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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第66話 爆弾魔は組織の部隊を蹂躙する

 完成したパワードスーツを観察していると、階下から激しい足音がした。

 私兵が屋敷内に侵入してきたようだ。

 装甲車を陽動にして、一気に接近してきたらしい。

 血気盛んな連中である。


「さてさて、俺達も張り切って――うおっと」


 けたたましい銃声と共に、床を突き抜けて弾丸の雨が打ち上がってきた。

 喋るのをやめた俺は転がって回避する。


 アリスは棒立ちだが、被弾した分はすべてパワードスーツに弾かれていた。

 見れば掠り傷すら付いていない。

 安定の防御性能だ。


 床に開いた銃痕を一瞥して、俺はアリスに提案する。


「外の車両をぶっ壊してくれるかい? 後で合流しよう」


「任せて。ジャックさんの手は煩わせないわ」


 あっさりと答えたアリスは、壁の穴から屋外へ飛び出した。

 彼女は足裏からのジェット噴射で飛行して、装甲車の頭上を位置取る。

 そこから魔術による爆撃を開始した。

 構造上、砲が真上を狙えないのを利用して一方的に粉砕していく。


 たまに瞬間移動しているのは、いつぞやの魔剣の機能である短距離転移の術式だろうか。

 アリスは見事に装甲車と私兵を翻弄していた。

 パワードスーツも不備なく作動している。

 あの調子なら放っておいても大丈夫そうだ。


 アリスの奮闘ぶりに感心していると、階段を上ってくる音がした。

 ドルグの私兵共だ。

 大量の殺気が押し寄せてくる。


(アリスにばかり任せてはいられないな)


 こんなに素晴らしい機会に恵まれたのだ。

 いい加減、活躍しないと損だろう。


 俺は階段のそばの陰に向かった。

 階段からは死角となっている場所だ。

 奇襲には打ってつけである。


「オーケー、派手なカウンターを決めてやろうか」


 昂る気分を抑えて待つこと暫し。


 私兵達が続々と二階に上がってきた。

 少し覗いてみれば、それなりの数がいる。

 二十人は下らない。

 ライフルを構える彼らは、どこか見覚えのある顔ばかりであった。


(ん? あいつらは確か……)


 俺は記憶を遡って正体を突き止める。


 彼らは組織内の獣人部隊だ。

 時々、ドルグの城ですれ違っていた連中である。

 連中はことあるごとに俺を馬鹿にしてきた。

 その嫌悪感が特に強かったので印象に残っていたのだ。


(こいつらも俺の抹殺任務に就いていたのか)


