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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第93話 爆弾魔は核心に迫る

 円形の客席から怒声や応援が飛ぶ。

 何段にも連なった席は、八割以上が埋まっている。

 そんな客席に囲われた場所に俺は立っていた。


(すごい熱量だな……)


 ここは娯楽都市内にある闘技場だ。

 ネレアの権力を利用して飛び入りで参加したのであった。


 ここには俺を含めて七人の参加者がいる。

 揃いの粗末な服を着ており、全員が丸腰だった。

 辺りには多種多様な武器が落ちている。


 待機していると、大きな鐘の音が鳴り響いた。

 試合開始の合図だ。

 参加者達は一斉に武器を拾う。


 俺も彼らに倣い、金属製の棍棒を掴み取った。

 バットに近い形状で、リーチはそれなりにある。

 こいつでぶん殴ってやれば、昏倒では済まないだろう。


 他の六人は、俺の様子を窺っていた。

 どこか意気投合している雰囲気だ。

 互いに争わず、じりじりと俺との距離を詰めてくる。


「チームプレイかい? いいだろう、まとめて相手をしてやるよ」


 俺は好戦的な笑みを浮かべる。


 隔絶した力を持つ人間を協力して倒すというのは、悪くない策だ。

 こういったバトルロイヤル形式では妥当なやり方だろう。

 ジャック・アーロンの実力はこういった場所でも認知されているらしい。

 いやはや、誇らしい限りである。


 自分の知名度の高さに感心していると、同時に三人の参加者が突進してきた。

 後方では様子見らしき者と、詠唱を始める者が集まっている。

 魔術師タイプが紛れていたようだ。

 彼らの場合、魔術があるので丸腰でも脅威となる。

 射線には気を配っておこう。


「シャァッ!」


 屈強な体格の大男が、大上段から斬撃を繰り出してくる。

 振り下ろされる剣を躱しながら、俺は棍棒で大男の喉を突いた。


「……ッ!?」


 大男は声にならない悲鳴を上げてよろめく。

 そこを足払いで転倒させた。

 受け身も取れずに後頭部を強打した大男は、泡を噴いて気絶する。


 二人の前衛は、左右から挟み込むように迫ってきた。

 武器は斧と短剣だ。

 彼らは大男の動きを囮に仕掛けてくる。

 上手いタイミングだ。

 たぶんこの形式の戦い方に慣れているのだろう。


 俺は左右の武器を凝視して、その軌道を見極める。

 棍棒で斧を食い止め、短剣は相手の手首を掴んで止めた。

 さらに勢いを乗せて後ろ回し蹴りをする。


「ご、ぶぐぁっ!」


 斧使いの顔面に踵が炸裂した。

 鼻血を噴き出しながら、斧使いは後方へ倒れ込む。

 ついでに狼狽える短剣使いを殴り飛ばした。

 二人とも起き上がってこない。

 これで残り三人だ。


「おいおい、張り合いがねぇな。もう少し気張っていこうぜ」


 挑発しつつ、今度は俺から接近する。

 走り出すと同時に、矢が飛んできた。

 俺は首を傾げて回避する。

 胴体を狙った一射は指でつまんで止めた。


「なッ!?」


「ヒャッホウッ」


 驚愕する弓使いの顔面に跳び膝蹴りを浴びせる。

 数ヤードほど飛んだ弓使いは、白目を剥いて痙攣していた。

 我ながら清々しいノックアウトである。


「さて、次はどいつが……っと。危ねぇな」


 上体を逸らすと、そこを火球が通過する。

 飛んできた方向を見れば、杖持ちの二人がいた。

 初撃を外した彼らは、やや焦りながら詠唱を完成させると、火球と雷撃を発射してくる。


 俺は跳躍しながら前方宙返りをして、放たれた魔術を躱した。

 常に詠唱を聞いていれば、発射タイミングが分かる。

 視線や手の動きで軌道も予測可能だ。

 避けられない道理が無い。

 何発撃たれようとも同じであった。

 落下を始める中、俺は棍棒を投擲する。


「ぎゃっ」


 高速回転する棍棒は、魔術師の額に直撃した。

 俺は地面を転がりながらナイフを拾い、起き上がる動きに合わせて投げる。

 ナイフはもう一人の首に刺さった。

 二人の魔術師は同時に倒れる。


「ふむ……」


 俺は辺りを見回す。

 他の参加者は全滅していた。

 立っているのは俺一人である。


 その瞬間、客席から嵐のような喝采が轟いた。

 中には泣き崩れている者もいる。

 たぶん賭けに負けたのだろう。


 鳴り止まない歓声を受けながら、俺はその場を離れて控え室へと向かう。

 これで金が貰えるのだから楽な仕事だ。

 ちょっとした小遣い稼ぎだったが、身体を動かせたので良かった。


