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サイド・メイン・サイド・プロット  作者: 村瀬ナツメ
第一章
16/54

16.キャストとアクター

 サジェはやっと緊張を和らげて大きく息を吐く。鵺魄(やはく)を前にした瞬間にこれまでの彼女とは様子が激変したことにも少なからず衝撃を受けていた光人は戸惑いがちに彼女に声をかけた。

 

「あの、サジェさん?大丈夫ですか?さっきの人たちはなんなんですか?」

「ああ、すまんね……まさかこんなに早く直々に来るとは思ってなかったんじゃぁ……。シルクがいたのがせめてもの救いだべ。」

「えっと……?」

「さっきのは本人も言ったとおり、この施設のトップや。ああ、もしかしなくても言い忘れてた気がするけど、この組織は『ディークス私立図書館』と名乗っててね。それであの人は『館長』って呼ばれてんのサ。で、もう一人は、あー、十に分かれた部署のことは書庫と呼ぶんじゃが、その書庫の一つを仕切ってる人けん。まぁ、私もその一人だから、私からすれば同僚みたいなもんだら。」

「館長さんにも、俺のことって隠しとくんですか?」

「……。」

 

 サジェは押し黙った。言いたくないというよりは光人にどう伝えるか悩んでいる様子であった。あー、うー、と何度か小さく呻いた後で眼鏡をはずし、軽く眉間を揉み、再び眼鏡をかけた。眼鏡のツルを持って位置を直すと、扉についている手動の鍵を閉めに向かった。他人に聞かれては困る話らしい。

 

「……できれば隠しておきたいところだけど、正直、今の接触で既にバレた可能性がある。」

「そうなんですか?」

「おん。鵺魄は、館長を務めるだけあってあらゆる能力が高い。そして、何年生きてるんだか分からん。」

「ぱっと見、若そうでしたけど……。」

「あの人もキャストだからねぇ。だもんで元々生きていた物語の方で何年生きてたのかわかんねぇ上にタイムイーターだって……ん?どした。」

「キャストってなんですか?」

 

 キャスト――光人の知る限り、それは「配役」を示す単語である。しかし、どうも今はそういう意味では使われていないらしいということはすぐに分かった。サジェは虚をつかれたよう見目をぱちくりと瞬かせる。

 

「言ってなかったっけ。」

「聞いてないです。」

「そうか、いや……すまんね、私のミスだに。君とか、ジェン君みたいに他の物語から保護されてきた人のことを我々は『キャスト』と呼んどる。反対に、この世界で生まれてこの世界で育ったエフェクト使いを『アクター』と呼ぶんじゃ。キャラクターとして配役を与えられて生きた者と、役者として自分を生きる者、そんな感じだねぃ。……能力にも差があるけど、それはまた今度。もし私が説明するの忘れてるようだったら言うてな。」

「はい。」

 

 今後何度か確認しないと覚えられそうにない、と光人は自分の平凡な頭を掻いた。

 

「で、あとは……タイムイーターは物語の寿命を食べると言ったけんど。そのタイムイーターを屠ると、物語世界に寿命が戻るのと同時に屠った人物にも寿命が加算される。」

「えっ。」

「物語世界に戻るはずの寿命の一部が私たちに宿ってしまうらしくてね。まぁ、微々たるものじゃが、塵も積もればってヤツたい。寿命が延びれば延びるほど成長も老化も間延びする。」

「間延び……?」

「若い体の内にタイムイーターを討伐しまくると、成長がゆっくりになっていつまでも若いまんまでなぁ。とどのつまり、見た目と実年齢が見合ってないやつの方が多いってわけよ。まぁ、精神の成長も間延びする傾向にあるから、精神年齢は見た目どおりみたいな人が多いに。あんまり気にせんでよか。」

「でも、館長さんは違うんですか?」

「おう。中には精神年齢が実年齢と共に成長する人もいてはる。あいつに関してはどっちなのかが見当がつかんでな。鵺魄は、多分見た目の三倍は生きとるけん、精神も成長しとるなら余計に何考えちょるか……。それに、私の前にここの書庫長を務めた人の非道な実験に関与していた可能性がある。」

 

 サジェは苦々しげに言った。

 

「非道な実験……。」

「詳細は省くが、人為的に『主人公』を作る実験さ。……実際に関与していたなら、本物の主人公である君なんてなんとしても調べ尽くしたいはずだ。だから、私は君のことを極力隠したいんだよ。まぁ、それでどう報告しようか考えてるうちに逆に怪しまれたみたいだけどね。」

 

 光人の中で鵺魄の印象が二転三転する。先ほど向けられた視線の意味は一体何だったのか。報告が楽しみと言っていたが、サジェの話が本当なら一体どんな報告を楽しみにしているというのか。そして、人為的に『主人公』を作って、彼は何がしたいのか。

 

「……ごめんな、こんな物騒な話しばっかでさ。でも、私はあの男が信用できにゃあ。悪いけんど、協力してほしい。」

「……わかりました。っていっても、俺、どうしたらいいのかわかんないんですけど。」

「せやなぁ。うん、自分が主人公ってことと、今持ってる光のエフェクトが私に借りたものだってことは隠してほしいかな。それ以外は、むしろあんまり意識しない方がいいかもねぇ。」

「頑張ります。その……バレたらすみません。」

「まぁまぁ、ぶっちゃけもうバレた可能性もあるわけだしね。……君に落ち度はないから、安心って言ったらまたちょいとおかしいけど、あんま気にせんといてな。ひとまず、鵺魄にもしも呼び出されることがあったら、先に私かジェン君に声かけてほしい。」

「はい。」

「さて、本来のスケジュールをこなそうか。まずは食事。そんで、君の部署決めとかすんべ。食堂はわかるかい?」

「ホールに出たら、右の方でしたっけ。」

「そうそう。君が戻ってくる頃くらいまでは私も起きてるはずだけど、もし寝てたら起こしてけれ。」

「サジェさんはごはん食べないんですか?」

「あー、小食でね。あんまり食わんのよ。」

 

 言いながらサジェは扉の鍵を開けると光人を促す。部屋の外に出ると静かな廊下が続いていた。ミシュリーに連れられて初めてあのステンドグラスのあるホールに出たときのことを思い出す。あの時も、白い廊下は静まり返っていた。小さくサジェに頭を下げてからその静かな廊下に一歩踏み出す。しばらくすると、背後で扉の閉まる音がした。ほんの少し、心細さを感じながら廊下を進むと――廊下の先に人影を見つけた。

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