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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第90話 爆弾魔は妖術師と親睦を深める

 眼前に予期せぬ人間が立っている。

 苦笑いする俺が取った行動は、やんわりと注意することだった。


「ここは男湯だが、見間違えたのかい?」


「あら、よそよそしくされては悲しいですわ」


「俺とあんたは、裸の付き合いをするほどの仲じゃないだろう」


「エウレアの未来に携わる者同士、親交を深めるのも良いものですよ。それとわたくしのことは、ネレアとお呼びくださいませ」


 優雅に微笑みながら、妖術師ネレアは近寄ってくる。

 そして、脚から湯に浸かって俺の隣に座った。


 ネレアの頬はほんのりと紅く染まっている。

 首筋から鎖骨までが艶めかしいラインを描いていた。

 ふとした拍子に洩れる吐息にも色気がある。


 どれも計算されたものだろう。

 些細な動作に至るまでが完璧すぎるのだ。

 惑わされてはいけない。


 ネレアはこちらを向いて首を傾げる。


「わたくしの顔に何か付いておりますか?」


「いや。こんな場所で再会するとは思わなかったからな。少し驚いていたのさ」


 これは本音である。

 確かに旅行計画では、彼女と会う予定があった。

 しかし、それは何日も後の話だ。

 彼女の拠点の都市に俺達から来訪するはずだった。

 それだというのに、まさかこんなタイミングで再会するとは。


 俺は暗殺王から受けた仕事を思い出す。

 この女には、悪事を企んでいるという疑惑がある。

 真偽の調査と、場合によっては暗殺を命じられていた。

 その対象が目の前にいる。


 偶然ここにいたと考えられるほど、俺は楽観的にはなれない。

 彼女の支配領域に入ってまだ数時間だ。

 待ち伏せされていた可能性が高い。

 勘付かれていたのだろうか。

 ありえない話ではない。


 妖術師もエウレア代表の一人だ。

 多少の差こそあれ、他の代表と同格の力を持っているということである。

 特に彼女は代表を務める期間も最長らしい。

 それだけ一筋縄ではいかない人物ということだった。


(暗殺王の奴、厄介な仕事を押し付けやがったな……)


