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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第87話 爆弾魔は召喚者の秘密に気付く

 俺達を乗せたゴーレムカーは、妖術師の支配領域を目指して移動する。

 ドラゴンの心臓を核とすることで、この車両は無尽蔵のエネルギーを蓄えている。

 元々は消耗の激しいパワードスーツ形態のための機能だが、通常時にもきちんと働いていた。

 おかげで燃料を補給せずとも走り続けることができる。


(こんなにも便利なら、ドラゴンの乱獲も視野に入れておくか……)


 膨大な経験値も獲得できる上、死骸は余すところなく活用できる。

 ドラゴンは素晴らしい生物だ。

 おまけに害獣というか天災扱いされているため、乱獲したところでクレームも来ない。

 むしろ感謝され、竜殺しの英雄として称えられる始末である。

 ドラゴンが群れを成して生息する地域もあるそうなので、いずれ訪れてみたいものだ。


 そんなことを考えながら移動すること暫し。

 正午を越えた辺りから曇り空が目立ち始め、やがて雨が降ってきた。

 雨の勢いは強まり、豪雨と呼べるような状態になる。


「ったく、ついてねぇなぁ……」


 俺はハンドルを操りながらぼやく。

 タイヤがぬかるみで滑りやすくなっている。

 気を付けないと、何かの拍子にスピンしそうだった。


「ジャックさんは雨が嫌いなの?」


「基本的に好きではないな。湿った空気が気持ち悪い」


 気分が乗らない上、仕事によっては不都合な天候である。

 こちらが有利になる場合もあるが、基本的には望ましくない。

 だいたい余計な手間が増える。


「ハァ……」


 一定の間隔でフロントガラスをワイパーが往復する。

 車内は沈黙に包まれていた。

 外の雨音だけが絶えず鳴り続けている。

 しばらくした頃、俺は暇潰しとしてミハナに話しかける。


「なぁ、どうしてエウレアにいるんだ。こんなヤバい国に来なくとも、帝国でやっていけたんじゃないか?」


「……アンタは知らないでしょうけれど、帝国内に召喚者の行き場は無いの」


 そう言ってミハナは愚痴を吐き始める。


 彼女の話によると、召喚者は帝国内で嫌われているらしい。

 異世界召喚に際する莫大なコストが、国民の負担によって賄われたからだ。

 無理な増税や人員の徴収により、人々の生活が苦しくなったのだという。


 とは言え、貴族連中からしてみれば、国民の不満など関係ない。

 戦争に勝つためとして、国民から血税を搾り取り、召喚魔術を強行したのだそうだ。

 そういった経緯があるため、人々は召喚者に悪印象を持っているのである。


 確かに彼らから見れば、日々の暮らしを厳しくした元凶とも考えられる。

 風当たりがきついのは仕方ない。

 不慮の事故と認識されている帝都爆破も、召喚者によるものではないかと噂されているそうだ。

 それに関しては間違いではないので、尚更に性質が悪い。


「おまけに各地で後継者争いまで起きているし、帝国はとても平穏に暮らせる状況ではないわ。戦争の道具として利用される未来しかない」


「だからエウレアに亡命したのか」


 ミハナは頷く。

 彼女は窓の外を眺めながら、手を組んで伸びをした。


「この国は、身分を隠して生きるには最適だから。そうしてエウレアで活動するうちに、代表の人達が目を付けてくれたのよ。こっちの国は居心地がよかったわ……アンタと会うまではね」


