下弦の月
ゆーくんに聞いてみて、とみやに言ってから、ゆーくんとみやがまた仲良くし始めたなぁと思って、ニヤけた。
「手なんか繋いじゃってさぁ、」
旦那は少し不愉快そうな声だった。
「ゆーくんって隣のだろう、あの子の親入れ墨が入ってるんじゃないか?」
旦那がそんなことを言うと、付き合った頃、子供なんか可愛くないと言っていた人が何いってんだか、と更にニヤける。
「あら〜まだまだそんな心配は早いし、ゆーくんは良い子だよ。それにあの人は父親じゃないんだから」
それを聞いても旦那はやはり不愉快そうな顔をしていた。
まぁまぁ、と声をかけながら、後ろから旦那にそっと抱きつく。
「小学生じゃまだまだ、ね」
含みのある言葉を言うと、旦那はフッと笑った。人を馬鹿にしているように思われる笑い方、でも私はこれが好きだ。
「そりゃそうだよ」
そう言って旦那が私を抱きしめ返した時、玄関のドアが閉まる重たい音が聞こえた。
二人で目を見合わせて、頭の中で、私達夫婦と私の両親、そして娘、全員が家にいるはずだ、と考える。
「今、誰か入ってきた?」
と聞く私に旦那は首を振った。
「出ていった音に聞こえるし、鍵閉まってるだろ」
「そっか」
私の両親はアクティブな老人ではない。脚も腰も悪くして、家の中だけでヨイショヨイショと暮らしている。
「みや?」
と、二人同時に口にした。
それから駆け足気味に玄関まで降りて、私がドアを開けて、旦那が先に出る。
旦那は
「あ」
と小さく声を出した。
私も出ていくと、みやはゆーくんと手を繋いで、マンホールの上に立ち、空を見上げていた。
「今日満月なのか」
と旦那が言って、そっとみやとゆーくんに歩み寄る。
「みや」
声をかけた旦那に驚いて、二人は手を離した。それを見て私はニヤける。
旦那は、月を見ていただけの二人を怒れないのか、静かな口調で
「夜だろう、部屋に戻りなさい」
とみやに声をかけて、ゆーくんの方にも目を合わせた。
みやもゆーくんも眠いのか、ぼんやりとした口調だが、それ以外はいつもと変わらずに
「はぁい」
と言って、家に戻った。
家に戻ったみやに
「お月さまどうだったー?」
と聞くと、みやはとても輝かしく可愛らしい笑顔で
「すっごく綺麗!」
と言っていた。
それを聞いて、旦那も私も、微笑んだ。
それを邪魔するように私は言う
「手繋いでたね」
旦那は途端に不愉快そうな顔をした。
私がニヤけを通り越し、声を出して笑うと、旦那も照れくさそうにフッと笑った。