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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第92話 爆弾魔は波乱の予感に愉悦する

 翌朝、俺達は温泉街を出て移動する。

 運転するゴーレムカーの助手席には、アリスが座っていた。

 後部座席がよほど不満だったのか、目に見えて機嫌がいい。


 ゴーレムカーの前方を先行するのは、虎に似た魔物だった。

 元の世界のそれと異なるのは、そのサイズである。

 象と見紛わんばかりの大きさで、脚の動きに合わせて地響きが起きている。


 疾走する魔物の背中には、妖術師ネレアとミハナがいた。

 この巨大な虎は、ネレアが呼び出した生物なのだ。

 妖術で使役しているらしい。

 出発前に可愛がっていたので、つまるところはペットなのだろう。


 現在、俺達が向かっているのは、ネレアの支配領域の主要都市だった。

 位置付けとしては城塞都市や樹木都市と同じである。


 暴走を謝罪したネレアに、その詫びとして観光のガイドをさせることにしたのであった。

 本来のスケジュールだと主要都市へ向かうのは少し先だが、予定を前倒しにしている。

 途中の日程は独断でカットさせてもらった。

 元々、偽装旅行のカモフラージュで巡る予定だった場所だ。

 こうしてネレアと接触した以上、わざわざ立ち寄る必要もない。

 それより早い段階で彼女の本拠地に堂々と入れる方がいい。


「ねぇ、ジャックさん」


「何だ」


「どうしてネレアに案内役を頼んだの?」


 そういえば、アリス達には意図をまだ話していなかった。


 まず目立つ動機を挙げるなら、力関係の強調だろうか。

 ここで大々的にネレアを従えることで、俺に主導権があることを周知させるのだ。

 ネレアが招いた人間となれば、第三者に対しても大物だという印象を植え付けられる。

 ネレア本人にもそのイメージを与えておきたい。

 交渉は主導権を握った方が勝つものだ。

 この根回しにより、後の展開を動かしやすくなる。


 加えてこの地はネレアの支配領域なので、同行させるだけで行動に自由が利く。

 様々な特権を得られると言ってもいい。

 どうせ俺達の居場所が感知されるくらいなら、開き直って利用してやる方が建設的だと思う。


 それに、平穏で退屈な旅行にもそろそろ飽きてきた。

 途中の街をスキップしてネレアの拠点へ直行できるのなら、俺はその手段を選びたい。


 そういったことをアリスに伝えると、彼女はくすくすと笑う。


「ジャックさんらしい考えね」


「俺は常に俺らしく生きているからな」


 己を抑制して模範的な行動ができるのなら、元の世界で軍人を続けていただろう。

 少なくとも殺し屋紛いの傭兵にはなっていなかったはずである。

 まあ、過去の経歴に関しては後悔していない。

 俺なりに考えて選んだ道だ。

 自由気ままに暮らす生活は悪くない。


 途中で食事を挟みながらも、俺達はほぼノンストップで移動していった。

 そうして日没と同時に、目的の主要都市が見えてくる。


 その都市は外観は、今までに見てきた物とは明らかに異なっていた。

 外敵を想定した壁が無く、ビルのように高さのある建物が多い。

 極めつけは、線路らしきものが設けられている点だった。

 都市の外に続いたそれは、どこかへと伸びている。

 その上を列車らしき乗り物が走っていく。

 果ては見えないが、近隣の街にでも繋がっているのだろうか。


「随分と発展しているな」


「調査情報にはなかったから、ごく最近に設置されたようね」


 思わぬ都市の発展ぶりに、俺とアリスは感心する。

 この都市については、概要だけは調べていた。

 様々な施設やサービスが充実しており、巷では娯楽都市と呼ばれているらしい。

 商業的な収益は、エウレア内でも指折りなのだという。


「遠目にも分かるほどの数の結界が施されているわ。いくつもの系統を織り交ぜて対策しているようね。あれでは魔物は入れないし、攻撃魔術も弾けるはずよ。すごい設備ね」


「だから外壁が必要ないか」


 不用心すぎると思ったが、さすがに対策はしているようだ。

 アリスがここまで言うということは、本当にすごいのだろう。

 俺の目にはただの街にしか見えないものの、彼女は魔術関連の専門家である。

