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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第95話 爆弾魔は妖術師を仲間に引き込む

「出し抜く……のですか」


「ああ、そうだ。楽しそうだろう?」


 俺は煙草を弄びながら言う。

 ネレアはというと、ぽかんと呆けた顔をしている。

 たぶん俺からの提案が意外だったのだろう。


「あんたの願いはエウレア代表のパワーバランスを崩すことだったな。それに協力しよう。すなわち賢者と暗殺王の殺害だ」


 代表達の方針は見事にバラバラだ。

 もはや妥協点を探して歩み寄る段階ではなかった。

 ならば殺してしまうのが手っ取り早い。

 古今東西、最も親しまれてきた方法であり、この上なく効果的である。


 ネレアは四人の代表がエウレアを統べる現状を疎ましく思っている。

 自身がオンリーワンの力を持って引っ張ることが、国の安定に繋がるという考えだ。

 なかなかの過激派だが、別にそれを否定したりはしない。

 実際、それぞれの代表がまったく別のスタンスを取っている。

 どちらかと言えば、俺はネレアのやり方を支持する派だった。


 決定的に分裂してしまう前に、先手を打とうとするのは賢い判断である。

 ネレアは暗殺王に狙われている。

 それを考えると、向こうから仕掛けられる前に殺しにかかるのは悪くない。


 俺は紫煙を吐き出し、ぽりぽりと頬を掻く。


「賢者と暗殺王を始末する代わりに、ミハナの殺害を手伝ってほしい。俺があんたに要求するのはそれだけだ」


「あの、本当にそれだけでしょうか……」


「嘘は言わないさ」


 不安そうなネレアに頷いてみせる。

 ここで色々と条件を付けてネレアを騙し込むこともできるが、そんなことをする必要はない。

 下手に欲を出さず、堅実に目的を遂行すればいい。


「すべて済んだ暁には、エウレアの勢力図は塗り変わる。残る代表はあんたとアリスの二人だ。賢者と暗殺王の支配領域を山分けしよう」


 その利潤は計り知れないものだ。

 今の倍では収まらないだろう。

 たとえば賢者の樹木都市などはかなりの価値を持つ。

 あの街を丸ごと手に入れたとなれば、収益は桁が変わってくるはずだ。


 ネレアに関しては、こちらの邪魔さえしなければ自由に活動してもらっても構わない。

 エウレアのトップを名乗ってもらってもいい。

 俺達は目的のために動くだけだ。

 形ばかりの地位や名誉はいらない。

 今の権力だけでもやや過剰に思うくらいなのだから。

 これ以上は厄介事を招くだけだろう。


「賢者と暗殺王を殺しても、きっと後継者が出てきますわ。わたくし達の支配を拒む者がいるもの」


「反発する連中は俺が黙らせよう。賢者や暗殺王の跡を継ごうとする者も皆殺しだ。心配するな。殺しと破壊工作は得意なんだ」


 ネレアの心配を一蹴する。


 多方面への調査によって、各代表の戦力は把握していた。

 賢者と暗殺王が死んだ場合、どの勢力が俺達に報復を目論むかも見当がついている。

 そういった勢力は、だいたいが俺達の力で壊滅できる。

 本拠地を爆破してやるだけだ。

 現在では多種多様な爆弾を開発している。

 それらを使って徹底的に吹き飛ばしてやろう。


 城塞都市に置いた戦力を使ってもいい。

 あそこにはすぐに動かせるだけの手駒が揃っている。

 アリスが本腰を入れてゴーレムを量産すれば、瞬く間に戦争を始められるだけの数が整う。

 ドルグの時代ほど極端ではないが、俺達もそれなりの軍事力はキープしてあった。


 賢者、暗殺王、ミハナの死は様々な恩恵をもたらす。

 俺とネレアの双方にとって悪い条件ではないはずだ。

 戦いに勝ち続けることで最大の利益を得られるのだから。


 加えてネレアは、俺に並々ならぬ想いを抱いている。

 その感情は利用できる。

 ふとした拍子に暴走しそうだが、そこは俺の腕の見せ所だ。

 上手くコントロールしていくことで、彼女の優れた能力を活かすことができる。


「で、どうする? ここで決断してくれ」


 俺はネレアに答えを求める。

 まあ、訊くまでもない提案だろう。

 案の定と言うべきか、ネレアは頬を紅潮させて俺を見つめてくる。


「――わたくしも、ジャック様と手を組みたいです! とっても素敵ですわ!」


 ネレアは手を組んで感激している。

 俺と共闘関係になることがよほど嬉しいらしい。

 この姿を見るに、端からノーと言う可能性はゼロだったと思う。


 話が終わったところで、俺は煙草をくわえて立ち上がった。

 そして有頂天になったネレアの肩に手を置く。


「よし、さっそくだが仕事だ。同行させた分身でミハナを拘束してくれ」


 ネレアは分身同士がリアルタイムで情報を共有している。

 テレパシーのようなもので繋がっているのだ。

 その特性により、他の分身に指示を出してもらう。


「かしこまりました……あっ」


 張り切るネレアが、途端に顔を曇らせた。

 何が起こったか分かった俺は事務的に尋ねる。


「どうした?」


「……申し訳ありません。逃げられてしまいました。こちらが動き出す前に危険を察知したようです」


「気にするな。予想通りだ」


 頭を下げるネレアを慰めつつ、俺は闘技場の特別席を出た。

 熱狂する観客席を横目に駐車場へ向かう。

 途中、後ろをついてくるネレアに指示をする。


「ミハナの居場所を特定したら、分身で遠目に監視させてくれ。手は出さなくていい」


「分かりましたわ」


 俺の推測が正しければ、監視だけならほぼ問題なく可能なのだ。

 相手がプロなら逃がす危険性があるが、幸いにもミハナは素人である。

 特殊なスキルに頼っているだけで、大した技能は持ち合わせていない。

 ネックであるスキルのトリックさえ分かっていれば、対策もそこまで難しくない。


 ほどなくして俺達は駐車場に到着した。

 アリスが駆け足でゴーレムカーに走り寄って助手席を確保する。

 少し遅れたネレアは、寂しそうに後部座席へ乗り込んだ。

 水面下で争奪戦があったようだが、そこには触れないでおく。


 運転席に座った俺はゴーレムカーを発進させた。

 駐車場を出て都市内の通りを猛スピードで進んでいく。


「ミハナのもとへ急行するぞ。ナビゲートは頼んだぜ」


「お任せ下さいませ! 既に発見して監視を続けておりますわ」


 ネレアは元気に応じる。

 優雅な所作とは裏腹に、仕事がとても速い。

 さすがは支配領域の主である。

 都市内の構造をよく理解している彼女だからこそ為せる芸当だろう。

 俺の指示通り、見失わないように監視をしているようだ。


「その道を右折してくださいまし」


「了解」


 ネレアの言葉通りに道を曲がった。

 車幅ギリギリの路地をエンジンを唸らせて突き抜けていく。

 ガタガタと石畳の振動が伝わってくる。

 迂闊に喋ると舌を噛みそうだった。


(悪くない流れだ。せっかくだし一気に畳みかけるか)


 ネレアを引き込めたのは大きい。

 彼女のバックアップが得られるのなら、多少なりとも大胆な作戦を打つこともできる。

 想定より有利な展開に転がりつつあった。


 逃走するミハナを追いかけるのはこれで二度目だ。

 一度目は決闘の時で、無様な敗北を晒す羽目になった。

 だが、今回はそうはいかない。

 あれから幾度となく対策を練った。

 油断や慢心も捨てている。

 今度こそ、徹底的に追い詰めて始末してやろう。

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