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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第98話 爆弾魔は賢者に銃を向ける

 娯楽都市の郊外にある観光地の遺跡。

 そこで俺は、苔の生えた岩に腰かけていた。


「…………」


 岩に背を預けて煙草を吸う。

 すぐ横には瓶を置いてある。

 レモンソーダもどきの炭酸ジュースだ。

 瓶を掴んで一口飲む。

 本当は酒がいいが、これから大事な仕事が待っている。

 すべて片付くまでは辛抱するつもりだった。


(さて、どうなることやら)


 水晶による通信で賢者に持ちかけたのは、とある交渉だ。

 ミハナを引き渡す代わりに、賢者と暗殺王の支配領域を分割し、その一部をネレアと俺に譲るという内容である。

 その条件を受け入れるか否かを尋ねた。

 ついでにミハナの引き渡しも含めて直接会いたいと頼んだところ、賢者は事務的に了承した。


 この遺跡を待ち合わせ場所にしたのは、娯楽都市に被害を出さないためだ。

 ミハナとのカーチェイスでもそれなりの損害が出ていた。

 ネレアは既に味方なので、彼女の街を壊すのは良心が痛む。


 現在、ここにいるのは俺一人だ。

 アリスとネレアには、娯楽都市の屋敷で待機してもらっている。

 気絶したミハナの見張り役だ。

 二人の魔術で厳重に防護させている。


 言うまでもないが、交渉を真面目にやる気はない。

 あくまでも連中を呼び出すための口実だ。

 冷めたフレンチフライよりもチープな餌である。


 無論、向こうも騙されてはいないだろう。

 罠を承知の上でやってくる。

 賢者はきっとミハナを見捨てない。

 そこを利用させてもらう。


 俺の予想だと、おそらく暗殺王もセットで来るはずだ。

 本来、暗殺王はネレアの支配領域に入れない。

 専用の結界を張られているからだ。


 だが、賢者がどうにかするだろう。

 彼は魔術の達人だ。

 抜け道くらいは知っていると思う。

 俺との対決を考えれば、間違いなく同行させる。

 単独で俺を仕留められるとは思っていまい。


 配下は引き連れてくるだろうか。

 戦力を掻き集めたいと判断したのなら連れてくるだろうが、無用な犠牲を出したくなければ連れて来ない。

 そこは五分五分だ。

 まあ、どちらにしてもやることは変わらない。

 今からやってくる人間を皆殺しにするだけである。


 俺は煙草を吸いながら黄昏る。

 そうして日没の気配を感じ始めた頃、向こうから賢者が歩いてきた。

 見たところ彼一人だ。


 俺は煙草を岩に押し付けて火を消す。


「よう。いきなり呼び出してすまないね」


「…………」


 賢者は無言だ。

 こちらへの敵意を感じる。

 既に臨戦態勢らしい。

 アリスがいれば、強い魔力を感知しているだろう。


「ミハナはどこだ」


「安全な場所で眠ってもらっているよ。大切なお姫様だからな」


 俺は肩をすくめて笑う。

 賢者の目付きが鋭くなった。

 俺は立ち上がりながら問いかける。


「あいつがそんなに心配かい」


「…………」


「まあ、訊くまでもないか。わざわざこんな場所まで飛んできたんだからなぁ」


 俺は辺りを見回す。

 夕暮れの寂れた遺跡には誰もいない。

 戦うにはちょうどいい場所だ。


「報告で聞いたが、ネレアと組んだそうだな。何をするつもりだ」


「別に大したことじゃない。代表同士、仲を深めただけさ」


「そうか……」


 賢者はそれ以上は追求しない。

 雰囲気の割には大人しい。

 出方を窺っているのか。

 怒り狂って攻撃してくるのなら、対処も楽だったのだが。

 賢者と呼ばれるだけの理性は持ち合わせているらしい。


「ジャック・アーロン。お前はエウレアの安寧を壊す者だと認識していいのだな?」


「さぁ、どうだろうな。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」


「どこまでもはぐらかすか……それもいい。お前はもう終わりだ」


 賢者の言葉に俺は笑う。


 お前はもう終わり――どこまでも陳腐な台詞だ。

 それを言った人間が、俺の手によって何人も死んでいる。

 隣人の挨拶より聞き飽きた言葉だった。


「俺を殺す気かい? ミハナの行方が分からなくなるぜ」


「どうせ娯楽都市に隠しているのだろう。この地で最も厳重な場所だ。それと勘違いをするな。俺は、お前を殺さない」


 賢者は懐を探る。

 彼は取り出した物を掲げてみせた。


「憶えているか。お前と交わした契約書だ」


「ああ、もちろん憶えているよ。一度たりとも忘れたことはない。このクソッタレな契約のせいで苦労しているからな」


 俺は同じように契約書を取り出す。

 二枚で一セットだ。

 どちらにも同じ内容とサインが記されている。

 俺の行動を縛る忌々しい紙切れでもあった。


 その時、賢者の殺気が膨れ上がる。

 何かするつもりのようだ。

 彼は目を見開いて俺に告げる。


「契約を強制的に破棄する。そして――契約反故の罰を顕現させる」


