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第7話 爆弾魔は同郷の男を爆破する

 翌日の朝。

 用意された寝室に、誰かが入ってくる気配がした。

 足音が俺の眠るベッドへと近付く。


「…………」


 俺は枕の下に隠した拳銃を手に取り、いつでも撃てるようにした。

 何かあれば攻撃される前に鉛玉をぶち込んでやろう。

 その姿勢を保ちつつ、俺は自然を装って上体を起こした。


 目の前にはアリスがいた。

 昨日とは違う服装で、紫色のリボンをあしらった襟つきのワンピースだった。

 髪も綺麗にセットしている。

 まさに清楚なお嬢様といった具合だ。

 髭がざらざらで上半身裸の俺とは大違いである。


 敵意は感じられない。

 ただ起こしに来てくれただけか。

 アリスは俺に向かってお辞儀をする。


「おはよう、ジャックさん。さっそくなんだけれど、お客様が来ているみたい」


「お客様だって? しかも俺にかい?」


 どういうことだ。

 この世界に知り合いなんていないはずだが。

 アリスも不思議そうに首を傾げていた。


「私も知らない人なの。銃を持った異国の男を出せって。たぶんジャックさんのことよね?」


「ああ、俺だろうな。一体誰だ? デートの待ち合わせをした覚えなんて無いが」


「正装の男の人。すごく怒ってる。敷地の外であなたを待っているわ」


 正装の男か。

 やはり心当たりがない。

 実際に顔を拝みに行くのが手っ取り早いか。

 放置するわけにもいかないからな。


 俺はベッド脇に放ってあったTシャツを着る。


「教えてくれてありがとう。ちょっと見に行ってみるよ」


「気を付けてね。たぶん危ない人だから。強い憎しみを抱えているみたい」


「そういうのが分かるのか?」


 昨日の食事の会話でも、アリスはそれを匂わせるようなことを言っていた。

 錬金術師の技能なのか。

 もしくはスキルかもしれない。

 どんな効果のものがあってもおかしくないと思う。


 俺の疑問に対し、アリスはこくりと頷く。


「ええ、ちょっとだけね。喜怒哀楽くらいは分かるわ。何を考えているかを読むのは無理ね。あくまでも感情や精神の色だけ」


「それでも十分に便利じゃないか。まあ、注意するよ」


「朝食の準備をして待ってるわ」


「いいね。楽しみにしている」


 各種装備を身に付けた俺は、一人で部屋を出る。

 手にはライフルを携えていた。

 もちろん弾も入っている。

 出会い頭に問答無用でぶっ放す可能性もあった。


 恨まれているとすれば、この街の門兵達だろう。

 彼らの同僚が復讐しに来たというのも、ありえない話ではない。

 向こうにとって俺は、無理やり街へ入ってきた重罪人だ。

 排除を目論むのは当然の心理と思われる。


 まあ誰だったとしても、穏やかな会話にはならないだろう。

 気を抜かないようにしておかなければ。

 屋敷のエントランスに到着した俺は、玄関扉を開ける。


 敷地の外に誰かが立っていた。

 黒い柵越しにこちらを睨む男がいる。

 その姿を目にした俺は口笛を鳴らす。


「へぇ、驚いたな。そう来たか」


 その男は確かに俺の知っている顔だった。

 死んだはずの日本人の一人で、同時に召喚されたビジネススーツの男である。

 召喚当時、宰相ヴラーツェに異議を唱えた奴だ。


 俺は屋敷の庭を進みながら声をかける。


「やぁ、元気そうじゃないか。てっきり爆死したと思っていたんだが」


「お前を、探していたんだ……一つ目の街で見つけられるとは運がいい。帝都を爆破したのは、お前の仕業だな?」


 ビジネススーツの男は激情を抑えて言う。

 俺は素直に頷いてみせた。


「もちろん。連中がふざけた真似をしてくれたからな。それに見合ったことを実行した」


