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サイド・メイン・サイド・プロット  作者: 村瀬ナツメ
第一章
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8.エフェクト

 真っ白な三階建てのホール。中央の吹き抜けから見える天上には、美しいステンドグラス。色があるのはそのステンドグラスとまばらに行き交う人のみで、あとは階段の手すりに至るまでもれなく純白であった。何人かが光人とミシュリーをちらりと見るものの、すぐに忙しそうに去っていく。

 

「カリーヌ司書、おはようございます。」

 

 口を半開きにしてホールの天井を見上げる光人を他所に、ミシュリーは今しがた出てきた扉の隣にある、病院の窓口のようなカウンターから身を乗り出した青年に声をかけられた。人好きのする笑みを浮かべた彼に、ミシュリーも軽く手を上げて応える。

 

「おはよう!ちょっとサジェさんのところへ行ってくるね。すぐ戻ると思うけど、なにかあったらお願いします。」

「はい。お任せください。……そちらは?」

「ほら、この前新しくここに来た光人君だよ。目を覚ましたから、彼をサジェさんのところに案内するの。」

「そうでしたか。案内でしたら僕が代わりましょうか?」

 

 青年は光人を一瞥した後、やはり親切そうな声音で言った。

 

「ありがとう。でも、私が行くよ。ジェン君に頼まれたのは私だったしね。じゃあ、あとはお願いね!」

 

 にっこりと笑って見せたミシュリーは手持ち無沙汰に立っていた光人の手を引いて歩き始める。今度は光人が赤面した。異性の手に触れることが、というよりは子供のように手を引かれているのが気恥ずかしかった。そんなに多くないとはいえ周囲の目が気になるのだ。

 

「ミシュリー、はぐれたりしないから……!」

「あ、ご、ごめん。」

「どうしたの?」

「うーん……彼、ちょっとだけ苦手なの。私の役に立とうとしてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっとやりすぎっていうか……。」

「そうなんだ。」

 

 ちら、と軽く振り返ってみると青年もこちらを見ていた。先ほどの人好きのする顔ではなく、恨めしそうに。慌てて顔を前に戻すと、ミシュリーは苦笑していた。光人は思い出した。男女の差はあるものの、ああいう視線を向けられることには経験がある。

 

「……俺の友達も、よくそういうことで困ってたよ。」

「本当?いつか話してみたいな。」

「うん、いつか……。」

 

 そしてどちらともなく歩き出す。その後は、もう声を掛けられることはなかった。

 

 

 ●●●

 


 ホールを横切って、出てきた扉のほぼ向かい側にある見た目の同じ扉をミシュリーはノックした。中からは気を失う前に聞いた女性の――サジェの気の抜けたような声が聞こえる。

 

「おお、来たか少年。ミシュリーもお疲れ。」

「病み上がりですから、あんまり無理させちゃダメですよ。」

「はいな。なんかあったら呼ぶけん、助けてくんろ。」

「分かりました。じゃあ、失礼しますね。」

 

 ミシュリーは光人にも軽く手を振る。釣られて手を振ろうとして、それもなんだか違う気がして光人は中途半端に右手を上げた体勢で軽く頭を下げた。そんな彼がおかしかったのは、ミシュリーは小さく笑って今度こそ去っていった。自動扉が閉まるのを見ていた光人の視線を遮るように前に出たサジェは扉の鍵を閉めた。自動ロックなどはないのだろうか、とこの近未来的な空間とのギャップに光人は内心首を傾げる。

 

「……自動ロックもあるにゃ、あるんじゃけど。」

 

 まるで心を読んだかのような発言に光人は思わずハッとした。振り向いた彼女の顔には苦笑。

 

「自動ロックだけだと他の書庫長には解除できるんよ。……君のことはひとまず他の職員には知られたくないけんね。」

「気を失う前にも言ってましたけど、そんなに俺は特殊なんですか?」

「特殊中の特殊。いずれはバレるにしても、種明かしのタイミングは計りたいんじゃ。あ、君コーヒーは飲めるかい?ブラックでもよければいれてあげよう。」

「あまり濃くなければ。」

「そ。んなら、ちょいと薄めにしとこか。」

 

 コーヒーメーカーのスイッチを入れてから、サジェは無造作に置かれていたパイプ椅子を指して座るように光人を促した。彼女自身は柔らかそうな背もたれやひじ掛けの付いた椅子に腰かける。そして足で床を蹴ってキャスターを転がして光人に接近する。光人は思わず軽くのけ反りそうになったが接触する前に彼女はピタリと止まった。挽かれたコーヒー豆の香りが漂う。

 

「どこまで話したんだっけか。」

「ここにいる人はエフェクト?っていう、超能力が使えるってことと、皆、どこかの物語の登場人物だってことと……俺が、主人公だってことは、聞きました。」

「おお、そうそう。そうやったのぅ。随分寝とったみたいじゃけど。よぅ覚えとるようでなによりじゃ。」

「実感はまだ無いです……。」

「ああ、そらまぁ。しょーがない。皆そんなもんじゃにゃあか。」

 

 相変わらず聞き取りにくい、どこの方言かもわからない訛りで話すサジェはあっけらかんとしているようで、しかしせわしなく膝の上で指を組んでは組み替える。

 

「とはいえ、君は前例がない。だもんで正直、君が今後どういう風に生きていくのかすんごく気になんのよ。いや、心配って意味でね?」

「はぁ。」

「ま、それはなるようにしかならんでしょうし。この先生きていくのに必要な知識をいくつか説明させてもらうぜ。」

「お、お願いします……?」

「うむうむ。んじゃ、エフェクトについてだ。」

 

 サジェは自分の右手を持ち上げて見せた。その人差し指の先に光が収束していく。淡い暖色の光にサジェの眼鏡がキラリと光る。

 

「これは光のエフェクト。私は光属性ってわけだ。属性として、エフェクトは六種類。地水火風と光と闇がある。」

 

 いよいよゲームじみてきた――光人は輝きを見つめてわずかに目を細める。指先から光を産み出す研究者と、絶対零度の目をした氷使いの男。確かに、どこかの物語にキャラクターとして存在しそうだ。

 

「ほかの皆――ここの職員として所属している人間は皆、多かれ少なかれこういう力を持っているんよ。基本的にここに連れてこられた時点で何かの力を宿してる。」

「俺はそういうの、なにもない気がするんですが……。」

「そうなんだよ。基本的に誰しもがなにかしらのエフェクトを持って連れてこられるのに、君にはなにもない。それがまず異例の事態でね。ああ、ジェン君のエフェクトを持ってたのは考えないことにしてくれぃ。」

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