 直後、胸と頭に激痛を覚える。

 視界に黒いノイズがちらつき始めた。

 手足が痺れ、俺は堪らず地面に膝をつく。


 見れば胸から黒い茨が生えていた。

 掴もうとするも、触れることができない。

 まるで影のように実体がなかった。


 苦悶する俺をよそに、賢者は悠々と近付いてくる。


「この契約書には細工を施しておいた。いざという時、裏切ったお前を隷属させるための仕掛けだ。強制的に契約の罰を発現させることができる」


「へぇ……やってくれる、じゃないか……」


 俺は岩を掴んでなんとか立ち上がる。

 痛みには慣れている。

 どんな拷問を受けても口を割らないように訓練されているのだ。

 この程度なら問題ない。


 一方、賢者は余裕の態度を崩さない。


「お前を従えれば、アリスも言うことを聞くだろう。妖術師ネレアはどうか知らないが、ドルグを始末したお前なら対処できるはずだ」


「そいつは……どうかな」


 俺は俯きがちに微笑む。

 会話の間にもエスカレートする痛みだったが、あるラインを境に勢いを失う。

 そこから一気に痛みが落ち着き始めた。

 胸から生えた茨もしおれて朽ちる。

 視界のノイズも霧散した。


 身体の調子を確かめる。

 直前までの状態が嘘のように良好だ。

 俺は汗を拭って笑う。


「フゥ、なかなか痛かったぜ。対人地雷で蜂の巣にされた時くらいキツかった」


「なッ!?」


 賢者が驚愕して足を止める。

 彼にとって予想外の展開だったようだ。


 俺は手元の契約書を破り捨てながら近付いていく。


「どうして隷属化が効かないのか。それを訊きたいのだろう? 別に隠すことでもないから教えてやるよ」


「こ、この……」


 賢者は後ずさる。

 形勢の不利を悟り、距離を取ろうとしている。


 俺は同じテンポで進んでいく。


「実にシンプルなトリックだ。隷属の先客がいただけさ」


「先客だと……?」


 まだ気付いていないようなので、俺は丁寧に説明を始める。


 この偽装旅行に出発する前、俺は城塞都市でアリスと魔術契約を行った。

 ミハナとの決闘で使ったものよりグレードの高い契約書を用いて、ドラゴンの血をインクにしてサインを書いた。

 これによって契約の重さが段違いに上がるのだという。


 そうしてアリスと交わしたのは、互いの魂の隷属化だ。

 予め魂を縛り付けることで、新たな干渉を弾けるようにしたのである。

 使用した契約書よりグレードの低いものだと、この隷属化は上書きできない。

 こうして俺とアリスは、互いの心臓を握った状態になった。


 ただ、実際は何の強制力もない。

 隷属化を利用した命令はできないと契約で定めてあるからだ。

 これによって、新たな契約は純粋に隷属化を防ぐだけの手段と化している。


 新たな契約の存在は、万が一の最終手段として温存していた。

 安全で確実な契約解除ができなければ、これを盾にミハナを殺すつもりだった。

 即座に実行しなかったのは、この方法にもリスクがあるためだ。


 最初の契約に違反すると魂の隷属が二重で作用するので、俺の負担が非常に大きいのである。

 思わぬ副作用が生じる恐れもあったらしい。

 だから、あくまでも最終手段だった。


 本来は賢者を騙して契約を破棄させるか、賢者を殺害して契約を失効させるつもりで考えていた。

 それが駄目なら、時間をかけて契約書を無効化する方法を探す予定だった。

 まさかこのような形で役に立つとは思わなかった。


「――というわけで、俺に隷属化は効かない。残念だったな」


「ぐっ……」


 俺の説明を聞いた賢者は歯ぎしりをする。

 彼はその手に光弾を発生させた。

 賢者はいつでも光弾を撃ち出せる体勢で後退を続ける。

 途中、狼狽しながら叫んだ。


「互いを隷属にする契約だと? ありえない! 必ずどちらかが裏切るに決まっている……ッ」


「おいおい、甘く見るなよ。俺とアリスは完全な利害関係で繋がっている。互いの力が不可欠なんだ。余計なことはしないさ」


 賢者の戯言にやれやれと首を振る。


 俺とアリスは、互いの利用価値を理解している。

 失っては困ると知っているのだ。

 だから相手のために行動する。

 それが自分の目的に繋がると知っているからだ。


 アリスが世界滅亡の研究を進めようと、俺は一向に止めない。

 必要な実験があれば手伝うだろう。

 ビジネスライクの割り切った関係だから上手くいく。


「アリスは最高の相棒だ。彼女は狂っているが、目的に対して真摯に向き合っている。下らない理想を掲げる連中より何倍も信頼できる」


 俺は賢者を揶揄する。

 彼は何も言えず、ただ呼吸を荒くした。

 俺は賢者を指差す。


「そんなことよりお前のことだ。小賢しいズルをして俺を奴隷にしようとしたな?」


「違う。それはお前が――」


「おっと、つまらない言い訳は無しだ。残りは地獄でぼやいてくれ」


 俺は拳銃を抜き取り、銃口を賢者に向けた。

 湧き上がる衝動に任せて、俺は嬉々として言う。


「さあ、始めようぜ。最期まで付き合ってやるよ」

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