「やはりな……お前の凶行で、一体どれだけの人々が犠牲になったと思っているんだ……!」


「さぁ? 俺の知ったことではないね」


 男の追及に、俺は淡々と対応する。

 そんな風に非難されても困る。


「外道め……罪悪感はないのか!」


「あれば爆弾魔なんてニックネームを付けられたりはしないさ」


 元の世界でも爆弾魔と呼ばれていたくらいだ。

 数えきれないほどの人間を殺してきている。

 いちいち罪悪感を覚えるのなら、そもそも傭兵なんかやっちゃいない。

 不満げな男をよそに俺は質問をする。


「そんなことより、どうやって生き残ったんだ? あの爆破は都市を一瞬で崩壊させる規模だった。生き残れるとは思わなかったが」


 俺は門を開けて敷地の外に出る。

 内側からは感電のトラップは発動しなかった。

 何も隔てずに男と対峙する。


 男はぐっと拳を握る。


「俺の持つスキルのおかげだ。他の日本人も、それぞれのスキルで生き残っている。チート能力を得たのはお前だけじゃない。俺達は協力関係ではないが、全員がお前への復讐を企てているだろう!」


「ほう、楽しみで眠れなくなりそうだ。しかし、それをどうして俺に言ったんだ? サプライズが台無しじゃないか」


「お前に絶望を植え付けるためだ。深く後悔させなくてはいけない……それに、今から死ぬ者に何を教えようと構わないだろう?」


 男があからさまな挑発を口にする。

 その顔には、緊張と恐怖と怒りがない交ぜになって浮かんでいた。

 そりゃそうだ。

 いくら恨みがあろうと、躊躇いなく殺し合いをできるはずがない。

 元の世界では平和に暮らしてきたのだろう。


 懸命に虚勢を張る男の姿に、俺は顔に手を当てて大笑いする。

 朝から愉快なものを見てしまった。

 こいつは最高だな。

 拍手喝采で讃えたくなる。

 男が怪訝そうにするのも構わずに笑った。


 ひとしきり笑った後、俺は表情を消して男を凝視する。


「……なるほど、強気に出たじゃないか。復讐なんて考えなけりゃ、平穏に過ごせたのに。まあいいさ。かかってきなよタフガイ。木っ端微塵に吹き飛ばしてやる」


「この、狂人め! あのまま帝都の勇者として活動すれば、いずれ元の世界へ帰れたのにッ! それまで苦労なく過ごせたはずなんだ!」


 男は絶叫し、腰の鞘から剣を抜き放つ。

 あれで俺を斬り殺すつもりらしい。

 面白いじゃないか。

 その意気込みは嫌いじゃない。

 駆け出そうとする男を見て、俺は制止の言葉をかける。


「ちょっと待ってくれ。殺り合う前にあんたの名前を教えてほしい」


「……なぜそんなことを訊くんだ?」


 出鼻を挫かれた男は眉を寄せる。

 理解できないとでも言いたげであった。

 露骨に苛立っている。


 俺は指先をそっとホルスターに伸ばし、告げる。


「――あんたの墓を立てる時、名前を知らないと困るからだよ」


 言い終えると同時に、拳銃を腰だめに発砲した。

 狙い澄ました三連射は、すべて男に命中する。

 胸に二発と額に一発だった。


(あっけない。これでゲームオーバーだ)


 殺害を確信するも、甲高い金属音が響き渡った。

 命中した弾丸が軌道を反転させて、凄まじいスピードで俺のもとへ飛んでくる。


「おっと、マジか」


 俺は片手でライフルを発砲し、三発のうち一発を弾いた。

 残り二発は地面を転がって回避する。

 立ち上がったところで、頬を伝う熱い液体に気付く。

 手の甲で拭ってみるとそれは血だった。

 弾丸の一発が掠めたらしい。


 頬にできた傷を撫でつつ、俺は感心する。


「面白いマジックだな。どんなトリックを使ったんだ?」


「【完全反射 A+】の効果だ。俺への攻撃ダメージを倍加して跳ね返した。これで帝都の大爆発も凌いでみせた。このスキルがある限り、お前が何をしようと絶対に通用しない。俺は無敵なんだ!」


