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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第76話 爆弾魔は決闘に挑む

「やあ、久しぶりじゃないか。会いたかったぜ」


「な、なんでここに……っ」


 召喚者の女は呆然と呟く。

 恐怖でパニックになっているようだった。

 尻餅をついたまま動こうとしない。


 俺は鼻で笑いながら、拳銃を女に向ける。


「細かい事情はどうでもいい。確かな事実は、俺がお前を殺すってことだけだ」


 拳銃の撃鉄を起こす。

 その時、何かが前腕に飛来してきた。

 咄嗟に腕を引くも、追尾して絡み付いてくる。


 それは半透明の鎖だった。

 かなり厳重に巻き付いており、そう簡単に外れそうにない。

 俺は鎖の飛んできた方向を見やる。


「おい。何の真似だ?」


 鎖の一端を掴んでいるのは賢者だった。

 つまり、おそらくこれは魔術である。

 詠唱もなく発動したらしい。

 そのスピードは、今までに殺してきた魔術師とは別物だ。

 賢者の名は伊達ではない。


 そんな賢者は拳銃を一瞥すると、険しい表情で問い詰めてくる。


「それはこちらの台詞だ。何をやっている」


「この女とは因縁があるものでね。鉛玉をぶち込んでやらないと気が済まないんだ」


 俺は拳銃の照準を女に合わせたまま答える。

 女は涙目だった。

 良心の呵責は抱かない。

 殺すと決めた以上、躊躇は存在し得ないのだ。


 賢者は俺が止まらないと悟ってため息を吐く。


「過去に何があったかは知らないが、勝手なことをされては困る。彼女――ミハナは俺のもとで学ぶ研修生なんだ。殺されるのを黙って見守るわけにはいかない」


「……我の配下でもある」


 暗殺王が厳かに発言した。

 言外に俺の振る舞いを非難している。


 妖術師だけは、ニコニコとこちらのやり取りを傍観していた。

 第三者に徹するつもりらしい。


 この場で殺害を強行するのは悪手だろう。

 賢者と暗殺王が敵対してしまう。

 殺し合いに発展した場合、面倒なことになるのは必至だった。


(ひとまずタイミングを改めるか……)