 思い返すと、元の世界でも似たような経験をしていた。

 雇い主の意向で参加させられたこともあれば、バーのツケを払うために奮闘した時もあった。

 なんとも懐かしい。

 あの頃から俺自身は変わっていないが、環境的には様変わりしてしまった。

 人生とは本当にどう転ぶか分からないものである。


 しみじみと昔の記憶を遡っていると、通路にアリスが立っていた。

 彼女は手を伸ばしてハイタッチを求めてくる。


「華麗な勝利だったわ。さすがジャックさんね」


「否定はしないな。俺はいつだってクールなんだ」


 ハイタッチに応じながら答えると、アリスは難しい顔をする。


「……またいつもの冗談?」


「ハッハ、勘弁してくれよ」


 雑談を交えながら俺達は通路を進む。


 先ほどの賭け試合も含めて、ここ最近は娯楽都市の施設を満喫していた。

 印象に残っているのは奴隷商館だ。

 そこには様々な種族の奴隷が取り揃えられていた。

 戦争奴隷や犯罪奴隷などが多いらしい。

 購入の際は、魔術的な契約で主従関係を結ぶのだという。


 興味はあったが買ってはいない。

 今後の展開次第では、足手まといになる可能性が高いからだ。

 諸々の仕事が済んだ際は、購入を検討しようと思う。


 ネレアの屋敷では、温泉を使いたい放題だった。

 美容や健康にいいとのことで、アリスは嬉しそうに利用している。

 そういった分野には関心が薄いと思っていたが、意外とそうでもないようだ。

 俺は効能には興味がなかったものの、温泉自体はとてもいい。

 一日の終わりに浸かると、疲れがさっぱり取れる。


 この都市において、俺が唯一敗北したのは賭博場であった。

 元の世界と酷似したギャンブルが主だが、この世界特有のものも少なくなかった。

 俺は潤沢な資金に任せて気軽に参加した。

 結果、ポーカーもどきのゲームではそれなりに勝てたが、それ以外の成績はイマイチだった。

 ギャンブルは好きだが、あまり強くないのだ。

 俺が負けた分はアリスが取り戻してくれたので、資金が底を尽きたとかそういう事態は起きていない。


 そういった施設やサービスを利用しながら、俺達は日々を満喫していた。

 娯楽都市の名に恥じない場所ばかりで、存分に楽しませてもらっている。


「じゃあ、ちょっと待っててくれ」


「分かったわ」


 控え室に到着した俺は、一人で中に入った。

 シャワーで汗や返り血を洗い流す。

 預けていた着替えと装備を受け取って着替えた。


 そのままアリスと共に、闘技場の特別席へ向かった。

 ガラスで仕切られたその空間では、優雅に座るネレアが待っていた。


「ジャック様! 貴方様の勇姿、しかとこの目に焼き付けました……っ!」


「そいつは良かった」


 熱烈な感想を受け流しつつ、俺は空いたソファに座る。

 眼下では早くも次の試合が行われていた。

 巨大な魔物と一人の男が死闘を繰り広げている。

 観客は喉を枯らさんばかりに叫んでいた。


「皆様、楽しんでいらっしゃるようですわね」


「結構なイベントだからな。そりゃ盛り上がるだろうさ」


 俺は煙草を吸いながら言う。

 他の都市でも、この規模の闘技場は見たことが無かった。

 観客の過半数がネレアの支配領域に住む人々らしいが、誰もが生き生きとしている。

 こういった息抜きの催しを楽しむことで、ストレス発散にしているのだろう。


 支配領域の統治という面で考えると、かなり上手くいっている。

 民衆がネレアに対して不満を抱いていないからだ。

 むしろこの環境に感謝して受け入れている。

 この闘技場以外にも様々な施設があるため、多方面の需要にも応えられるようにできていた。


 数週間に渡って観察したことで、この都市の凄さを実感した。

 同じく支配領域を持つ者として学ぶべき点が多いように思う。

 良い所はどんどん取り入れていきたい。


 その後は特別席で世間話をしながら試合の観戦をする。

 闘技場の試合が三つほど進行した頃、俺はふと別の話題を切り出した。


「――そういえば、一つ質問があるんだが」


「まあ、なんでしょう? わたくしの知り得る範囲でしたら、何でもお答え致しますわ」


「何でも、か……」


 嬉しそうなネレアを前に、俺は紫煙を吐き出す。

 隣に座るアリスが身じろぎをした。

 ほんの僅かながらも緊張が伝わってくる。


 俺はネレアの目を見ながら問いかける。


「ストレートに訊くが、あんたは他国と手を結んでいるのかい。実を言うと、俺達はその調査でこの街へ来たんだ」

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