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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第85話 爆弾魔は暗殺を請け負う

「依頼だって? 俺に何をさせたいんだ」


 俺は暗殺王に質問を投げる。

 暗殺王が持ちかけてきたということは、契約の権利を使うつもりなのだろう。

 決闘に敗北した俺は、一度だけ暗殺王からの仕事を無条件で請け負わねばならいのだ。

 契約書ではそういうルールだった。


 いずれ頼み事でもされるかと思っていたが、想定よりタイミングが早い。

 何か急用でもあるのだろうか。

 わざわざ深夜に私室へ忍び込んで頼むということは、あまり表沙汰にはできないことだろう。


 俺の考えをよそに、暗殺王は重苦しく語る。


「エウレア代表の一人――妖術師が怪しい動きをしている。他国との接触の疑いがある。国内の安寧を乱しかねない」


「へぇ、そいつは穏やかじゃないな」


「汝にはその調査を依頼したい。場合によっては、妖術師の暗殺も許容する。ミハナと協力して、真実を突き止めろ」


 暗殺王の話を聞いた俺は、腕を組んで考え込む。

 妖術師とは、集会にも同席していた狐耳の美女だ。

 彼女の支配領域に俺を派遣したいらしい。


 その前に色々と突っ込みたい部分があった。

 どうやら暗殺王は口下手のようで、本当に最低限のことしか話さない。

 無条件に従わないといけないとは言え、即座にイエスと返すには判断材料が少なすぎた。

 俺は思考を整理しながら質問をする。


「どうして俺に依頼するんだい。暗殺なら部下に命じればいいじゃないか」


 暗殺王は暗殺教団を率いている。

 悪人を始末する専門機関だ。

 およそ百年前に設立されて以降、脈々とその力を受け継いでいるらしい。


 エウレア国内においても、暗殺という一点においては他の追随を許さない闇の組織である。

 国外からも依頼があるほどだった。


 そんな暗殺教団のトップに君臨するのが、目の前の暗殺王だ。

 調査や暗殺は専門分野であり、俺に頼む理由が分からない。

 それこそ、暗殺王が自ら暗殺に向かう手もあるだろう。

 こうして誰にも気付かれずに俺の私室に潜入しているのだから、片手間にできる仕事に違いない。


 そういったことを指摘すると、暗殺王は沈黙した。

 やがて言いにくそうに回答する。


「……密偵が一人も帰ってこない。我が赴こうにも、妖術とは相性が悪い」


「相性?」


「専用の結界を張られている。支配領域に侵入できない」


「ほほう、そいつは大変だな」


 俺は他人事で相槌を打つ。

 専用の結界を張られるとは、暗殺王と妖術師は仲が悪いのだろうか。

 或いは過度に暗殺を警戒しているのかもしれない。

 おそらくは後者が正しい気がする。

 俺だってこんな風に不法侵入されたいとは思わない。


 しかし、それが分かった上でもまだ疑問が残る。

 俺は一番気になっていた部分を訊くことにした。


「依頼の概要はいいとして、なぜミハナを同行させるんだ」


「あの娘は生存能力に長けている。未熟だが、聡明な部分もあり、此度の調査に最適だ。ただ、暗殺に足る力が無い。そこで汝を選んだ」


「随分と評価しているんだな。ところで、俺が彼女を殺したがっていることを知った上での依頼かい?」


 俺が尋ねたその瞬間、不意に暗殺王が動き出した。

 流れるようにソファを飛び越えると、俺の眼前で静止する。

 靄の中から大鎌が伸び、その緩やかに湾曲した刃が俺の首に添えられている。


 一方、俺は拳銃を暗殺王に突き付けていた。

 弾丸には精霊石のパウダーをたっぷりとコーティングしてある。

 半端な魔術は容赦なくぶち抜けるだろう。

 靄で姿を誤魔化しているようだが、この至近距離なら関係ない。

 引き金を引くだけでまとめて吹き飛ばせる。


「…………」


 暗殺王は微動だにしない。

 ただ冷徹な視線を送ってくる。


 俺は喉を鳴らして軽く笑う。


「どうした? ここで戦うつもりなら、俺は反対しないぜ?」


「……あの娘を殺せば、汝を殺す。穏健派の賢者は手を取り合っての繁栄を望んでいるようだが、我は違う」


「それで?」


「不要と判断すれば、斬り伏せるのみ也……ゆめゆめ忘れるな」


 暗殺王の言葉には、確かな怒りが込められていた。

 理性という蓋で押し込めているが、隙間から覗いている。


 しばらく睨み合ったのち、俺は拳銃の引き金から指を離した。


「怖いことを言うなよ。ただのジョークさ。彼女に情でも移ったのかい?」


「…………」


 暗殺王は答えない。

 代わりに大鎌を靄の中に引き戻した。

 僅かに発露した怒気も感じられなくなる。

 取り乱したことを自覚し、自らを律したのかもしれない。


 俺は拳銃を仕舞いながら、指を追って確認をする。


「妖術師の悪事の調査と、企みによっては暗殺。それでいいんだな?」


「――出発は三日後。娘はこの街に派遣する」


 それだけ述べると、暗殺王は空気に溶け込むようにして消えた。

 希薄な気配すらも無くなっている。

 室内には真の静寂が戻った。


 私室に残された俺は、戸棚からワインボトルとグラスを取り出す。

 それらを手にソファへ戻って晩酌を始めた。


(悪くない展開だ)


 自然と頬が緩みそうになる。

 ミハナを殺せるチャンスがやってきた。


 暗殺王も苦渋の決断だったろう。

 ミハナと俺を組ませるなど、常軌を逸したアイデアである。

 彼女の身を案じるなら、絶対にとってはいけない選択だ。


 きっと暗殺王もそれは分かっている。

 そういった懸念を度外視するほど、妖術師の動きを警戒しているということだ。

 つまりは、二人の召喚者を投入するほどの敵と認識しているのである。


 個人的には、妖術師に悪い印象は無い。

 集会時にも静観を貫いており、俺にはあまり関心が無い様子だった。

 新参として馬鹿にすることもなく、だからと言って手放しで歓迎する感じでもなかった。

 本当に中立的な態度というイメージである。


 彼女に関することも調査しているが、特筆事項はこれといってない。

 他の代表に比べると、ごく平凡な統治を行っている。

 美しい種族をやや優遇しているそうだが、極端な冷遇や差別までは無かった。

 あくまでも妖術師に気に入られやすいといった程度だ。

 支配領域の特徴としては物足りない。


 改めて考えると、少し怪しい気もした。

 端的に言って特徴がなさすぎるのだ。

 暗殺王の話を加味した場合、意図的な印象操作の疑いが浮上してくる。

 悪事が露呈しないように、あえて目立たないようにしている可能性だ。

 陰で暗躍するタイプだろう。

 思い返せば、元の世界でも似たような人間を目にしてきた。


 何にしろ暗殺王の密偵が戻ってこないということは、後ろめたい事情が潜んでいるのは確実だ。

 それを軽く調べて、暗殺王に密告しよう。

 妖術師の殺害には興味がないので、難しそうなら断念してもいい。

 俺の標的は、あくまでもミハナのみである。


 先ほどのやり取りから鑑みるに、暗殺王とは間違いなく敵対することになるだろう。

 仲良くやっていけないのは残念だが、こればかりはどうしようもない。

 ディベートで言い負かして意見を覆せるものでもないのだ。


 向こうも俺の凶行を見越して、様々な策を打ってくるに違いない。

 出発までの三日間で、諸々の課題を解決しておかなければ。

 万全の状態でミハナを出迎えようと思う。

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