 ミハナがじろりと睨んでくる。

 やはり恨まれているようだ。

 あの時の決闘がよほどトラウマらしい。

 彼女は深々とため息を吐く。


「私もヤマハシ君の【時間停止 A+】みたいなスキルを持っていればよかったけれど……」


 俺の記憶が正しければ、ヤマハシはミノルのファミリーネームだ。

 確かにあの能力があれば、あらゆる場面において困ることがない。

 羨んでしまうのも理解できる。


「へぇ、時を止められる召喚者がいるのか。そいつはすげぇな」


「何をとぼけているの。謁見の間で宰相が全員のスキルを公表したでしょ」


「ゲームみたいな言葉ばかりで、よく理解できていなかったんだ」


 振り返るとあれは失敗だった。

 もっと真剣に聞いておけばよかったと思う。

 異世界召喚というシチュエーションで、俺も少なからず慌てていたのかもしれない。


「……ひょっとして、私のスキルも分からない?」


「ああ、覚えが無いな。よかったら教えてくれるかい」


「絶対に嫌よ」


 ミハナは即答する。

 召喚者にとって自分のスキルは命綱に等しい。

 できるものなら秘匿したいと思うだろう。

 ましてや、自分を殺しかねない人間に伝えたいとは考えまい。


「あっ」


 会話の途中、不意にミハナが声を発した。

 彼女の横顔を覗くと、前方をじっと見据えていた。

 視線の先を確かめるが何もない。

 豪雨でぬかるんだ街道が続くばかりである。


「どうした?」


「いや……何もないわ」


 我に返ったミハナは首を振る。

 明らかに何かを隠している様子だった。


 俺はバックミラーで後部座席のアリスを見る。

 彼女は小首を傾げていた。

 ミハナの不審さには気付いているようだが、その正体は分からないらしい。

 残念ながら俺も分からない。


(ひとまずはスルーしかないか……)


 問いただしたい気持ちを抑えて、俺は黙って運転に専念する。

 ここでしつこく尋ねたところでミハナは答えないだろう。

 機会があれば探ろうと思う。


 それから一分もしないうちに、俺はゴーレムカーを停車させた。

 前方を氾濫した川が横切っているからだ。

 横断するための橋は、見事に損壊していた。

 濁流に奪い去られたのか、割れた一部分だけが残っている。


「おいおい、勘弁してくれよ。今日はとことんついてないらしい」


 俺はハンドルを軽く小突く。

 ゴーレムカーなら無理やり渡れるだろうが、そこまで急ぐこともない。

 万が一、車内に浸水されても困る。

 俺はハンドルを大きく切りながら発進する。


「仕方ない、迂回するぞ」


 俺は煙草をくわえる。

 火を点けようとして、寸前で留まる。

 豪雨のせいで窓を開けられず、必然的に換気ができない。

 車内に煙が充満することになる。

 俺は諦めて煙草を戻し、唇を噛んで息を吐いた。


 アリスは心なしか退屈そうな顔をしていた。

 彼女は後部座席で魔道具を弄っている。


 ミハナは頬杖をついて窓の外を眺めていた。

 普段なら気にもならない態度だが、俺はさりげなく観察を続ける。

 手の指が細かく動いていた。

 足も貧乏ゆすりを繰り返している。

 表情は微妙に硬い。


 今のミハナはどうにも落ち着きがなかった。

 どれも些細なことだが、先ほどまで無かった行動だ。

 頑なに動揺を隠そうとしている。


(なぜ慌てているんだ?)


 俺は何食わぬ顔で運転しながら考える。

 タイミングからして、川の氾濫が関係しているのだろう。

 その直前、不意に声を上げた点も気になる。


 ミハナが俺に隠したがることは、それほど多くないと思われる。

 真っ先に候補に挙がるのは、彼女のスキルだ。

 少し前の会話で、召喚者の能力についての話題があった。


 そこでミハナは、自らのスキルが露呈していないと知った。

 俺が知らないということを、彼女は知ってしまったのである。

 何気ないことに思えて、これは非常に大きい。


 バレていたはずのことが、実はバレていなかった。

 そうなると必然的に意識してしまい、なんとか秘匿しようとする。

 ミハナにとって何よりも隠したいことなのだから当然だろう。


 その心理が働いたことで、彼女は挙動不審となっている。

 仮定だらけだが、納得はできる話だった。


 もし動揺の原因がスキル関連だった場合、ここ数分のやり取りの中にヒントがあったことになる。

 すなわちミハナの能力解明に繋がる糸口だ。

 今後のことを考えると大きな前進である。


 これらの推論が間違っていたとしても、別に俺にデメリットはない。

 ただの勘違いで済むだけだ。


(どちらにしろ、確認しておくべきだな)


 俺は脳内で計画を組んでいく。

 仮説を重ねるばかりでは、何の進展もない。

 やはり実際に試した方が早い。


 どこかで行動を起こさなければ、ミハナの殺害は叶わないのだ。

 一度この辺りで仕掛けておくのも手だろう。


 川を越えた先には、宿泊予定の街がある。

 チャレンジの舞台としてはちょうどいい。

 アリスともよく相談して、気付かれないように進めなければ。

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