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第二話

「フローレンスの靴を折っていたんですね。

あなたは何者ですか?」

………え…

え……

え、え、え、ど、ど、どうしようぅぅぅぅぅ!

何なんだこの人は。

なんで僕がフローレンスの靴を折っていたなんて分かるんだ。

「どうしたんですか?

答えられないんですか?」

ルーカスは不敵な笑みを浮かべる。

「えっとぉ、僕は別の世界からやって来たいわば転生者で…」

だめだ、こんなの信じてくれるはずがない。

「それとフローレンスの靴を折っていたのとどう関係があるんですか?」

え、あ、信じてくれたっ。

「あの、その、えっと…じ、実はフローレンスも僕みたいに、て、転生者で、その、フローレンスが転生する前の、前世の人が、ぼ、僕を…」

あぁぁぁ。

言えるはずがない。あんな黒歴史。

「僕を?」

ルーカスは動じずに問う。

「ふ、振ったんだっ。

最初向こうから告白してきたのに、僕を期待させといて。馬鹿にするように。

だからフローレンスに幸せになって欲しく無くて…」

僕は恥ずかしくて顔もあげられなかった。

すると、ルーカスは笑った。腹を抱えて、また、口を大きく開けて。

なんてひどい奴だ。

人の過去をこうまで馬鹿にして。

すると、ルーカスはまたさっきの不敵な笑みに戻って、言った。

「ところで、あなたは男なんですよね?

では、その胸はどうしたんですか?。」

だ、か、ら、言ったろ。

「男だったけど女に転生したんですよ。

だから中身は男、見た目は女。」

そう言うと、ルーカスは少し何か考えて、

「では、ある契約をしませんか?」

「契約?」

「はい。

私はあなたの正体を決して誰かに漏らす事はしません。その代わりにあなたはフローレンスが周りの男から嫌われるようにするのです。

あなたはその恥ずかしい過去を私以外の誰にも知られない。そして私はフローレンスを誰かに取られる事はない。

いい条件でしょう。」

はぁ?

「そ、そんなの嫌ですよ。

第一、僕はフローレンスに幸せになって欲しくない。それなのにあなたと結ばれちゃ何の利益にもならないんですよ。」

するとルーカスは言う。

「じゃあフローレンスにあなたの正体をバラしますよ。それこそ恥ずかしくて嫌なんじゃないですか。」

あぁぁぁぁもう、こいつ腹黒過ぎる。

そういえば、乙女ゲームの中でも割と何考えてるか分からない腹黒キャラで、一番攻略が難しかった。

なんで僕はこんな信用ならない男に全て話してしまったんだ…

僕は今になって後悔したが、それはもう後の祭り。

「じ、じゃあ一応その条件は呑みますよ。

でもあなたがフローレンスの事を嫌いになってくれたら婚約は破棄してくださいね。」

「分かりました。」

ふっ。

まぁ僕は自分の黒歴史を作った人が幸せになるの黙って見ている様な優しい人間ではない。

フローレンスが予想より変人だって事を皆んなに分からせればいいんだ。

勝算はあるぞっ!

そう、ガッツポーズするとルーカスが驚く様な、呆れる様な目で言った。

「何か色々と考え事をしていた様ですがもう行く時間ですよ。」

「ヘ?」

「今日のパーティーですよ。」

「え、ぼ、僕も行くんですか?」

僕はメイドなのに。

「フローレンスがあなたも連れて行きたいって言うんだから仕方ないんです。」

フローレンスが?

何の企みだ。

「そこの靴も片付けて、行きますよ。」

あ、とそのヒールの事すっかり忘れてた。



その後、否応無しに馬車的な物に乗せられて、着いたのは、夜の静かな山にそびえ立つ城だった。

ライトアップされていて、とても雰囲気があった。

もふもふを付けた扇子で顔を仰ぐフローレンスの後ろで僕は肩を丸めて歩く。

どうか、誰も僕の存在に気がつきませんように、と祈りながら。

まぁ、僕の存在を誰も気づかない訳ないし、しかも、存在を気づかれたところで、僕が男であり、転生者でもある事は気づかれないだろう。

だけど、なんとなく、恥ずかしくて、見られたくなかった。

それから、城の内部へ入って行った。

そこには、半径1メートル以上ある金のシャンデリアや、代々の王族の肖像画などがあり、全てが豪華だった。

そして、一際輝いて見えたのが大広間だ。

その中に一つだけ置かれたとても大きなテーブルに付属した椅子に、フローレンスが座っていたため、その椅子の後ろに立っていた。

そこには、フローレンスやルーカスの他に、銀色の長髪を雑に結んだイケメンの人と、紺色の髪の背の低い美形の男の娘、ピンクの長い髪をなびかせるふんわりとした美少女がいた。