 俺は殺気を解き、拳銃の引き金から指を離す。

 同時に鎖は消失した。


 賢者は俺の前に立つ。

 ちょうど女を庇う立ち位置だ。


「ミハナのことを、異世界に召喚された人間と言ったな? 彼女の正体を知っているのか」


「もちろん。お仲間って奴さ」


「こ、この男が帝都を爆破したんですッ! それで私達を殺そうと……!」


 召喚者の女――ミハナが大声で告げ口する。

 場の空気的に有利だと察した途端にこの言動だ。

 苛立ちのあまり、衝動的な行動をしそうになるも寸前で堪える。

 俺にだって多少の理性はある。

 今は我慢をする時だ。


 賢者は何とも言えない表情で俺を見る。


「例の爆弾魔……そうか、まさかお前も異界の勇者だったとは……」


「そんな風に呼ばれる柄じゃないがね」


 帝都爆破の件は知っているらしい。

 ミハナから聞いているようだ。


 それにしても、異界の勇者という肩書きには笑いそうになる。

 あまりにも不釣り合いだった。

 俺が名乗っても滑稽なだけである。


「とりあえず、お前達の仲が険悪であることは分かった。ジャック・アーロン」


「何だい?」


「過去の因縁を捨てて、ミハナへの殺意を抑えられるか?」


「無理だな。諦めてくれ」


 俺は首を振って即答する。

 当然だ。

 誰に止められようと、俺は標的を逃がさない。

 そのスタンスで既に二人の召喚者を抹殺した。

 三人目だって同様だ。

 そこに例外は無い。


「俺達も黙って見過ごすわけにはいかない。ミハナは大切な部下だ。殺害は許可できない」


「そうか、残念だ……」


 毅然とした賢者の言葉に、俺は肩を落とす。

 一方で意識は拳銃の感触を確かめる。

 俺の邪魔をするのなら、誰であろうと排除する。


 この至近距離だ。

 賢者の額をぶち抜くのは簡単だった。

 目を閉じていても弾は当たる。


 無論、賢者も俺の行動は予測しているだろう。

 今の時点で十二分に警戒されている。

 魔術で防御してくるはずだ。

 それが展開される前に撃ち殺すか、防御を突破しなければいけない。


 脳裏で数十の殺し方を検討していると、賢者が口を開いた。


「だが、折衷案がある。ジャック、お前も納得できるはずだ」


「聞こう」


「然るべき手続きを踏めば、殺し合いも認可されている。すなわち決闘だ」


「決闘だと?」


 俺は思わず聞き返す。

 この場面で出てくる言葉とは思わなかったのだ。


 賢者が片手を振る。

 その手には、いつの間にか二枚の羊皮紙が握られていた。

 魔術の契約書だ。

 時間停止の召喚者ミノルと戦った際に使ったので印象に残っている。

 賢者は契約書を開きながら言う。


「魔術的な契約を結んで行う決闘だ。これなら双方に利益がある。詳しい説明は歩きながら話そう」


「やはりせっかちだな。今から決闘を始めるのか」


「繊細な問題だ。すぐに解決した方がいい」


 賢者は振り向きもせずに言って部屋を出る。

 無駄な問答が嫌いな性格らしい。


 俺は肩をすくめる。


「オーライ、あんたに従うよ。何事もルールは大事だ」


 一方でミハナは気まずそうに立ち上がった。

 彼女は助けを求めるように視線を彷徨わせる。


「あの、これって拒否権とかは……」


「――ミハナ」


「は、はいっ」


 暗殺王に呼ばれて、ミハナは背筋を伸ばす。

 ほとんど反射的な動作だった。

 よく訓練されている。

 配下という話があったので、その中で義務付けられたのだろう。


 暗殺王は幾分か芯の通った声音で告げる。


「己の力を信じよ。汝は強い」


「ありがとう、ございます……」


 ミハナはおずおずと頭を下げる。

 見た目は靄の塊という不気味さを持つ暗殺王だが、意外と部下思いなのかもしれない。

 まあ、俺には関係の無いことである。

 粛々と目的を遂行するまでだ。




 ◆




 その後、賢者の案内で移動した。

 着いた先は、巨樹の地下にある空きスペースだ。

 バスケットボールができるくらいの広さがある。


 俺とミハナはその中央で対峙した。

 他の者は部屋の端に寄っている。

 場は独特の緊張感に包まれていた。

 俺は賢者に問いかける。


「さて、ここで決闘するってこといいのか?」


「いや。間違ってはいないが、少しだけ手を加える」


 答えた賢者が床に手を置く。

 すると、部屋全体が振動し始めた。

 床や壁が波打ち、軋みながら変形していく。


 そうして二十秒もしないうちに揺れは治まった。

 部屋の中央にいたはずの俺は、狭い通路の中に立っていた。

 前後に分かれ道があり、その先も入り組んでいるのが見える。


 これは明らかに迷路だ。

 見える範囲には誰もおらず、天井まで壁が続いていた。

 よじ登って全貌を確認できないようになっている。

 賢者が魔術で生成したのだろうか。


「ははっ、こいつはすげぇや」


 魔術の万能性に感心していると、天井に砂時計の映像が浮かび上がった。

 映像の砂時計は、徐々に砂を落としている。

 それを眺めていると、やけに響く声が聞こえてきた。


『砂時計の砂がすべて落ちるまでが制限時間だ。その間にミハナを殺せばジャックの勝利、逃げ切ればミハナの勝利となる。勝敗が決した際の処理は契約の通りだ』


 賢者の声はそれだけ述べると、ぷつりと途切れる。

 説明は以上みたいだ。


「迷路の中での鬼ごっこか。決闘のイメージとは違うが面白いじゃないか」


 軽く屈伸をしながら俺は笑う。


 道中で魔術契約は既に済ませていた。

 その内容はやや複雑だ。


 今から実施される決闘において、俺が勝利した場合は暗殺王から賞金と支配領域の一部を譲渡される。

 ミハナが勝利した場合、俺とアリスは彼女を意図的に死亡させるあらゆる行為を禁じられ、さらに一度だけ無条件で暗殺王の仕事に協力しなければいけない。

 加えて賢者及び暗殺王の二名は、ミハナが死亡しても報復行動を取ってはならない。


 大まかに言えばこのような内容だ。

 これらを反故した際の代償は魂の隷属である。

 今回の契約書はグレードが高いそうなので、下手なズルはできないようになっている。

 ミノルの時のように偽名なども通用しない仕様だった。


 賞金や支配領域の譲渡には興味ないが、やらない手はない。

 代表達に邪魔されず、堂々とミハナを殺せるチャンスなのだ。

 多少のリスクを負ってでも乗るべき話である。


「そろそろ行くか……」


 天井の砂時計を見るに、制限時間は五分くらいだろう。

 ここがどれだけ入り組んでいるか分からない。

 迅速に行動すべきだ。

 拳銃とナイフを携えて、俺は迷路の中を歩き出した。

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