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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第80話 爆弾魔は堅実に街づくりを進める

 エウレア代表との集会から数週間が経過した。

 城塞都市に戻った俺は、それなりに平穏な日々を送っている。


「お待たせしました」


 食堂の一席に座っていると、シェフが料理を運んできた。

 テーブルに置かれたのは、黒い鉄板に載ったステーキだった。

 見るからに分厚く、軽く一ポンドはある。

 焼き加減はミディアムレアだ。

 目の前にあるだけで、なんとも香ばしい匂いで誘ってくる。


 さっそく俺はナイフでステーキを切り分けていった。

 刃はほんの少しの力で肉に入り込む。

 それだけ柔らかいのだ。

 期待を抱きながら、俺はフォークで一口分を刺して食べる。

 数秒ほど味わい、ほっと息を洩らした。


(美味い。想像以上だ)


 思わず唸ってしまうほどの味だった。

 元の世界の牛肉と酷似している。

 それも最高級のやつだ。

 調理したシェフとハグをしたくなる。


 調理前は独特の獣臭さがあったのだが、香草で臭みが消されていた。

 ぴりっとしたスパイスも合わさって、全体の味を適度に引き締めている。

 しつこさがないので、胃もたれの心配も不要だろう。

 それで肉のジューシーさが口の中で暴れるのだ。

 美味くないわけがない。


 このステーキは前肢のない亜竜――ワイバーンの肉を使っている。

 支配領域にある谷に生息していた個体だ。

 行商人が近くを通るたびに被害を受け、付近の生態系も乱していたので、俺が討伐隊を率いて乱獲してきた。

 今頃、街の酒場ではワイバーン肉が振る舞われているだろう。

 ついでに巣を破壊して、新たなワイバーンが寄り付かないようにした。


 人間の生活圏に突如として魔物が現れ、何らかの不利益をもたらすことは珍しくないらしい。

 俺とアリスが立ち寄ったドワーフの集落も、ドラゴンの脅威に晒されていた。

 元の世界でいうところの害獣にあたるのだろうが、異世界は被害の規模が根本的に異なる。

 下手をすると軍隊でも勝てないようなモンスターが平気で出てくるのだ。

 冷静に考えると、なかなかハードモードな世界である。


 そんなわけで実施したワイバーンの乱獲だが、アリスの提案で数頭を生け捕りにしてきた。

 捕獲した個体は、専門の魔術師が調教を行っている。

 既に従順なワイバーンもいるらしい。

 主に航空戦力とするのだそうだ。


 亜竜という名称から察せられる通り、言ってしまえばドラゴンの劣化版に近い魔物だが、その強さを舐めてはいけない。

 その丈夫な翼で自由に空を飛び、降下してきたかと思うと火炎のブレスを浴びせてくるのだ。

 生身の人間など堪ったものではない。

 多少ながら魔術耐性も備えているので、半端な編成で挑めば一網打尽にされるだろう。


 さらに巣から卵も回収したため、孵化させればワイバーンの数を増やせる。

 将来的には、ワイバーンに騎乗した兵士による部隊を作りたい。

 俺の爆弾を持たせれば、地上の軍隊に対して一方的な爆撃も可能だろう。

 想像しただけで愉快な気分になる。


(いずれは正式に軍を作りたいが、まだ少し先だな。焦ると街が追いつかない)


 ステーキを頬張りながら、俺は考え事に耽る。


 アリスが代表になったという報は、街の人々の間で周知されていた。

 諜報部によると、概ね肯定的な反応ばかりだという。

 一部の連中がよからぬことを企んでいたが、そういった連中は俺が残らず死体に変えた。

 後になって余計なことをされても困る。


 汚れ仕事は俺の専門だ。

 支配領域における人々からの支持はキープしたい。

 ここが頑張り時だろう。

 スタートこそ、地盤固めを疎かにはできない。


 今の環境はとても便利だった。

 様々な研究を並行して行える上、資金面で困窮することもない。

 媚を売ってパトロンを確保する必要もないのだ。

 まさに理想のシチュエーションと言えよう。


 だからこそ、邪魔をする連中は容赦しない。

 元の世界へ帰還するためにも、非情に徹する覚悟はある。


 ちなみにこの数週間、他の代表からの連絡や接触はなかった。

 便利屋コンビを派遣してミハナを監視させているが、彼女は依然として樹木都市にいる。

 賢者から魔術を習っているのだろう。

 俺からの攻撃を警戒して、護身術でも教えている可能性がある。

 連中だって馬鹿じゃない。

 契約書の拘束力を過信せず、何らかの対抗策を用意しているかもしれなかった。


 それは面倒だが、こちらから止められるものでもない。

 俺のミスが招いた結果だ。

 潔く認めて、それを加味した動きをすべきだろう。


 一方で俺は、暗殺王からの奇襲を警戒していた。

 その名の通り、奴は暗殺の達人である。

 どんな標的でも仕留めてきたという逸話まであるほどだった。

 誰も正体を知らず、長年に渡って暗殺教団を束ねている。


 ミハナの身を案じた暗殺王が、俺を始末しにくることがあっても驚かない。

 集会の時のやり取りから考えるに、ミハナは随分と気に入られているようだった。

 彼女のために暗殺を試みてくる可能性は否定できない。

 俺が同じ立場と心情なら、間違いなく実行するだろう。


 暗殺王の実力の真偽を語るまでもない。

 エウレア代表という地位が証明している。

 あの座は小手先の努力や機転で維持できるものではない。

 そんなものを積み重ねて君臨しているだけなら、ドルグがとっくに侵略しているはずだ。


 何はともあれ、暗殺王の動向にも気を配った方がよさそうである。

 いきなり寝首を掻かれたらさすがに笑えない。

 場合によっては、俺から殺しに行くことも検討しようと思う。


 物騒なことを考えながら食事をしていると、食堂の扉を開けてアリスが登場した。

 彼女は俺の向かい側に座る。

 すぐにシェフが俺と同じステーキを運んできた。

 それをアリスの前に置く。


 残り半分を切ったステーキを一瞥しつつ、俺はアリスに尋ねる。


「何かあったかい?」


「代表からの招待よ。ジャックさんに街の案内をしたいそうね」


 アリスが見せた手紙を受け取る。

 差出人は賢者だ。

 今回は代表同士の集会などではなく、俺に街の案内をしたいらしい。

 場所は樹木都市となっている。

 至って普通の内容で、意味深な気配は感じ取れなかった。


 俺は手紙を置いて苦笑する。


「目的は何だと思う?」


「おそらく懐柔ね。名実共にジャックさんを仲間に引き込みたいようだわ」


「同感だ。ついでに釘を刺すつもりなんだろう」


 集会から数週間を開けての招待ということは、俺の頭が冷えるのでも待っていたのか。

 懐柔のタイミングとしては間違っていないように思える。


 これは俺にとっても悪い話ではなかった。

 偵察ついでに樹木都市の観光をするのはいいかもしれない。

 都市開発の参考にもなる。

 樹木都市の技術力には関心があった。


 無論、その場では何もしない。

 ミハナにも手を出さない。

 まだこちらの準備が万全ではなく、そもそも契約書のせいで殺害できないからだ。

 迂闊な真似をすれば、賢者からの制裁を受けることになる。

 何も解決していない現状でそれは避けたい。

 今回は純粋に観光を楽しませてもらおう。


 ステーキを完食した俺は食堂の出口に向かった。

 そこで振り向き、手紙をひらひらと振りながらアリスに告げる。


「アリス。外出の準備だ。賢者様に会いに行こうじゃないか」

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