプライザル』があるから、前線に立たされることなんてないんだからよ」
オーバーウェイトは実際の筋力以上に重たい物を持てるようになるスキルだ。
アプライザルはダンジョン内に落ちているオーパーツの効果を調べるスキルだ。
ただの剣に見えても、実際振ってみると大地を割るような現象を起こすのがオーパーツだ。どういった能力が備わっているのかわからないままオーパーツを扱うのはあまりにもリスクがあるので、アプライザルは重宝されるスキルの一つだ。
「僕って荷物持ちくらいにしか役に立たないし、遠征以外で声がかからないんだよね。その遠征も月に一回あるかないかだし」
「遠征には準備がかかるし、頻繁に行われるものでもないからね」
「あいつら普段の探索だと報酬分配の頭数が増えるから呼ばないくせに、都合のいい時だけ俺たち安い給料で呼ぶんだよな。ったく、足元見やがって。ファハドも向こうに提示された報酬額が気に食わなかったら、ガツンというんだぞ」
ハリールはこんな調子だが、雇い主の前ではどんな命令にでも従順な犬になると僕は知っていた。ハリールは生来的に気が小さいのだ。
「別に気に食わないなんて思ったことないよ。それに荷物持ちだって、前線で戦えない僕が冒険するために選んだ道だし」
僕はまた自分に嘘をついた。
その時、冒険者ギルド内にただならぬ声が響き渡った。
「なあ、頼むって、報酬金の前払いってことにしてさ。呪い装備があったんじゃ、ダンジョンの探索にも行けねえんだ」
依頼掲示板の前で、一人の冒険者が受付嬢に泣き付いていた。
「申し訳ありません。冒険者ギルドでは、金銭の貸し付けは行っておりません」
受付嬢は冷静に対応した。
「そこを何とか、この通りだ!」
「呪い装備の解呪費用でお困りでしたら、そういった冒険者を支援する組合もございますよ」
「馬鹿いうなよ!? あいつらなんかに金を借りたら最後、人を馬車馬のように働かせて、骨の髄までしゃぶられちまうだろ!」
「それは知りません。解呪費用もないのに、未鑑定の装備を身に着けたあなたの自業自得です。これ以上騒ぐなら、今後冒険者ギルドへの立ち入りを禁止しますよ」
「くそっ、血も涙もねえ女だ」
冒険者は肩を落として、とぼとぼと冒険者ギルドを後にした。
「面白いもんが見れたな」
ハリールは嬉しそうにいった。
「面白いものではないよ」
僕はあの名も知れない冒険者を気の毒に思った。
「ハリール、あなただって他人事じゃないでしょ? 貯金もせずにその日暮らししているんだから」
(ううシャザーさん、その台詞僕の耳も痛いです)
「生憎、俺は鑑定士の真似事なんてしないからその心配はない。霊的な力を宿したオーパーツは、その日のうちに金に換えちまう。そういえば、スキル『アプライザル』を使えばオーパーツが呪われているかどうか判別できるのか?」
「ううん、呪いはオーパーツそのものの効果というわけじゃないから、スキル『アプライザル』だとわからないんだ」
「一度着用してしまうと、呪い装備を外しても、呪い自体は着用者に付与されたままになるからね。根本的に違う力なのでしょう」
シャザーは補足説明した。
「ひぇ~、おっかねえ。解呪費用も俺たち日雇い冒険者の一年分の給料くらいかかるんだろ? 鑑定済みの装備は三割増しで売れるかどうか、いやまあ楽して稼げるが、リスクと割に合わねえ。ファハドも気を付けろよ」
「大丈夫だよ、僕も霊的な力を宿したオーパーツをいきなり装備したりしないし」
自分向きの求人も出ていなかったので、僕は冒険者ギルドを後にした。
その帰りの道すがら、僕の人生を大きく変える三人に声をかけられた。
「やあファハド、ちょっといいかな」
振り返ると、親しみやすい笑顔を張り付けた男が居た。
両脇にはそれぞれタイプの違う綺麗な女の人も居た。
「えっと、誰ですか?」
「俺はサイード、冒険者だ」
「はあ」
腰に差した立派な剣を見れば、この町の住人なら誰だってサイードが冒険者だと思うだろう。
僕が聞きたかったのは、サイードの素性だ。
「立ち話もなんだし、そこの店でランチでも食べながらどうかな? もちろん、奢るよ」
「はい、話だけなら」
万年金欠の僕は、まんまと一食の飯に釣られてしまった。
店内はお昼時ということもあって、賑わっていた。
「初めまして、私はムルジャーナよ」
「私はアサーラでぇす」
「僕はファハドって言います」
向こうは僕のことを知っているようだったけど、一応自己紹介した。
「俺たちは三年くらいパーティを組んでいるんだけど、最近探索に行き詰っていて、新しいメンバーを加入させようっていう話になっているんだ」
「はあ」
僕はいまいち話の流れを掴めないでいた。
まさか僕が勧誘されるなんて塵ほどにも考えていなかったからだ。
「ファハドさえ良ければ、俺たちのパーティに加入してもらえないだろうか」
「え?」
その言葉は僕にとって寝耳に雷くらいの衝撃があった。
予想外かつ衝撃的過ぎて、脳が痺れた。
「失礼を承知で、君のことを少し調べさせてもらった。孤児院出身で年齢は十七、幼少の頃から冒険者を志し、クンアクア訓練学校を卒業。性格は忍耐強く、ややお人好しの傾向あり。スキルはオーバーウェイトとアプライザルを習得。大規模遠征には日雇いとして誘われるが、特定のパーティには所属していない」
「よく調べましたね」
「前々から気になっていたんだ」
