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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第68話 爆弾魔は巨竜人と対決する

 俺はドルグに接近しながらリボルバーを連射する。

 以前、アリスから貰った拳銃のうち、強力すぎるので温存していた方だ。

 使うとすればこのタイミングだろう。


 弾丸はドルグの身体を的確に抉るも、貫通には至らない。

 ドルグは斧を構えた腕で顔をガードしていた。

 目を撃たれることを警戒している。


「硬いな。コンクリートが主食なのか?」


 俺は思わず鼻で笑ってしまう。

 冗談を口にしたくなるほどの頑強さなのだ。

 あれだけの巨体だ。

 少し出血させたくらいではダメージにはならない。


「ぐぬぅ、小癪なッ」


 一方で苛立った様子のドルグは、無造作に斧を振り下ろしてきた。

 そのスケールからして、もはや斬撃とは言い難い。

 まるで大きな柱がそのまま倒れかかってくるかのようだ。

 軌道を読んだ俺は、横跳びに回避する。


「おっとぉっ?」


 床にめり込んだ斧が爆発を起こす。

 前方からの突風で身体が浮き上がる。

 俺は姿勢を制御しながら床を転がされた。

 途中、手足に力を込めてブレーキをかける。

 そして眼前の惨状に驚く羽目となる。


 斬撃の余波が出入り口まで突き抜け、床と壁と扉を真っ二つにしていた。

 斧が触れていないというのに滅茶苦茶な破壊力である。

 俺を転がした突風もその一環だったようだ。


(まったく、とんだモンスターだな)


 嘆きが口から出そうになるのを、寸前で留める。

 ここで弱音を吐くのは良くない。

 苦戦を予感した時でも、背筋を伸ばして大胆不敵な態度を取っておくものだ。

 ハッタリや虚勢だろうと突き通せば本物になる。

 立ち上がった俺は、オーバーリアクションで肩をすくめてみせた。


「亀のように遅い動きだな。欠伸が出ちまいそうだ」


「今のうちに言っていろ。お前さんは絶対に殺す」


「彼に近付かないで」


 勢いよく飛行するアリスが、大きく旋回しながらドルグに突撃する。

 彼女はドルグの周囲を飛び回りながら、無数の魔術を展開させていった。

 宙に浮かべた魔法陣から次々と光弾を撃ち出す。

 時折、四本のアームで俺の爆弾も投擲していく。


 炸裂した光弾と爆弾が、白煙を上げてドルグの体表を焦がした。

 しかし、これも致命傷には至らない。

 それどころか、体表の肉が蠢いて傷を塞ぎ始めていた。

 割れて剥がれた鱗も新しいものが生え、出血も数秒で止まる。

 どうやら再生能力も持っているらしい。


(思ったより厄介だ。地道に削るのは厳しいか)


 奮闘するアリスを見て、俺は眉を寄せる。


 以前、ドルグのステータスを盗み見たことがあった。

 その時は確かレベル81だった。

 日数も経っていないので、数値が大幅に変化していることはないはずだ。

 レベル81というのは常人にしては高く、俺を除く異世界からの召喚者とほぼ同列である。


 しかし、この身体能力は明らかに別格だろう。

 スキルや種族的な補正によるものなのか。

 怪獣退治をしているかのような気分だ。

 何にしろ、まともな戦い方では倒せまい。


「鬱陶しい羽虫だ」


 ドルグの動かした腕が、アリスを振り払った。

 咄嗟に張られた防御魔術を粉砕されながら、アリスはあえなく吹き飛ばされる。

 そのまま壁を突き破って室外へと消えていった。


(……クソッタレ)


 数多の攻撃でもびくともしなかったシールドを、あそこまで簡単に壊すとは。

 高レベル補正に守られる俺でも、直撃すれば不味いかもしれない。

 不用意な動きは止めた方がよさそうだ。


 ただ、これでドルグの強さの神髄が分かった。

 生きた要塞と称すべきタフネスと馬鹿げた膂力。

 この二つを極限まで鍛え上げている。


 とてもシンプルで、故に強力無比である。

 攻防を共に凌駕しなければ、ドルグを倒すことはできない。

 奴はそのどちらとも非常に高い水準で備えている。

 誰も敵わないのも納得であった。


 俺は拳銃を仕舞って真っ直ぐに走り出す。

 アリスの様子は見に行かない。

 彼女ならきっと大丈夫だ。

 今は目の前のドルグに集中した方がいい。


「――――ッ」


 こちらを向いたドルグが、息を吸い込んで咆哮を上げた。

 空気を振動させながら何かが飛んでくる。

 それを察知した俺は、腕をクロスさせて防御した。

 直後、踏ん張ることもできずに後方へ吹っ飛ばされる。


(衝撃波か……ッ)


