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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第94話 爆弾魔は妖術師と交渉する

 俺の言葉を受けたネレアは、きょとんと首を傾げる。


「……何のことでしょう。わたくしは、エウレアという国を長年に渡って統治しております。他国と関係を持つなどありえませんわ」


 彼女は平然と言ってのけた。

 あくまでもとぼけるつもりらしい。


 俺はため息を吐きつつ、短くなってきた煙草を吸う。

 そして、ネレアの目を見ながら尋ねた。


「暗殺王が派遣した配下をどこへやった?」


「…………」


「誤魔化せると思うなよ。ただの言いがかりじゃない。それなりの確証を得ているんだ」


 俺はゆっくりと足を組み直す。

 その間、ネレアは無言だった。


「潔白だというのなら、屋敷に保管した資料を調べさせてくれ。何重もの結界で立ち入り禁止になっている区域に保管してあるものだ。何も出てこなければ謝るさ」


「…………」


 ネレアはやはり沈黙を続ける。

 このまま白を切るようなら手荒な手段に出るが、果たしてどう動くか。

 およそ一分の静寂を経て、彼女は微笑を浮かべた。


「これは、もう仕方ありませんわね。そうです。ご指摘の通り、わたくしは他国に干渉しております」


「やけに素直じゃないか。具体的にどこの国だ」


「隣にある帝国ですわ。その中の一勢力にお力添えをしております。皇帝が不在である状況で、速やかに覇権を握っていただくためです」


 隣と言うと、俺を召喚した国だ。

 内乱が激化しているとは聞いていたが、ネレアが関わっているとは思わなかった。

 少し意外である。


 ネレアが癒着している国については、アリスからいくつか予測を聞いていた。

 帝国はその中でも確率が低い部類だった。


「あの国に手を貸す目的は何だ」


「わたくしが助力する勢力は、おそらく次代の皇帝となるでしょう。今のうちに恩を売っておきたいのです」


 ネレアは当然のように語る。

 半ば確信した口ぶりから察するに、何らかの根拠があるのだろう。

 少し気になるが、話題が脱線するので今は触れないでおく。


「近い将来、わたくしはエウレア国内のパワーバランスを崩します。帝国にはそれに協力してもらうつもりです。賢者や暗殺王を出し抜くには、他国の援助が不可欠ですので」


「そいつはハッピーな計画だな。無駄な争いを避けて、国力を高めるのが基本方針じゃなかったのかい」


 初対面だった集会の際、ネレアが言ったことだ。

 代表同士が衝突するとなれば、エウレア国内全土で戦争が勃発する。

 彼女のスタンスとはかけ離れているはずだった。


 俺の指摘に対して、ネレアは真顔で答える。


「主義主張の異なる複数の代表がいるより、一人に権力を集中させる方が円滑に事が進みます。結果的に平和が訪れますし、素晴らしいことだと思いますが」


「まあ、それについては否定しないがね」


「巨竜人ドルグがいなくなった今こそ、時代を変える好機です。わたくしは、エウレアのさらなる飛躍のために革命を起こします」


 ネレアは覚悟の決まった顔で断言する。

 嘘を言っている雰囲気ではない。

 彼女は本気でエウレアを掻き乱すつもりらしい。

 想像以上に好戦的な女である。

 何か企んでいるかと思ってはいたが、方向性が少し異なっていた。


 俺は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。


「素敵なプレゼンをありがとう。それにしても、ぺらぺらと喋ってよかったのかい。悪事が残らずバレちまったが」


「貴方達に企みを隠し通すことはできませんわ。いずれ露呈するのなら、見苦しい嘘で誤魔化すこともないでしょう?」


 ネレアは優雅に紅茶を飲みながら言う。

 確かに彼女の言う通りだ。

 俺達がなりふり構わず調べれば、きっと帝国との癒着は見つかっていた。

 余計な被害が生じる前に白状してしまうのは、実に懸命な判断と言えよう。


「ところでジャック様」


「何だ?」


「なぜわたくしに調査のことを打ち明けたのでしょう。その意図が分かりませんわ」


 今度はネレアから質問された。

 確かに俺達の目的を彼女に打ち明けるメリットは無い。

 いたずらにネレアを警戒させるだけだ。


 俺は新しい煙草に火を点けながら、堂々と答えを述べる。


「あんたに隠れて調査することは不可能だと結論が出たんだよ。大したセキュリティーだ」


 娯楽都市には、無数のネレアの分身がいる。

 加えて厳重な結界が張られていた。

 屋敷内に重要な資料がありそうなのだが、無断で持ち出すのは不可能と判明した。


 現在は別行動を取るミハナにも、別の分身が同行している。

 娯楽都市において、ネレアの目を完全に欺くことはできない。

 アリスが魔術的な力を以てしても厳しいと言うのだから、諦めるしかないだろう。


 こそこそと調査を試みても、その過程でネレアに感知されてしまう。

 観光する中で試行錯誤したが、結局は有効な手立ては見つからなかった。

 そうして頭を悩ませること自体が面倒になり、ネレアにカミングアウトを決心したのである。


 以上の理由を要約して伝えると、ネレアは目を細めた。

 彼女の視線の圧がはっきりと強まる。


「お言葉ですがジャック様。それを聞いたわたくしが、何もしないとお思いでしょうか」


「何もしないんじゃない。できないのさ」


「……どういうことでしょう」