「うん、結構有名人だよ」
「本物に会えて嬉しいなぁ」
「俺たちのパーティは高みを目指すつもりだ。そのためには君の力が必要になる。近い将来、世界は君の存在価値に気付くだろう。だからその前に、こうしてスカウトしておこうと思ったのさ」
「あの、とても嬉しいです」
僕は素直な感想を述べた。
「ということは、俺たちの申し出を受けてくれるということかな?」
「はい、お願いします」
冒険者人生で初めてパーティに誘われた僕は舞い上がっていた。
「これからよろしくね」
「やったぁ」
僕は晴れてサイードのパーティに加入することになった。
昼食をとりながら軽い打ち合わせをして、その日は解散となった。
僕はその足で、リュックサックを買いに行った。
今使っているリュックサックは、僕が荷物持ちとしてやっていくと決めた日に買ったもので、ところどころ破れ解れていた。今まで騙し騙し使ってきたが、心機一転買い替えることにしたのだ。
初めてパーティに所属するのだから、道具も新しくした。一種の験担ぎだ。
暇な日は必ずといっていいほど冒険者ギルドに足を運んでいたが、もうその必要はなくなった。
久方振りにできた休暇を、僕は何をするわけでもなくだらだらと過ごした。
仕事がなくてこういうだらけた日を過ごした際にはもやもやしたが、今は程よい高揚感に包まれていた。
三日後、僕はもう一度サイードたちと入った店に足を運んでいた。
「やあファハド、こっちだこっち」
「こんにちは」
「やっほぉ」
サイード一行は、前回と同じ席に座っていた。
「すいません、遅れました」
「いやいや、時間ちょうどだ。俺たちが早く来すぎただけさ」
「えっと、手紙読みました。お話って何ですか?」
昨日、家に手紙が届いており、日時と場所が指定されていたのだ。
「そう身構えなくていい。明日のダンジョン探索の軽い打ち合わせだ」
サイードはさわやかな笑顔でいった。その顔がどことなく狐に似ていると思った。
「良かった。てっきりパーティ加入の話を考え直したいといわれるのかと」
「はっはっは。そんなことだろうと思ったよ」
「私たちはもう仲間よ」
「そぉそぉ、もっと信用してよねぇ」
「ごめんなさい。初めて仲間ができたので、まだ色々と戸惑っていて……」
僕は照れ隠しで、俯きながらぼそぼそいった。
「徐々に慣れていけばいい。さて、ダンジョン探索の話は食事の後にしようか」
僕たちは食事をとりながら和やかな時間を過ごした。
話題は最近見付かった新しいモンスターの話やパーティ間のちょっとした噂など、僕でも知っているようなものだったので、自然と会話に混じることができた。
そうして、お皿の上も大体片付いてきたところで、サイードが手持ちの布袋の中を弄り始めた。
「そうそう、俺たちからファハドに渡したい物があるんだ」
「渡したい物?」
「この前、一応護身用のサバイバルナイフは持っているといっていたが、こいつを受け取ってくれないか?」
「これって、銃?」
「用途は銃と同じだが、これはオーパーツだ。人間の作った銃は、ここじゃあ使い物にならないからな」
「どうして僕にこんな物をくれるんですか?」
「俺たちと一緒に戦うためだ。いつまでも荷物持ちというつもりもないんだろう?」
「無理です無理です! 僕、銃なんて使ったことないし、きっとみんなのことを撃っちゃいます!」
「はっはっは、そういってくれると信じてたぜ。だからこそ、背中を任せたいんだ。もっと自信を持て、きっとファハドは誰もが認める魔弾の射手になれる。俺って昔から人を見る目はあるんだぞ?」
「それじゃあ、ありがたく受け取らさせてもらいます」
僕は恐る恐る黄金色の銃を受け取った。
「私からはこの籠手をプレゼントするわ」
ムルジャーナはほとんど新品同然の籠手を差し出した。
「ええ、こんなに良さそうな物もらえないよ」
「大丈夫。私、自分のやつはもうあるの」
ムルジャーナは見るからに高そうな籠手を取り出した。
「本当にもらっていいのかな」
「籠手は武器と違って大した額で売れないし、それならファハド君に使ってもらえると嬉しいな」
ムルジャーナは微笑みながらいった。
「はい、ありがとうございます」
「私からはこれをあげるねぇ」
アサーラが取り出したのは指輪だった。
「指輪……、オーパーツですか?」
「そうだよぉ。この都市に装飾用の指輪なんてないからねぇ。これは暗視の指輪、付けてるだけで暗闇でも物が見えるようになるんだってぇ」
「別に邪魔になる効果でもないので、それはアサーラさんが付けていてもいいんじゃないですか?」
「だってぇ、このデザイン私に似合わないよぉ。ファハド君ってかっこいいから、シルバーとか似合うと思うんだぁ」
「はあ、それなら僕が付けますね」
アサーラは相変わらず独特のテンポと感性だなと思いつつ、僕は指輪を受け取った。
この時受け取った三つの装備が呪い装備だったのだ。
まだ一度も一緒にダンジョンへ探索しに行ってもないというのに、装備を渡してくる時点で疑うべきだった。
「ありがとう。みんなからもらった装備、一生大切に使わせてもらうね」
こうして僕は、仲間だと思っていた人たちから呪い装備を押し付けられ、パーティを追放され、日雇い冒険者に戻ったのだった。
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