 信じる他あるまい。


 その後、俺達は都市へと入り、その中央部へと向かう。

 ネレアがあの虎の魔物に騎乗したままだったため、ちょっとした騒ぎになりかけたが、彼女の配下らしい者達の尽力で場は治められた。

 手慣れた感じでパニックを押さえていたので、この手のトラブルはよくあることらしい。

 ネレアがあの性格なので、部下の苦労はお察しである。


 都市の中央部には、広大な屋敷が建っていた。

 驚くべきことに、木造建築の七階建てだ。

 屋敷と称していいのか迷うスケールをしている。

 ここはネレアの住まいで、俺達はその中の客間を使わせてもらうことになった。


「専用の温泉もございますので、そちらもご自由にお使いください。ご用があれば、いつでも参りますのでお呼びくださいませ」


「助かるよ」


「いえいえ、とんでもございません。わたくしの過ちが発端とは言え、ジャック様のお役に立てて嬉しいです」


 恭しく述べながら、ネレアは静かに退室する。

 扉を閉める寸前、目にハートマークが浮かんでいた気がするが、あえてスルーしておこうと思う。

 別に実害が無ければどうということはない。

 あまり邪険にすると、別方向での暴走を誘発するかもしれない。

 適度に受け流すのが懸命だろう。

 モテる男の苦悩である。


 三人になった部屋で、手始めに俺は指示を出す。


「アリス、盗撮や盗聴の心配がないか調べてくれ」


「分かったわ」


 待ち構えていたアリスは流れるような動作で室内を点検していく。

 チェックはものの一分ほどで終了し、彼女はふるふると首を横に振った。


「念入りに調べたけれど、該当する術や魔道具は無かったわ」


 さすがに妙な仕掛けはなかったようだ。

 まあ、ネレアも反省していたので、大丈夫だとは思っていた。


「ねぇ」


 ミハナが俺の前に立つ。

 不機嫌そうな顔だ。


 俺は肩をすくめて尋ねる。


「どうした。腹でも減ったのかい」


「この状況、どうするの。予定が滅茶苦茶だし、ネレアに隠れて動くなんて不可能よ」


「ああ、そのことか」


 ミハナが言っているのは、暗殺王からの仕事だろう。

 ネレアの調査、そして暗殺。

 彼女の住まいにいる現状では、極秘裏に調査することは難しい。

 ミハナはそう主張し、原因である俺を非難していた。


「まあ、気にするな。上手くやるさ」


「……そう。なら勝手にやらせてもらうわ」


 ミハナはわざとらしくため息を吐くと、そのまま部屋を出ていった。

 苛立った調子の足音は、すぐに聞こえなくなる。


「彼女、放っておいて大丈夫?」


「問題ないさ。油断はできないが、大した害にはなり得ない。むしろ泳がせておくべきだろう」


 ミハナの能力に関しては、既に目星が付いている。

 ここで彼女を放置したところで、何か起こるというわけでもない。

 そもそも、彼女にされて困るアクションが皆無なのが現状であった。


(単独行動が感情的な理由だけでなかった場合……暗殺王から密命でも受けている可能性はあるな)


 十分にありえることだ。

 その内容までは定かではないものの、俺達とは異なる目的を持っていたとしてもおかしくない。

 俺達自身がミハナ殺害という別目的に従って行動しているくらいなのだから。


 ネレアも今は大人しいが、いずれ暴走する恐れがあった。

 いや、彼女なら確実に暴走するだろう。

 対峙して感じたあの独占欲は、並大抵のことで治まる類ではない。

 必ず再燃するに違いない。

 それだけの執着心が、彼女をエウレア代表という地位に押し上げているのだと思う。


「ジャックさん、楽しそうね」


 色々と考え事をしていると、アリスに話しかけられた。

 俺はおどけた調子で答える。


「事実、存分に楽しんでいるからな。愉快なものさ」


 だんだんと互いの思惑が渦巻いてきた。

 これらの軋轢は強まっていき、やがて大きな爆発を生み出すだろう。

 想像するだけで気分が上がってくる。


 結局、俺は闘争を求めているのだ。

 平和など似合わない。

 本能の赴くままに暴れ散らし、のさばる連中を蹴散らして楽しむ。

 爆弾魔の性は、俺自身にも抑えられないものであった。

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