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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第75話 爆弾魔はエウレアの代表となる

「挨拶も抜きに本題かよ。せっかちだと言われないか?」


 俺は嫌味を交えて言いつつ、テーブルの下で足を組んだ。

 向かい側に座る男は臆せず答える。


「効率主義だと呼んでくれ。俺達のことは既に調べているだろう? お互いに挨拶は不要だ」


 男の言う通り、確かに代表に関する調べは付いていた。

 ちなみにこの男は賢者と呼ばれており、非常に優れた魔術師である。

 代表の中でもリーダー的な立ち位置だ。

 よその国にも知られているほど著名らしい。


「それにしても、なぜ俺を代表にしたがるんだ」


 俺が尋ねると、賢者は淀みなく答える。


「難しい話ではない。お前はドルグを殺した。ならば、諸々の跡を継ぐのが道理だろう」


「せっかくドルグという競合相手が消えたんだ。新しい代表なんて見繕わずに、空いた支配領域を乗っ取っちまおうとは考えなかったのか?」


「そうするとお前と争うことになる。あの巨竜人を殺すような男とは戦いたくない」


 賢者は苦い表情で述べる。

 ドルグの戦闘能力を知っている顔だ。

 過去に争ったことがあるのかもしれない。

 あれの脅威を知っているとなれば、俺を恐れるのも納得ができる。


 俺はニヤリと笑いながら手を広げた。


「正直者だな。好感が持てるよ」


「無駄な争いは起こさず、エウレア全体の国力を高めていく。それがわたくし達の基本方針。素晴らしいでしょう?」


 別の方向から声がした。

 静観していた代表の一人による発言である。


 それは狐耳の美女だ。

 凛とした顔立ちで、ゆったりと着崩した赤い衣服を纏っている。

 鮮やかな花柄が散りばめられており、日本の着物に似ていた。

 佇まいや風貌が妖艶な雰囲気を漂わせている。


 彼女は妖術師だ。

 事前調査によると、魔術の親戚のような能力を用いることができるらしい。

 魔物を操ることもできるのだという。

 代表としての在籍期間が最も長いそうだ。

 二十代にしか見えない外見とは裏腹に、実際はかなりの高齢なのだろう。


 じっと見ていると、なぜか妖術師にウインクされた。

 なんとなく危ない気配がするのでスルーを決め込む。

 ああいう女に関わると碌なことがない。

 これは経験則だ。


 賢者は咳払いをして話を続ける。


「お前が支配領域を衰退させるなら介入せざるを得なかった。だが、お前はよくやっている。ドルグは軍事力ばかりを優先して都市開発を蔑ろにしていた。文句を言えば戦争をちらつかせる暴君だった」


