5/20

第5話　夜に踊る

　そんなこんなで彼は吸血鬼に血を吸われてしまった。

　え、じゃあ死んでるはずだろ？って。

　まあ普通はそう思う。

　ところが彼は生きている。

　誰もがあの場で間違いなく「あ、これ死んだ！」と思ったはずだが、生きている。

　不思議なことに彼の体にはある特別な才能が宿っていた。

　いや、才能というより性質というべきか……。

　吸血鬼の男。自らを名もなきバンピールと呼称する彼からすれば何百年と生きてきて直江のような性質をもつ存在とは出会ったことがないという。

　彼の体に秘められた性質。それは

………血が劇的にまずいということだ。

「まずいとかそういうレベルじゃないわよ！なにこれ！天罰？テロ？もはや別の意味で飯テロよ！珍味の度を超して、ゴミよ！まだネズミの血のほうがマシ！」

　だそうである。

　何ともひどい言われようだが、ともかく直江は血を全部吸われることなく生きながらえることができた。

　それだけではない。数年は人間として彼に従属するという条件付きではあるが、バンピールは彼を吸血鬼にすると約束したのだ。

　もちろん彼からその言葉を引き出すのに、襲ったことへの謝罪、自身を吸血鬼にすることのメリットをひたすらのべて、数時間に及ぶ忠誠のダンスを踊ったことは言うまでもない。