 ちょうどよかった。

 ずっと前から排除したいと思っていたのだ。

 状況的に晴れて敵同士となった。

 これで何の躊躇いもなく殺すことができる。


 獣人部隊は陣形を保ったまま廊下を進む。

 かなり警戒している様子だ。


 そんな彼らの死角から、俺は無音で跳びかかる。

 途中、最寄りの一人と目が合った。


「なッ……!?」


 向けられた銃口を掴んでずらし、驚愕するその顔面に拳銃を発砲する。

 弾丸が鼻面に炸裂し、その獣人はあえなく崩れ落ちた。


「ヘイ、こっちを見ろ」


 俺は掴んだままのライフルをスイングする。

 銃床の角が別の獣人の側頭部に直撃した。


「ぎゅぁっ……」


 振り抜きと同時に獣人は吹っ飛び、数人を巻き込みながら階段を転がり落ちていく。

 俺がライフルを捨てて笑うと、獣人の一人が目を血走らせた。


「ジャック・アーロン! 貴様ァ……ッ!」


「やあ、調子はどうだい?」


 至近距離からの射撃を躱しつつ、俺は獣人の懐に潜り込む。

 顎下に拳銃を突き付け、引き金を引いた。


「ぶ、ごぁ……っ」


 激昂する獣人が、頭頂部から鮮血と脳漿を噴く。

 そのまま倒れて動かなくなった。

 散々、俺に嫌味をぶつけてきた男だ。

 もう少し苦しめたかったが、状況が状況なので仕方あるまい。


 一方、他の連中は俺から距離を取った。

 たぶんこいつがリーダー格だったのだろう。

 指揮官がやられたことで恐慌状態に陥っている。

 反撃すればいいというのに、チキン野郎しか揃っていないらしい。


「ちょいとノロマすぎるんじゃないか、ベイビー?」


 その間に俺は拳銃を連射し、生き残りの額や心臓を撃ち抜く。

 弾切れになった後はナイフで次々と刺殺していった。

 逃げようとする者もきっちり仕留める。

 飛来する弾丸と魔術は死体を盾にしてやり過ごし、反撃を試みた者の首を丹念にへし折る。

 そうしてものの一分足らずで獣人部隊を殲滅させた。


「ったく、張り合いがねぇな……」


 悪態を吐きつつ、俺は顔と手の返り血を拭い取る。

 獣人部隊などと謳っているが、実際は大したことがない。

 種族的に身体能力や反応速度に優れているようだが、それも常識の範囲に収まっている。

 動きを想定しておけば十分に対処が可能なレベルであった。


 俺の抹殺で手柄を得たかったのだろうが、まったく見込みが甘い。

 本気で仕留めたいのなら、三倍の数は用意してほしかった。

 おかげでこちらも消化不良を感じている。


(まだ余ってればいいが……)


 少しの望みを抱きつつ、俺は屋敷の外を一望する。


 そこではパワードスーツを着たアリスが、未だに無双を繰り広げていた。

 膨大な火力で組織の連中を押し潰している。

 ドラゴンの心臓を核にしていると言っていたので、燃料切れもないのだろう。

 だから強力な魔術でも際限なしに撃つことができる。

 敵からすれば恐ろしい話だ。


 アリスの蹂躙を受ける装甲車は、ほとんど動けずに大破していく。

 屋敷に砲撃を叩き込む余裕さえないらしい。

 私兵もアリスの迎撃に追われている状態で、獣人部隊以外は室内に侵入できないようだった。


「妙に大人しいと思ったら独占されていたか」


 これは俺も混ぜてもらわなければいけない。

 まだウォーミングアップも終わっていないのだ。

 ドルグとの殺し合いも待っているのだから、ここらで身体を温めておきたかった。


 その時、背後にて殺気が出現した。

 気のせいかと思うほど小さいものだが、確かにそこに存在している。


「――っ」


 俺は振り向くと同時に発砲した。

 鳴り響く金属音。

 弾丸をナイフで弾いて駆けてくるのは、黒づくめの仮面の女――組織幹部のシュナだ。


「よっと」


 彼女の刺突を避けながら再び撃つ。

 やはりナイフで弾かれて命中しない。

 凄まじい動体視力と技量だ。

 手慣れた雰囲気から察するに、それがシュナの戦闘スタイルなのだろう。

 銃や魔術がある世界で、刃物による近接戦闘を得意としているのだ。


 俺は弾切れの拳銃を仕舞いつつ、親しげに話しかける。


「組織の人間が大集合だな。ホームパーティーの招待状でも受け取ったのか?」


「ジャック・アーロン。やはり貴方は組織の膿だった」


 淡々と述べる彼女の言葉で思い出す。

 ドルグから組織に勧誘された際、彼女が直談判で反対したのだった。

 今日に至るまで、ずっと疑念を抱いてきたのだろう。

 それが的中したのだから誇りたくもなる。


 俺は肩をすくめて苦笑した。


「組織の膿か。確かに否定できないな。我ながら集団行動に適していない。今回、身を以て学んだよ」


「そうですか。では、組織のために死んでください」


 シュナがこちらへ踏み込み、バックハンドでナイフを振るってくる。

 軌道からして俺の首が狙いだ。

 一撃必殺を信条とする、典型的な暗殺者のやり口である。


(だが、それはあくまでも不意打ちに適した戦法だ。正面戦闘には向かない――)