「そこは同意さ。あいつは最低だった」


 俺は深く頷く。

 振り返れば、ドルグとは対立ばかりの日々だった。

 主義や主張は似通っていた気もするが、たぶん立場や身分の差ですれ違ったのだと思う。

 例えば同僚の傭兵みたいな関係で出会っていたら、意気投合できたのではないだろうか。

 まあ、今となっては無意味な妄想である。


「ジャック・アーロン。お前が危険人物であることは事実だが、エウレア代表としての適性はあると思っている。俺達と国を発展させていかないか」


「ふむ……」


 賢者の提案に、俺は腕組みをして考え込む。

 随分と熱心に口説かれるものだ。

 今回は部下になれという感じでもない。

 あくまでも対等な関係だ。

 悪い気はしなかった。


 正直、今の時点でも代表みたいな立ち位置を担っている。

 既に城塞都市を始めとした各所を支配していた。

 業務にも大きな変化はないと思われる。


「お前が代表になれば、商業的な援助を約束しよう。思うままに支配領域を発展させることができる。友好の印として、無償での資源提供をしてもいい」


「随分と大盤振る舞いだな。話が旨すぎて逆に怪しい」


「それだけお前のことを評価しているということだ」


 賢者は真剣な顔で述べる。

 妖術師も頷いていた。

 隣ではアリスがなぜか誇らしそうにしていた。


 ここまで実力を買われたのなら、さすがに無碍にもできない。

 エウレア国内で活動する以上、代表との付き合いは必須になってくるのだ。


 俺は人差し指を立てて告げる。


「一つ、条件がある」


「何だ」


「俺は代表にはならない。アリスに務めてもらう。彼女の方がイメージがいい」


 残念なことに、俺は狂った爆弾魔として周知されている。

 分類的にはドルグと同じだ。

 暴力で敵を叩き潰してトップに君臨しているのである。


 そんな人間が代表になると、どうしても印象が悪い。

 一方でアリスが穏健なイメージを持たれがちだ。

 そばに俺がいるからというのも大きい。

 対照的に良識のある人間だと思われるのだ。

 性格も冷静沈着で、実務面においても彼女に任せれば申し分ない。


「アリスがブレーンで、俺はそのボディーガード。構図は悪くないと思うが、どうだろう?」


「俺はそれで構わないぞ。実質的な支配権がジャック・アーロンにあるならそれでいい」


「わたくしも賛成です。可愛い女の子が代表になるなんて素敵ですわ」


 賢者と妖術師はそれぞれ了承する。

 彼らは俺達が代表という派閥に加われば満足らしい。

 アリスが代表だとしても誤差の範囲なのだろう。


 俺は二人から視線をずらす。


「あんたはどうだい? さっきから黙り込んでいるが」


 テーブルの端にひっそりと座る影に問いかける。

 そこには黒い靄の塊があった。

 うっすらと人型の輪郭を保っている。

 不気味だが、事前にその素性を調べていたので驚きはしない。


 靄の塊も立派な代表の一人だ。

 暗殺教団のトップで、巷では暗殺王と呼ばれているのだという。

 常に影魔術で容姿を隠しており、素顔を見た者は闇に葬られるという話だ。


 暗殺王の靄が僅かに蠢く。

 視線がこちらに向いた気がした。


「……我も異論ない。汝らの判断に託そう」


 地響きのような低い声だった。

 堅苦しい言葉遣いだが、ようするに賛成らしい。

 それを聞いた賢者は、手を打って注目を集める。


「決まりだな。ここにエウレアの新たな代表が誕生した。これからよろしく頼む」


「こちらこそ、と言いたいところだがその前に忠告しておく」


 俺は差し出された手を握らず、立ち上がって三人の代表を見回した。

 数秒の沈黙を経て告げる。


「まさか無いとは思うが、余計なことを企んで俺の邪魔をしてみろ。すぐにドルグと会わせてやる」


「ジャックさんは本気よ。あまり刺激しない方がいいわ」


 アリスは真顔で付け加える。

 賢者は首を振った。


「分かっている。お前達を裏切ることはない。そういった行為を毛嫌いしていることも知っている」


「それならいいさ」


 俺は薄笑いを浮かべて、賢者と握手を交わす。

 賢者は頷くと、幾分か明るい声で言う。


「さて、祝杯を挙げよう。何が飲みたい?」


「美味くて珍しい酒を頼む」


「私も同じものを」


 俺とアリスは即答した。

 細かな銘柄にこだわりはない。

 せっかくの機会なので、賢者のおすすめを飲んでみたいという魂胆であった。


 次に賢者は二人の代表に問いかける。


「お前達はどうする?」


「そうねぇ、わたくしはいつもの果実酒をお願いします」


「……我は水でいい」


 希望を受けた賢者は、手元の結晶に話しかける。

 あれは電話のような役割なのだろう。

 数分後、部屋の扉がノックされた。


「失礼します」


 声と共に一人の女が入ってきた。

 三つ編みにした黒髪で、野暮ったい眼鏡をかけている。

 彼女の持つ盆には、人数分の飲み物が置かれてあった。


(こいつは……)


 その顔を見た俺は、無意識のうちに眉を寄せた。

 両手をホルスターの拳銃に添える。


 凝視していると、すぐに女と目が合った。

 女はぴたりと凍り付いたかのように硬直する。


「わわっ、え!? いや、ちょっと……っ」


 一瞬の思考停止を経て、女は盆を投げ出して尻餅をついた。

 ひどく慌てているのは明白だ。

 震える手足で後ずさろうとしていた。


 その姿を目撃した俺は、肩をすくめて呆れる。


「驚いたな。異世界に召喚された人間は、エウレアに移住するルールでもあるのか?」


 嘆いてしまうのも無理はないだろう。

 飲み物を持ってきたその女こそ、残る召喚者の一人なのだから。

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