 男は自信満々に語り、剣の切っ先を俺に向けてきた。


「俺の名を知りたがっていたろう? 冥土の土産に教えてやる。ミネダ・コウジだ」


「なるほど、コージか。教えてくれてありがとう。今夜の祝杯までは憶えておくとするよ」


 拳銃を弄びながら、俺は朗らかに返した。



 ◆




「ヘイ、ぼさっとしてんなよ?」


 俺は短いステップで踏み込む。

 コージは反応できず、ほぼ棒立ちだった。

 少し遅れて、欠伸の出るような速度で斬りかかってくる。

 それを躱した俺は、ナイフによる刺突を繰り出す。


 脇腹を狙った刺突は、確かに命中した。

 ところが、刺したと同時に刃先に亀裂が走り、ナイフが根本から折れる。

 それを持つ俺の手も勢いよく弾かれた。

 刃を当てたはずの脇腹は、まったく傷付いていない。


 攻撃の失敗を悟った俺は、後ろへと跳躍した。

 眼前を剣が横切るのを見つつ、柄だけになったナイフを捨てる。


 先ほどから同じようなやり取りの繰り返しだった。

 俺の攻撃は効かず、それどころか威力が倍になって返ってくる。

 分厚い鉄板と喧嘩でもしているかのような気分だ。

 高レベル補正など関係なく、コージのスキルの前では無意味なパワーだった。


 唯一の救いが、コージの戦闘技術が素人レベルであることだ。

 完全な一般人のそれである。

 攻撃能力も乏しく、安物の剣を振り回してくるだけだった。

 目を閉じていても避けられるだろう。

 おかげで戦闘を引き延ばすことができている。


「ど、どうだ……そろそろ、無駄だと、分かったんじゃ、ないか……」


 コージは息も絶え絶えに言う。

 随分と疲労しているようだ。


 俺の記憶が正しければ、彼の初期レベルは80。

 レベル補正で基礎体力は高まっているはずだ。

 それなのにこの有り様ということは、不慣れな身のこなしで必要以上にスタミナを消耗しているのだろう。


 俺は呼吸の一つも乱していない。

 元の世界でも、これくらいの運動量なら朝飯前だった。

 トレーニングにすらならない。


 ただし、全身には無数の青痣や切り傷ができている。

 どれも反射で返ってきたダメージだ。

 致命傷はないものの、その些細な痛みが鬱陶しく感じる。


 俺はこの数分間で様々な攻撃方法を試した。

 すべてはコージを殺すため。

 そして体を張った甲斐もあり、いくつかの発見があった。


 俺は屋敷を指差しながら話しかける。


「さて。そろそろ終わらせていいかい? 朝食が待っているんだ」


「……この、状況で何を言って、いる。お前にはもう、勝ち目がない」


「それはどうかな。いつまでも自分が無敵だと思い込まない方がいい。慢心した人間を待つのは破滅だ。身を以て知ってもらおうか」


 俺は不意にコージへと跳びかかった。

 横薙ぎの剣を避け、彼に痛みを与えないように拘束する。

 ものの二秒で武器を奪って地面に組み伏せた。


 これが【完全反射 A+】の攻略法だ。

 動きを妨害する程度なら反射ダメージは来ない。

 言ってしまえば、握手の延長線のようなものなのだ。

 ダメージさえ与えなければいい。

 ただ拘束するだけなら、攻撃に分類されない接触行為である。

 これこそ近接戦闘の中で発見した弱点だった。


「ぐっ、この……っ、放せェ……!」


「断る。ファンからの熱烈なハグだと思ってくれ」


 喚くコージを地面に押さえ付け、口に爆弾を詰め込む。

 門兵から奪ったもので、低威力の爆竹もどきだ。


「――――、――――っ!」


「落ち着けよ。近所迷惑だ」


 暴れるコージを宥めながら、俺は尻ポケットからオイルライターを取り出す。

 禁煙中も所持していたもので、何かと役立つために気に入っていた。

 コージの口端からはみ出た導火線をつまみ、ライターで点火する。


「――――っ!?」


 コージが爆弾を吐き出そうとする。

 即座に俺は、彼の顎に手を添えて阻止してやった。

 これも攻撃ではない。

 少し押さえているだけだ。

 案の定、反射ダメージはなかった。