 俺はナイフを躱しながら殴りかかる。

 その時、シュナの身体が発光し、唐突に動きが加速した。

 彼女は拳が当たる寸前で急旋回すると、横からの刺突で仕掛けてくる。


(魔術を使ったフェイク――戦闘スタイルを誤認させるためのブラフか)


 とは言え、反応できないスピードではない。

 迫るナイフに対し、俺はシュナの手首を掴んで捻り上げる。


 彼女はそれに逆らわずに宙返りすると、頭上で奇妙な短剣を掲げた。

 もう一方の手に握ったそれは淡い光を放ち、波形の刃を持っている。

 おそらくは魔術の施された武器だろう。


(次から次へと騙し打ち……面倒な女だ)


 シュナは頭上から短剣を振り下ろしてきた。

 即座に俺は掴んだ手首を握り潰す。

 しかし、彼女の動きは変わらない。

 手首が軋みながら折れ曲がっているというのに、痛がる素振りすら見せなかった。


「大した胆力だ――だが、甘い」


 俺は降ってくる刃の軌道と速度を見極め、空いた手の五指で挟み込んだ。

 指先に力を込め、刃を眉間すれすれで食い止める。


「……っ」


 シュナが仮面の奥で歯噛みする。

 今の斬撃を防がれるのは想定外だったらしい。

 つまりは本命の攻撃だったのだ。


「惜しかったな」


 俺はシュナを力任せに投げ飛ばして、壁に叩き付ける。

 背中を打ち付けたシュナは呻いて膝をついた。

 そこへ回し蹴りを食らわせる。

 直撃を受けたシュナは壁を突き破り、その向こうの部屋へ転がり込んでいった。


「…………」


 倒れるシュナは両腕が折れていた。

 仮面にも亀裂が入り、一部が剥がれ落ちる。

 灰色の片目と口端が露わになった。

 彼女は瞬きせずに俺を凝視している。


「へぇ、なかなかの美人じゃないか。敏腕秘書って感じだ」


「貴方は、どこまでも……!」


 怒気を覗かせるシュナに、俺は手を前に出して制する。

 彼女は立ち上がりかけた姿勢で止まった。

 俺はにこやかに告げる。


「無駄話はここまでにしよう。時間が押しているんだ」


 そう言って俺は近くの本棚を持ち上げると、シュナの顔面に振り下ろした。

 天井を豪快に削った本棚は、轟音を立てて床に陥没する。

 迸る鮮血。

 シュナの首から下が痙攣し始めるも、ほどなくして動かなくなる。

 下敷きになった顔はもう望めまい。


 俺は額の汗を拭い、清々しい気持ちで辺りを見回す。


「ふぅ、ようやく片付いたな」


 これで室内の人間は殲滅できた。

 隠れていそうな気配もない。

 あとは屋外に残っている連中だけだ。


 俺は壁の穴から庭先へ飛び降りた。

 あちこちに装甲車の残骸と死体が転がっている。

 丁寧に手入れされた庭は見る影もなく荒れ、所々が焦げていたり土が露出していた。


 そんな中、アリスは装甲車のそばに佇んでいた。

 辺りに動く敵はいない。

 残念ながら間に合わなかったらしい。


「首尾は上々だな」


「ええ、性能確認ができたわ。ひとまず実戦での使用は問題ないようね」


「そいつは良かった」


 世間話のようなやり取りをしつつ、俺とアリスは並んで歩く。

 装甲車の残骸と死体の間を抜け、炎上する屋敷を背に柵を乗り越えた。

 俺は拳銃の弾を装填しながら尋ねる。


「このままドルグを殺しに行く。準備はできているか?」


「もちろんよ。ジャックさんこそ大丈夫?」


「ハッハ、答えるまでもないさ」


 高級ワインで乾杯するかのように、俺達は拳銃と金属の拳を打ち合わせた。

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