12話 乱舞
直江達を追いかけて来た鬼も危険なものを感じ取ったのかゆっくりと歩を止める。
黒い水が大きな円を描き、その中心部がだんだんと黒く染まっていく。
出るのか……四ノ宮の切り札……。
以前一度だけ見たことがある。大量の死霊を討伐しなければならない任務で、彼は地中から巨大な骸骨を召還させて一掃していた。
彼の持つ宝刀、我写髑髏を鍵として異界の魔物を呼び出す四ノ宮の家に代々伝わる秘術の一つ。
「天よ逆巻き、地よ歪め。冥府より我が一族に従属する亡者の王が姿を表す……」
なんかブツブツと四ノ宮が唱え始め、黒円の周りに青い灯火がいくつも灯り始める。
四ノ宮を中心に風が吹き荒れ、黒円の内側がまるで沸騰した湯のようにボコボコと気泡を弾かせていた。
「契約の名の下に我に従え!髑髏乱舞!」
雄叫びと共に円の内側から一体の骸骨が召還される。
両手に怪しい光を放つ妖刀を携え、全身からガガガガッと骨の軋む音をさせている。
こうなれば勝敗は決した。骸骨がその刀で鬼を一閃――――すると思っていた。
「………直江くん」
四ノ宮の声が震えている。
召還された骸骨は体長十数メートルを超える巨大な怪物………のはずなのに、今現在現れたそれの大きさはわずか数十センチのミニサイズだった。
「ちょっとこれどういうことさあ!?」
……あ、やべっ。バンピールが刀の力を弱めていたことを忘れていた。
弱体化している骸骨はそれでも懸命に鬼の足下でペチペチ刀を叩いて戦っている。
しかし一蹴りで粉砕された。
バンピールめ……弱くしすぎだ………。
「ふぎゃッ!」と声がして四ノ宮が吹っ飛んだ。
鬼がその腕で殴り飛ばしたのだ。
「四ノ宮!!」
すぐに立ち上がろうとした彼だが脳震盪を起こしているのか、そのまま地面にぶっ倒れた。
鬼がオオオオオッと雄叫びをあげる。勝利を確信したのか、バカにされたと思って怒っているのだろうか。
鬼の両肩が急にもっこりとせりあがる。すると中から肉を突き破って骨が飛び出した。
鬼はそれを掴んでグググと引き抜き、まるで武器のように骨を扱う。
状態変化……。こうなってしまえばどうにもできない。鬼はより戦闘に特化して、プロの滅鬼師でも徒党を組まなければ討伐できないといわれている。
このままだと1分もかからないうちに直江たちは鏖殺されるだろう。
逃げないと……いや、そもそも逃げられるのか……?
鬼の体からはその高い体温のせいか湯気が立ちのぼり、口からは煙が漏れている。
その眼光は鋭く、目が合った直江の体を硬直させる。
……まずい……逃げろ逃げろ逃げろ!