 俺はため息を吐きながら胸中で愚痴る。


 契約の都合上、断れない仕事だった。

 決闘の際に取り決めていたからだ。

 つまり元を辿れば、俺の軽率な行動が原因なのだ。

 あまり強く文句を言えないのが辛いところである。


 俺が密かに唸る一方、ネレアは口元に手を当てて笑っていた。


「うふふ、そんなに緊張しないでくださいまし。この地は、わたくしの支配領域ですのよ。湯に浸かっていたとしても、何ら不思議ではないでしょう?」


「……男湯でなければな」


 相槌を打ちながら、俺は思考を巡らせる。

 ここから一体どうしたものか。

 今の俺は武器を持っていない。

 すべてロッカーに預けてきたからだ。

 手に持っているのは鍵とタオルだけで、殺し合いの上で頼るには心許ない。


 向こうは妖術を扱うと聞く。

 魔術の親戚だという話は聞いているので、厄介なことは確定していた。

 何をされるか分かったものではない。


 ひとまず様子見が一番だろう。

 ネレアが何の目的で接触してきたのかを判断しなければ。

 こちらの仕事がバレていない可能性もまだ十分にある。

 自然を装って怪しまれないのが先決だ。


「それにしても、再びジャック様とお会いできて嬉しいですわ。一度、ゆっくりとお話ししてみたかったんですもの。集会の際はそれどころではありませんでしたから」


「あの時は迷惑をかけたな。今後は気を付ける」


 俺が謝ると、ネレアは穏やかに首を振る。


「いえいえ。お二人の事情は聞いておりますので。過去の因縁はそう簡単に拭えるものではありません」


「そいつは同感だな。何度も失敗してきたよ」


 どこの世界にも諍いや仲違いは存在する。

 それらを穏便に解決できるのは、本当に幸運なことだと思う。

 俺のような人間が生きる世界だと、大抵はどちらかの死で決着される。

 握手一つで関係が元通りになることなど滅多になかった。 


「そんな中、仲直りの旅行先にわたくしの支配領域を選んでいただき、光栄に思うばかりですわ」


「賢者におすすめされてね。あんたの統治する街は、どこも観光に適していると聞いた」


「ええ、観光には特に力を入れております。訪れた方々が楽しんでくださらなければ、発展も望めませんので。戦よりも娯楽。それがわたくしの信条ですわ」


 ネレアは自信に満ちた顔で述べる。

 元代表のドルグとは、とても相容れないスタンスだろう。

 あいつは血と暴力を至上としていた。

 各都市にはこれといった娯楽も無く、犯罪組織が跋扈するような始末である。

 俺が来訪する前は、代表同士でさぞ衝突していたものと思われる。


 その後、俺とネレアは二人きりの温泉で世間話に興じた。

 基本的には聞き手に回り、ネレアの話を相槌を挟む。

 彼女の語る内容には、俺に対する興味や好奇心が垣間見えた。

 それとなく質問される時があったので、答えを濁して誤魔化しておく。

 何気ない内容から口を滑らせては堪ったものではない。

 話には付き合いつつも、下手に喋られないのがベターだろう。


 そうして話題が途切れたタイミングで、不意にネレアが手を掴んできた。

 彼女は上目遣いになると、静かな口調で俺に告げる。


「よろしければ、わたくしの部屋で話の続きをしませんか? あまり長くなるとのぼせてしまいますわ」


 熱っぽい視線だ。

 控えめながらも有無を言わせない口調である。

 もちろん、ここで誘いに乗るのは不味い。

 俺の直感が囁いている。

 典型的なハニートラップであり、迂闊に引っかかると痛い目に遭うだろう。


 ただ、探りを入れるチャンスでもあった。

 せっかくターゲットのネレアと話をできるのだ。

 彼女が悪事を企んでいないかを調べてもいい。

 場合によっては、暗殺に有利な弱点なども見つかるかもしれない。


 基本的にはミハナ殺害が最優先だが、与えられた仕事を無意味に手抜きすることもない。

 その辺りは傭兵としてのプライドがある。

 俺はネレアの潤んだ瞳を見つめ返しながら尋ねる。


「それなら俺達の部屋へ来ないか? 皆で話す方がきっと盛り上がる」


「――素晴らしいですわ。他の方々ともお話したいです!」


 ネレアは笑顔で頷く。

 しかし、一瞬ながらも間があった。

 俺だけを誘い込むのが目的だったらしい。

 まあ、わざわざ男湯に入ってきたのだから分かることだ。

 やはり油断できない。


 それから俺達は一緒に温泉を出た。

 着替えてから部屋へ向かう。

 部屋の扉を開けると、そこにはアリスとミハナがいた。

 湯上りで寛いでいた二人は、ネレアを目にして動きを止める。


「え……あれっ!?」


 ミハナは目を見開いて露骨に動揺する。

 そういえば、彼女は突発的な事態に弱いのだった。

 暗殺王から課せられた本来の仕事を連想しているのだろうが、あまり慌てると不審がられるのでやめてほしい。


「ジャックさん、どういうことかしら」


 対照的にアリスは冷静だった。

 彼女の追及の目を受けて、俺は淡々と事情説明を行う。


「――というわけで、親睦を深める会をすることになった。今日は皆で仲良く楽しもう」


「突然の来訪となり申し訳ありません。この場においてはエウレア代表ではなく、ただの友人――ネレアとして接していただけますと嬉しいですわ。ご迷惑かもしれませんが、よろしくお願い致します」


 そう言ってネレアは二人を見ると、慇懃な調子で一礼した。

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