新月
裕太の父親は出来た人間とは言えない小悪党だった。
6年もの間、彼がいなければ生活ができないという理由で別れられずにいたのを、水商売で稼いだいくらかの貯金で脱した。
少しの間、別れたくないとゴネていた彼もすぐに別の女性と子供を作って今ではもうこの街にすらいないと思う。
それからは、仕事を昼間に変えて、打算混じりに新しい彼氏を作った。少し生活を援助してくれるような人。
飽きられたら、また別な人を探す。
今の人は、昔ヤンチャしてたと自慢するが、今はそれなり、真面目に生きている。
問題があるとすれば、裕太が誰のことも好かないところだろう。
だから、私の頭の中にはいつも裕太が、今にもグレたり、心を病んだりしていく姿が想像されていた。
私にもよくわかる。母親の信頼できない彼氏がいる生活は、自分の子供を同じ目に合わせる人生を作り出すものだ。
最初、夜中に目覚めたら、裕太が布団にいなかった時、それがもう始まったのかと思った。
部屋をぐるりと見回して、やはりいないので、彼に連絡を入れた。彼も勤め人だ、やはりすぐ返信は来ない。
せかせかとパジャマから外に出れる服に着替えて、髪をまとめた。サンダルを引っ掛けて、ガチャリと戸を開けると、裕太はそこにいた。
マンホールの上に立って、夜空を見上げている。
私も、裕太の視線を追って、夜空を見上げた。
今日は満月なのか。
そっと背後から近寄り、「裕太」と声をかけると、裕太は驚きもせず振り返った。
その時の裕太の瞳の黒さと気の抜けた返事で、なんとなく「夢遊病」を思い浮かべた。