(この世界顔面偏差値高い奴しかいなくて、ちょっとイラッとくる…)

「ちょっとお手洗いに行ってくるわ。」

フローレンスがそう言って席を外した。

数十秒後、テーブルの上に前菜が運ばれてきた。

生ハムでオレンジを巻いた物、ハムやチーズが入ったキッシュなど、とても上品で、前世の僕の雰囲気とはまるで違う。

これはチャンスだ、と思った僕は、何処からか持ち出した激辛ハバネロを、モツァレラチーズとトマトのカプレーゼの上に

「いひっ、いひひひひひっ。」

と愛を込めた優しい笑みを浮かべながらたっぷりとかけた。

「え、大丈夫ですか?」

上目遣いで男の娘が言う。

可愛いなぁ。

犯しそうだなぁ。

「ぼ、わ、私は、あ、愛のソースを入れてあげましょうかと思った所存でございますのですわ…あはは」

やばい、緊張で言葉がおかしくなってしまった。

「あら、どうしたのかしら?」

げっ

フローレンスが戻ってきてしまった…

「では、フローレンスも戻ってきた事ですし、頂きましょうか。」

ルーカスが言う。

そして食べ始める。もちろんフローレンスはハバネロ入りのカプレーゼを口にする。

「!!!!」

フローレンスが、一気に目を見開く。

さぁ、辛い辛いともがくのだ。

そして周りの皆に嫌われるのだ。

「美味しいですわっ!」

え?

それ辛いよ、相当辛いよ?多分インド人も泣くくらいだよ?

「これを作ってくれた方はどなた?」

フローレンスは満面の笑みで言う。

「作ったのはこの城の一流シェフですが、この辛いソースを入れたのはクリスタさんですよ。」

ルーカスが微妙な表情で言う。

「ありがとう。クリスタ。

やっぱりあなたは私の好みを理解してくれているのね。」

フローレンスの表情にはさっきの冷酷さは感じられない。

「そ、そうでございますですぅ。」

違う、違う。

私はフローレンスのために愛のソース(笑)をかけたが、愛は注いでいないぞっ!

フローレンスは辛党なのか⁉︎

必死で乙女ゲームの記憶を辿る。

そういえば、主人公アリアに悪役令嬢であるフローレンスとその取り巻きが嫌がらせで激辛クッキーを渡す場面があった。

その時、フローレンスは、

「このクッキー美味しいわよ。」

って言いながらカゴの中のクッキーを一つ食べた。

そしてアリアに差し出した。

フローレンス達の威圧感で、アリアは激辛クッキーを食べて、美味しいと言わざるを得なかったんだ。

もしかしてあの時、フローレンスは本当にクッキーが美味しいと思っていて、アリアに良かれと思って渡したのか?

ま、まさか、な。



そ、それにしても、この場、とても気まずい。

フローレンスに恥をかかせようとしたのに、なんだか感謝されてしまった。

この場を去らねば。

「ち、ち、ちょっとお手洗いに行って来ます。」

って言ったのはいいけど、トイレは何処だ?

そんな事、聞けばいい。

皆そう思うだろう。

だが、僕のコミュ力でそういう事はできない。

確か、フローレンスが歩いて行ったのは、こっちだな。

そう思い、僕はトイレがあると思われる方向に歩いて行った。


少し歩き進んで行くと、

「あの、クリスタさんですよね。」

そう言ったのは、赤い髪にに左目の眼帯が目立つイケメンだった。

「そ、そうですが…」

「あなたのことが好きなんです。

いつもフローレンスさんに一生懸命なあなたが好きなんです。」

そのイケメンは僕の目をしっかりと見ながら言った。

「え…」

ち、ちょっと…

恥ずかしいな…

って僕は男なのに何をドキドキしているんだ。

この馬鹿。

TS転生したら本当に乙女の気持ちになっちゃったのか…

っていうか、

「あなた、誰…?

ですか…?」

この人、乙女ゲームの登場人物じゃない!

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