「ほら、好き嫌いせずに食えよ」


 燃え縮む導火線は、やがてコージの口の中へと消える。

 数秒後、彼の口内からくぐもった破裂音がした。


「――――ッ!」


 コージが目を白黒とさせながら揺れた。

 唇の隙間から薄く白煙が上る。


 続けて破裂音が響く。

 一発目より明らかに音が大きい。


 間を置かずに三発目が鳴った。

 重なるようにして四発目も続く。

 コージの呻き声が次第に悲痛なものへ変わる。


 破裂音は加速度的に大きくなる。

 二十発目を超える頃には、立派な爆発音へと昇華していた。

 音の間隔もゼロに近い。


「反射ダメージは倍加するんだろ? 口の中で炸裂した爆発は、エネルギーの逃げ場がなくなって無限に反射し続ける。最初はしょぼい威力でも、倍加を繰り返すと……まあお察しの通りだ。さぁ、どこまで耐えられるかな?」


「――――! ――――っ?」


 破裂音に合わせてコージの頬が膨らむ。

 今にも破れそうだ。

 彼は必死になって俺の腕を引き剥がそうとするも、残念ながらびくともしない。


 レベル385の膂力は伊達ではないのだ。

 目の前のレベル80ぽっちの抵抗など、赤子の駄々みたいなものである。

 互いにレベル補正がなかったとしても同じ結果だろう。


「っ……、……っ」


 コージの喉が大きく膨らみ、ずるりと内部を何かが通過した。

 どうやら反射する爆発エネルギーを呑み込んだらしい。

 口内に留められなくなったのだろう。


 それを目撃した俺は嘆息する。


「あーあ、やっちまった」


 今度はコージの腹が膨らみ、爆発音の発生源になった。

 あっという間にはち切れる寸前となる。

 呑み込んだところで解決するものではない。

 爆発場所が変わるだけであった。


 苦しむコージに俺は問いかける。


「助けてほしいか?」


「…………、……っ」


「なら俺のことを許して、友人になってくれるかい?」


「……! ……っ……!」


 コージは号泣しながら何度も頷く。

 目も助けを訴えていた。

 既に爆発音は周囲への騒音と化している。

 どういった作用なのか、コージは全身がむくみ始めていた。

 腹は激しく振動して風船のように肥大している。


 遠巻きにこちらを眺める人々の姿があった。

 ちょうどいい、彼らには観客となってもらおうか。

 俺はコージの頭を掴んで持ち上げる。


「ああ、親愛なるコージよ。友情成立の記念にスポーツでもしようぜ。ただしお前がボールだ」


「…………ッ!!」


「それじゃ、最期まで楽しんでこいよ、っと」


 そう告げた俺は、コージを全力で投げ飛ばした。

 ボールのように飛んでいったコージは、高速回転しながら近くの廃屋をぶち破る。


 次の瞬間、コージが爆発した。

 血肉と臓腑がびしゃびしゃと音を立てて撒き散らされる。

 弾けた骨の一部が散弾のように飛び、さらに廃屋を粉砕した。

 その周辺だけが一瞬で赤黒いスプラッターな光景になる。


 肉体が限界に達したのだ。

 無敵の反射スキルも、本人の耐久性は考慮していなかったらしい。

 実に壮絶な最期であった。

 あれでは誰かも見分けがつかない。


 観客の方からいくつもの悲鳴が上がっていた。

 勝手に見物して騒ぐなんて、なんとも迷惑な連中である。

 モラルを知ってほしい。


「ハハッ、ボールの消えるトリックシュートだ! 一度きりの披露になるのが残念だな」


 俺は拍手をしながら満足する。

 即興にしてはとても上手くいった。

 十分な出来映えだったろう。


 爆発したコージの残骸を一瞥した後、俺は朝食を求めて屋敷へと戻った。

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― 新着の感想 ―
面白いです。 ただ反射された弾丸を弾丸で弾いたり避けたりするのは不自然極まりないですね。
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