「この都市の各所に爆弾を仕掛けてある。妙な真似をしたら即座に起爆する」


 非常に優秀であるネレアの感知能力だが、完璧に俺達の一挙一動をチェックできていたのかと言えば、そこまでの精度と持続力は有していない。

 厳重に張られた結界を突破して、気付かれずに悪事の証拠を手に入れるのは確かに不可能だ。

 ただし、爆弾の設置くらいなら僅かな時間で実行できる。

 その辺りは俺の得意分野だ。

 誰にも譲れないプライドと、それに見合う能力があると自負している。


「爆弾ですか……」


 実際、ネレアは初めて聞いたような反応だ。

 彼女は真剣な顔になると、虚空を見つめ始める。

 何をしているかを察した俺は、起爆スイッチを片手に掲げてみせた。


「おっと、他の分身に爆弾の解除をさせるなよ? 大事に育てた街が瓦礫の山になるのは嫌だろう。俺だって心が痛むからやりたくない」


「わたくしが脅しに屈するとでも?」


「脅しではなく命令さ――本体を殺されたいのか?」


「……っ!」


 ネレアの表情が大きな驚きに変わった。

 それに満足しながら俺は話を続ける。


「おおよその居場所は既に掴んでいる。位置を変えても無駄だぜ。アリスが常にマークしている」


「絶対に逃がさないわ」


 アリスがいつもの冷淡さで述べる。

 虚勢などではない。

 寡黙な彼女が口にする言葉には、純然たる事実だけが乗せられていた。


 無数の分身がいるということは、それを統括する本体が存在する。

 その事実には早い段階から気付いていた。

 何しろ俺達の調査をブロックするほどの連携力だ。

 洗練された命令系統で分身を操っていなければ、とても不可能なことである。


 肝心の居場所については、アリスが存在を感知した。

 彼女は魔術の専門家だ。

 他の代表である賢者や妖術師とも渡り合える――いや、それ以上の力を持つ。


 娯楽都市の観光中、アリスは各所に施されたネレアの妖術を解析していった。

 そして妖術の発生源となる術者――つまりは本体の位置を特定したのである。

 ついでに妖術を効率的に破壊する魔術も開発していた。


 娯楽都市で暮らした日々は、ただ遊んでいたのではない。

 陰の努力で手札を増やし、ネレアを交渉のテーブルに着かせるための布石であった。


 煙草をくわえながら、俺は意地の悪い笑みを見せる。


「俺達があんたの本体を狙った時、確実に止められる備えがあるのか?」


 ネレアが戦いを不得手とするのは知っている。

 分身による疑似的な不死性が強みなのだ。

 暗殺王を警戒しているのは、圧倒的な隠密能力によって本体をダイレクトに殺されかねないからだろう。

 その対策に重点を置いているという事実こそが、ネレアの弱点を明らかにしていた。

 数十体だろうが数百体だろうが、分身を殺し尽くすだけの自信はある。


「俺達はドルグを始末した。次にあんたの墓を立ててもいい。どうだ、シンプルな話だろう」


「うっ……くぅ……」


 ネレアは俯いて震える。

 膝に置いた拳は、血を滲ませるほど固く握り締められている。

 追い詰められていることを知って、怒り狂っているのだろうか。

 顔を見せない彼女は、呼吸を荒げながら言葉を紡ぐ。


「さ……」


「さ?」


「さすがジャック様ですわ!」


 ネレアは顔を上げる。

 そこには、蕩け切った表情があった。


「暴力的ながらも狡猾な根回し! 危険を承知で目的を打ち明ける胆力! 如何なる状況でも決して揺るがない自信! 嗚呼、とても素敵ですわ……」


 立ち上がったネレアは、早口で興奮気味に語る。

 そこに怒りは無く、むしろ俺への好意で溢れていた。

 瞳に浮かんだハートマークが乱舞している。


「この人、危ないわ」


「同感だ」


 露骨に引いているアリスに、俺は頷いて応じる。

 どうしてここまで好かれているのか、さっぱり分からない。

 俺の言動が彼女の琴線に触れたのだろうか。

 とりあえず、偽りの感情でないことは伝わってくる。


 なかなかクレイジーな女だが、実を言うと好都合なリアクションだった。

 俺が想定していた中でも抜群に良い。

 次の計画が成功する見込みが高いからだ。


 咳払いをした俺は、煙草を置いて立ち上がる。


「ネレア」


「はいっ、なんでしょう!」


 嬉々として反応するネレアに、俺は深いため息を吐く。

 微妙に頭痛がするのは、気のせいではないだろう。


「頼むから落ち着いてくれ。話はまだ終わりじゃない。俺が調査のことをカミングアウトした一番の理由はここからだ」


「一番の理由、ですか……」


 ネレアはテンションを下げて考え込む。

 切り替えが早くて助かった。


 別に調査を諦めただけなら、それをネレアに打ち明ける必要はなかったのだ。

 わざわざ脅迫することもない。

 彼女が帝国に関与していることだけを突き止めればいい。

 それすらスキップして、いきなり暗殺へ向かうことだってできた。

 実行に移さなかったのは、とある提案があるからだ。


 俺は困惑するネレアに手を差し伸べる。


「なあ、ネレア。俺達と組もうぜ。賢者と暗殺王を出し抜こうじゃないか」

※エウレア関連における各人物の目的です。

 本編で明記された分となっております。


ジャックとアリス:ネレアの調査と暗殺。ミハナの殺害。

賢者:エウレアの繁栄と平穏。四人の代表の団結。

暗殺王:エウレア内における不穏分子の除去。

ネレア:エウレア国内の覇権の獲得。四人の代表制度の撤廃。

ミハナ:ネレアの調査と暗殺。

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