満月
「なんで前は一緒に帰ってくれたのに、全然帰ってくれなくなったの?」
ゆーくんは体育座りをして、
私を見ている。
「だって…恥ずかしいんだもん」
私は女の子座りで言う。
「ボクと一緒に帰るのが?」
「違うよ…恋人みたいなことしちゃったから」
ゆーくんは返事をしなくて、
私達は気まずい。
「ゆーくんが嫌いなわけじゃないよ!」
「別にボク怒ってないよ」
ゆーくんは慌てた私を少し笑った。
それで私も少し笑った。
「恋人みたいなことってキスしたこと?」
ゆーくんが前みたいに、
私にくっついた。
「…キスって大人みたいだね」
私が言うと、
ゆーくんは得意そうな顔をした。
「ぎゅって抱きしめるのはハグって言うんだよ」
ゆーくんはそう言って手を広げて、
私の顔をじっと見て、
「してもいい?」
と聞いた。
私がうなずくと、
ゆーくんはぎゅーっと私にハグをした。
手を離してから、
ゆーくんはわざと目をそらして、
照れくさそうに言った。
「もいっこ知ってるんだ」
「何?」
ゆーくんは、
しばらく頭に手をやったり、
考えたりするそぶりをして、
小さ過ぎるような声で言った。
「大人はちゅうするときペロペロ舐めるんだよ」
「えっなにそれぇ」
私は笑ったけど、
ゆーくんは本気そうだ。
「ママが、あいつとしてたもん」
「あぁ、おじさん。前の人のがイケメンだったよね」
「大して変わんないよ。でもパパには似てる。なんか足首にくさりの絵描いてあるから」
「なんでくさりなのかな、ねことかにすればいいのに」
「ねこは可愛いから女の子っぽいじゃん。」
「あーそっか。」
それで、
どっちもしゃべらない時間が少しあって、
私はまたさっきの話を思い出した。
「ペロペロ舐めるってどこを?」
ゆーくんは、
うーん。と考えて
「口?の中?舌?」
とよくわからなそうに言った。
「見てたんじゃないの?」
「見てたけど、なんかよくわかんなくて。その後ママに外で遊んでこいって追い出されたし」
「ふ〜ん」
また何も言わない時間ができて、
私は言うか言わないか、
すごく迷った。
それに、
たぶんゆーくんも迷ってた。
しばらく経って、
ゆーくんが
「する?」
と聞いてきて、
私は、
コクリとうなずいた。