第60話 爆弾魔は召喚者と対峙する
人形の炎が咆哮を上げて乱舞する。
あちこちに火球を炸裂し、引火して燃え上がる。
地下からは濁流が噴き上がる。
怒涛の勢いで溢れる水は、付近の物体を無差別に押し流していく。
中央から発生した竜巻は、プラズマを纏って弾ける。
引き寄せられた建物が表面から剥がれて崩れていった。
竜巻の中には白と黒の光が浮かび、四方八方にビームを放射する。
ビームの命中した箇所は、ぽっかりと穴を開いていた。
一本の木が地面を割って伸び始める。
それは瞬く間にビルほどの高さまでの大樹と化し、鬱蒼と茂る葉が月明かりを覆い隠した。
連載的な超常現象を目撃した俺は、スタンディングオベーションで称える。
「最高じゃないか。ハッシュタグ付きでSNSに投稿しようぜ。あっという間にトレンド入りだ」
これらすべてが一つの爆弾を起点に発現しているのだから驚きである。
その爆弾の正体とは精霊石だ。
拠点の地下に設置しておいたのである。
それもただの爆弾ではない。
七種の属性の精霊石を贅沢に使った特製爆弾だ。
起爆時、魔力を過剰供給する仕組みで、それぞれの精霊石が連動して爆破するようにした。
本来は絶対に不可能な荒業らしい。
異なる属性は反発し合うため、上手く効果が現れないのだという。
たとえ優れた魔術師でも、二つか三つの属性を同時行使するのが限界だとか。
七つの属性を混ぜ合わせて使用するなど、夢のまた夢であった。
しかし、俺の場合は【爆弾製作 EX++】のおかげで簡単に実現できる。
異世界召喚で得たスキルにより、爆弾作りを必ず成功させるからだ。
此度の精霊石の爆弾は、この特性を最大限に活かした形であった。
ここまでの罠は、マイケル達を拠点に誘い込むための布石に過ぎない。
俺達の現在地は拠点ではなく、拠点周辺にある建物の一つだった。
彼らが中央の拠点に来ると見越して、待機場所を変えたのである。
当然だろう。
分かりやすい場所で律儀に待ってやるほど俺は優しくない。
罠として利用するのが妥当と言える。
俺の最大の攻撃方法は、やはり爆弾だ。
不意を突くことで、時間停止を発動される前に吹き飛ばすことができる。
今回もマイケル達は、事前に察知できていない様子だった。
しかも地下空間におり、すぐに退避できない状況である。
普通なら跡形もなく消し飛んで即死しているだろう。
だが、マイケルならきっと生きている。
爆弾魔としての直感が囁くのだ。
気を抜くにはまだ早い。
「さて、喜んでもらえたかな?」
俺は画面をチェックする。
焼け野原のようになった拠点周辺に人影はない。
ここまでは予想通りだ。
次に他の画面を順に確かめていく。
なぜか過半数の画面に乱れが散見される。
急に画質が悪くなり、頻繁にノイズが入るようになっていた。
「おいおい、勘弁してくれよ。このタイミングで不調か?」
「精霊石の爆弾で魔力が乱されているみたいね。回復までは時間がかかるわ」
「まったく、我慢するしかないってことか」
愚痴を呑んだ俺は、根気強くマイケル達を探す。
無数の画面を睨むうちに、ついにそれらしき人影を発見した。
俺は目を凝らして注視する。
そこは拠点跡から五十ヤード先の建物の屋上だった。
マイケルが死体を抱きかかえている。
よく見るとそれは褐色肌の女だ。
手足の一部や顔面が欠損しており、衣服と残った銀髪のおかげで辛うじて誰か分かる。
そんな有り様であった。
エリア内に立ち入った人間は他にいない。
死体のすり替えによる騙し討ちなどではないだろう。
つまり正真正銘、あれは褐色肌の女ということだ。
(ようやく仲間の二人を殺害できたな……)
意外と手間取ってしまった。
彼らなりに対処してきたのが大きい。