 俺は受け身も取れずに壁にぶつかった。

 一瞬だけ息が詰まるも、身体に異常はない。

 骨も折れていないようだった。

 瓦礫を落としながら俺は顔を上げる。


「痛ぇなオイ」


 返事代わりに飛来するのは、横薙ぎの斧だ。

 俺はリンボーダンスの要領で躱し、ドルグの懐へと駆け出す。


 距離を取ると不利だ。

 銃火器の効きが悪く、近接攻撃のリーチでも負けている。

 とにかく近付いてぶん殴るべきだろう。

 俺の拳はドラゴンの爪を打ち砕いた。

 ドルグにも有効だと思いたい。


 加えて俺にはドラゴン戦で得たスキルがあった。

 【竜殺者 B+】と【蒼竜の血潮 A】の二種だ。


 前者はドラゴンとの戦闘に補正をもたらし、竜素材の武具の性能を上げる。

 後者は再生能力と身体能力の強化を施してくれる。

 いずれも有用な能力で、この場においては確実に役立つ。

 巨竜人のドルグなら、効果の対象にあたるはずだ。


「ジャックさんっ」


 ドルグに迫る中、アリスの声が聞こえた。

 俺は一瞬だけ視線をずらす。

 壁に開いた穴から、パワードスーツが顔を出していた。

 やはり無事だったようだ。


「受け取って!」


 アリスがそこから何かを投げてきた。

 高速回転するそれを片手でキャッチする。


 掴み取ったのは、乳白色の鉈だった。

 刃から柄までが一体となっており、表面には術式が綿密に刻み込まれている。


「竜の牙と骨を合成した魔術武器よっ」


 アリスの補足で納得する。

 この鉈で殺せということらしい。

 ドルグとの殺し合いを想定して、知らぬ間に対策を打っていたのだ。


 俺は鉈を弄びながらアリスに手を振る。


「サンキュー、愛してるぜ」


「どこを見ている」


 前を向くと同時に、ドルグが踏み潰しを繰り出してきた。

 全体重をかけるようにして踏み込んでくる。

 これを食らうわけにはいかない。

 あの巨体で踏まれれば脱出は望めないだろう。


 俺は全力で回避しようとして、ふと考える。

 どうせならカウンターを狙うべきだ。

 やや賭けになるが、成功した時のリターンが大きい。

 アリスの鉈なら、きっと実現させてくれるはずだ。


 決心した俺は不敵に笑う。


「解体ショーを始めようか」


 迫る足に合わせて、俺は鉈を斜めに振るう。

 鱗に覆われたドルグの足の指が、ほとんど抵抗もなく切断された。

 迸った血が降りかかってくる。


「ぬぅ」


 ドルグが低い声で呻く。

 痛みと驚きで足が止まっていた。

 まさか足の指を切り飛ばされるとは思わなかったのだろう。


「最高の切れ味だ、なッ」


 俺は身を翻して鉈を一閃させる。

 今度は足首の靭帯を豪快に切り裂いた。

 少しだけ引っかかりを覚えたが、こちらも振り抜くことに成功する。


「うぐおおお……っ」


 バランスを崩すドルグが、俺を見ながら息を吸い込む。

 咆哮の予備動作だ。

 鉈の切れ味を知り、無理やり距離を取ろうとしている。


「読めているさ」


 俺は前方へステップを踏み、紙一重で衝撃波を躱す。

 挙動と大まかな方向さえ分かれば簡単だ。

 弾丸を避ける方が面倒なくらいである。


 ドルグは片手を床につき、なんとか転倒を防いだ。

 とは言え、その姿は隙だらけである。

 俺はさらに接近し、ついにはその巨体にしがみ付いた。

 体表の鱗を掴んで駆け上がっていく。


「な、にを……ッ!」


「ロッククライミングさ」


 叩き落とそうとするドルグの手を鉈で斬りながら這い上がる。

 そのたびにドルグは手を引っ込めて呻く。

 あまりに強靭な肉体のせいで、鋭い痛みに慣れていないのだろう。

 貴重な弱点であった。


 本当はここから心臓を突き刺したいが、こいつの身体は大きすぎる。

 手持ちの鉈では刃が届かない。

 抉るにしても、確実に動きを止めてからだ。


 俺はドルグの胸板を蹴ってさらに跳び上がった。

 全身を縮めてタメを作りながら、爬虫類の双眸に告げる。


「反撃開始の合図だ。しっかり味わえよ?」


 大きな手が迫るのをよそに、揃えた両脚を一気に伸ばす。

 渾身のドロップキックがドルグの顎を捉えた。

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