第8話 廃校奇襲作戦
隣りの港町からイギリス系ヴァンパイアが上陸してこの街にやってきたとの情報を掴んだ。
吸血鬼特捜隊の面々は対象を狩るために行動を開始する。
吸血鬼が潜伏しているとされる廃校についた時刻は日付の変わる数分前。
廃校を囲む家々もいくつかは明かりが消えて就寝時間を迎えているようだ。
太陽の光のある昼を狙ったほうがよさそうに思えるが、明日は曇りだ。潜伏先を変えられて姿をくらます可能性があるので少しでも早く狩ったほうがいいというのが彼らの見解だ。
直江たち四人は建物の影から廃校の様子を確認する。
吾郎が「おい、あれ見えるか」と学校の正面玄関を指さした。
数十メートル離れているのでうっすらだが、靴箱が並んでいる場所に明らか人間ではない獣のような何かが蠢いている。
……おいおい。使役してる鬼を隠しもせず番犬代わりに使っているのか……。
一般人に発見されればそれだけでパニックが起こるというのに。
そうなれば困るのは、ハンターを呼ばれる吸血鬼の方だというのにバカなやつだ……。
「まあいいや。祭ちゃん。撮っちゃえ」
直江が指示すると、特殊な小型カメラで鬼を撮影する祭。
滅鬼師見習いが殺傷能力の高い武装を使用するには、そこに確かに敵がいるということを《本局》に示さなければならない。
祭の携帯を覗くと『抜刀許可を申請中です』と画面に表示されている。
直江は所持している日本刀を確認した。柄にロックがかかっていて抜くことができない。
量産型封魔器〈赤血刀〉(しゃっけつとう)。本局で借りることのできるこれは摸造刀で刃は潰されている。しかしその刀身には異界の存在のみを滅する要素が含まれている。
「早く斬りてえ……高ぶってきたぜえ……」
吾郎が手に包帯を巻いて白い粉をやたらつけている。ヤバい薬をやっているわけではない。滑り止めだ。その様子を見る限り、もう貧血の心配はなさそうだ。
「ふはは。僕と我写髑髏がいる限り君達は大船に乗ったつもりでいるといいさ」
四ノ宮は愛刀を既に抜いている。本局のものではないので柄にロックなどかかっていないが、許可も出されていないのに市街地で抜刀するのは犯罪である。
なんか刀身に写る自分の姿を眺めてほれぼれしている様子だ。
ちなみに、プロでもない滅鬼師見習いが摸造刀でもないガチの日本刀を装備すること事態アウトである。
「そういえば……」と吾郎が口を開く。
「直江っていつもどっから情報もってくんだよ。ここに吸血鬼隠れてるってツイッターでも流れてんのか?」
「……ま。僕の情報網は色々複雑で」
今回の情報を直江に教えたのはバンピールだ。
彼は自らの使役する小さな死霊を街全域にはびこらせて監視している。だから同族の存在に気がついたのだ。
思い出すのはバンピールの鬱陶しそうな顔。
「私のテリトリーに入ってくること事態がタブーなのよ」
自らの領域を犯すものは例え同族であろうと殺す。しかし自らが手を下すことは面倒くさくてしない。そんなわがままな主人に従うのが直江の務めだ。
そのとき、カチリと音がして刀のロックが解除された。
『申請を受理しました。抜刀を許可します』