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サイド・メイン・サイド・プロット  作者: 村瀬ナツメ
第一章
31/54

31.いざ、歓迎会

 そんな光人に気づいたのか、テトラは一旦泳ぐのをやめて光人に問う。

 

「光人、なにかいいことがありましたか?」

「え?」

「あなたから笑顔を探知しました。」

「……うん、自分でもよく分からないけど、テトラとミシュリーが仲良さそうなのはなんか嬉しいよ。いいことだね。」

「そうですか。」

「そうだよ!仲良くしてね、テトラちゃん。」

「はい。よろしくお願いします、ミシュリー。」

 

 テトラはまた器用にスマートフォンの液晶を泳ぐ。アイコンを片付けてしまった画面が殺風景だが、テトラがいれば気にならない。

 

「じゃあ改めて、行こっか。これからね、弐番書庫で光人君の歓迎会するんだって。」

「ワタシはまだ所属する書庫が決まっていませんが、参加してよろしいのでしょうか。」

「いいと思うよ?テトラちゃんの所属が決まったらそのときも歓迎会したいけど、時間取れるといいなぁ。」

 

 そのままテトラを連れて光人とミシュリーは歓迎会会場――もといシャルロッテの部屋へと急ぐ。

 

「そういえば書庫長、シャルロッテさんに他の書庫の職員を巻き込むなって言ってた気がするけど、いいの?」

「いいの。私は明日お休みの予定だし、ジェン君に聞いて私から一緒に参加したいって言ったんだから。」

「そうなの?なんか、ありがと。」

「いえいえ。光人君を歓迎したい気持ちは本当だし――そもそも好きなの、小さいパーティみたいな催し物。」

 

 ミシュリーはにっこりと笑ってみせた。

 

 

 ●

 

 

 一方ジェンはというと。

 

「おっそーい!あの子たちどっかでイチャついてるんじゃないのぉ?」

「それは無いと思いますけど……。」

「ほんとにぃぃぃ?わかんないじゃない?どっかでちゅっちゅしてんのよぉ、きっとー!」

「ないですって。副書庫長既に飲み過ぎですよ。」

「うっさいわねぇ。あーやだやだ、ジェンまでいつの間にか大人みたいなこと言うようになっちゃってぇ。あんたも飲みなさいよぉ。」

「オレ酒はダメだっていつも言ってるじゃないっすか。」

「アタシの酒が飲めねぇってのかぁ。」

「あんたの酒じゃなくても飲めないっすよ。」

 

 シャルロッテの絡み酒をかわしつつ、マグカップに入ったホットミルクをちまちまと飲んでいる。用意されている軽食はほとんど手をつけてはおらず、程なくして聞こえたノックに縋るようにドアへと駆け寄った。

 

「おまたせ。」

「おっせーよ。」

「ごめんね。あっ、シャルロッテさん!もうそんなに飲んで!」

「頼むミシュリー、あの人相変わらずああなんだよ……。」

「もー、『シャルロッテさんがお酒を飲む会』じゃなくて光人君の歓迎会なんですよー?」

「いーじゃないの。お祝い事にはやっぱ酒よ、酒!」

 

 きゃらきゃらと笑うシャルロッテの隣にミシュリーがついたのを見るとジェンはあからさまに安心した様子で息を吐いた。

 

「ミシュリーに声かけといて正解だった……。」

「介抱要員?」

「半分な。お前の歓迎会なら参加するだろうし、副書庫長もいるって言えばこうなることを承知で来てくれるだろうと思ってた。」

「いい子だよね、ミシュリー。」

「ああ。本当に……。」


 たびたびこういうことに巻き込まれているのだろうと嫌でも察してしまうような遠い目をしたジェンに、思わず光人は苦笑した。もしかして自分も今後同じように巻き込まれていくのだろうか。


「お前、酒は?」

「未成年だし、やめとく。」

「ミセイネン?」

「うーん……国の決まりでまだお酒を飲んじゃいけない年齢なんだよ。」

「……別の物語まで来てもその決まりを守るのか?」

「もしかしたらその必要は無いのかもしれないけど、守らないのもなんか嫌だからね。」

「まぁ、そんなもんかもな。」

 

 じゃあこのへん飲んどけ、と立ったままの光人に渡されたのはグラスに注がれたオレンジジュースだった。次いで、ジェンがマグカップを差し出す。

 

「?」

「乾杯だ。改めて、これからよろしくな。」

「こちらこそ。」

 

 軽くグラスとマグカップのフチを合わせる。不格好な乾杯は本当にささやかな歓迎会であることを象徴するようで、光人とジェンはどちらともなく笑い声をこぼした。ジェンに促されるままソファに腰掛ける。ローテーブルを挟んだ正面ではシャルロッテがミシュリーのグラスにワインを注いでいる。それを横目に、光人はスマートフォンをポケットから取り出す。

 

「そういえばジェン、テトラが会いたがってた。」

「あん?そうなのか?」

「せっかく連れてきたし、はい。」

「はい、って……あ!?」


 スマートフォンの画面に表示された魚を凝視するジェンに、魚はくるりと優雅に泳いで見せた。

 

「お久しぶりです。ジェン。その節はお世話になりました。」

「めちゃくちゃフツーにしゃべるじゃねぇか。いやそうじゃねぇ、なんだこれ……。」

「俺の持ち物なんだけど、テトラのスキルと相性が良かったみたいで。こっちに意識を移してるんだ。」

「スキルか、そうか……。あー、よかったな。早めにスキルが分かって。」

「はい。僥倖でした。」

 

 少し得意げに聞こえるのは気のせいなのだろうか。

 

「光人は?」

「まだ全然。ジェンもスキルとか呪いってあるの?」

「……両方ある。けど、説明が難しいからその内な。」

 

 マグカップに口をつけるのと一緒にそらされた視線。何か変なことを聞いてしまっただろうかと声を掛けようとした時、光人の眼前に赤い液体の入ったグラスが差し出された。


「二人で話し込んでんじゃないわよ!ほら!」

「しゃ、シャルロッテさん、俺お酒飲めません。」

「っかー!おこちゃま!まぁいいわ。アタシが飲むから。んで?なんか心配事こととかある?せっかくの歓迎会だし聞いてアゲル。」

 

 

 言いながらぐいぐいと一度光人に差し出した赤い液体、もといワインを飲み干すシャルロッテ。ミシュリーがすかさず水を差し出すと、それもあっという間に飲み干した。

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