アドリブにしては上出来だろう。
ただ、悪くない立ち回りだったが、相手と環境が悪かった。
最低最悪の爆弾魔に挑んだのが運の尽きである。
同情の念すら覚えてしまう。
遺体を置いたマイケルは佇んでいた。
あまりにも無防備な姿は、たぶん悲しみに暮れているのだろう。
ショックが大きすぎるのだ。
紅茶を飲むアリスは、画面のマイケルをじっと見つめている。
「彼、どうすると思う?」
「そりゃ血眼になって俺達を探すだろうさ。たった今、こいつは復讐鬼になった」
度重なる心的ダメージは無視できない。
マイケルの精神は壊れる寸前だ。
いや、既に壊れ始めているかもしれない。
これも俺の計算通りだった。
心を壊せば判断力が鈍り、短絡的な行動に走る。
すなわち、次の行動を予測しやすい。
箍が外れて暴走する可能性もあるが、どのみちそれは破滅への道を駆け抜けるようなものだ。
俺にとって有益なことに変わりはない。
立ち上がったマイケルは、唐突に姿を消した。
一瞬にして別の画面に現れると、何かを叫びながら辺りを探し回る。
たぶん俺に対する罵倒か恨みでも喚いているのだろう。
ひとしきり荒らした後、マイケルは消えて別の場所に移る。
彼はそれを繰り返して捜索を進めていった。
温存など眼中にないのだろう。
時間停止を乱用している。
死に物狂いで俺達を探しているようだった。
「あーあ、ついにキレちまったか」
俺は椅子に座り、マイケルの奮闘ぶりを傍観する。
机の上の茶菓子を食べながら、彼の行く先々を眺めた。
この調子なら、いずれ俺達を見つけるだろう。
大して時間はかからないと思われる。
それから五分後。
マイケルは、とある建物内で金属製の巨大な箱を発見した。
一辺が十ヤードと少しで、部屋を完全に占領するサイズ感である。
「ジャックさん」
「ようやく見つけたようだな」
俺は画面から視線を外した。
部屋の外から足音がする。
人の気配も感じる。
激しい殺気も伴っていた。
直後、壁から衝突音が響く。
画面の中では、マイケルが箱の側面を蹴り付けていた。
ただし壁には傷一つ付かない。
この金属の箱は、アリス作のシェルターである。
ドラゴンの素材や魔術的な金属を惜しみなく使用していた。
ゴーレムカーと同程度の耐久性を誇り、蹴りで破壊できるものではない。
(まあ、抜け道はあるだろうがな……)
顔を上げた俺は、画面の確認をやめた。
もう監視に徹する段階ではない。
奴はすぐそばまで来ているのだ。
その時、部屋の壁が異音を立てる。
いつの間にか亀裂が走り、表面には無数の隆起ができていた。
まるで扉の向こうから何百回も殴打されたかのようだ。
いや、実際にされたのだろう。
マイケルは時を止めている間にやりやがったのだ。
停止世界ではシェルターの機能が無効化される。
防衛機能が働かないのだ。
爆弾を解除されたり、ゴーレムを破壊された時点でそういった仕様であるのは察していた。
故にシェルターが突破されても、大して驚くことでもない。
時間停止があれば難しいことでもなかった。
やがて壁が軋みながら割れ、向こう側からゆっくりと押し倒される。
魔剣を持ったマイケルが、ぼろぼろになりながらもシェルター内に侵入してきた。
「…………」
マイケルは目、鼻、耳、口からそれぞれ血を垂れ流している。
焦点も定まっておらず、立っているのがやっとだとすぐに分かった。
ただし、その眼差しには、凄まじい執念が窺える。
狂気を孕んだ殺意だ。
それが満身創痍のマイケルを支えている。
対する俺は、眠る赤髪少女の肩に腕を回し、こめかみに拳銃を突き付けた。
その姿勢のまま、前方のマイケルに挨拶する。
「よう、待ちくたびれたぜ。俺からのプレゼントは楽しんでくれたかい?」




