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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第58話 爆弾魔は召喚者を追い詰める

 治療を済ませたマイケル達は、エルフ女を庇いながら移動を再開した。

 エルフ女は自分に回復魔術を使い、歩ける程度になっている。

 全快はしていないが、意外と優秀だ。

 時間的なロスは思ったより少なかった。


(回復役はやはり面倒だな……)


 一部始終を画面越しに見ていた俺は唸る。

 魔術一つで重傷を治されるのは看過できない。

 せっかくの罠も無意味とは言わないが、効果が半減してしまう。

 魔力が切れればその限りではないものの、生存されるだけで厄介なことに違いはない。


 エルフ女の場合、それに加えて攻撃魔術も使えるのだ。

 サポート役として最適な人間である。

 マイケルの心身の負担を増やすためにも、早い段階で殺すべきだろう。


 負傷したエルフ女にはマイケルが寄り添い、褐色肌の女が先導する。

 彼女は短い杖を構えて警戒していた。


「あの女は確か、呪術師だったな」


「そうね。系統も珍しくない、一般的な呪術ね」


 俺の呟きにアリスが答える。

 一般的な呪術という響きに違和感を覚えるが、わざわざ掘り返すことでもあるまい。

 彼女が言うのだからそうなのだろう。


 呪術と聞くとオカルトな印象を受けるものの、この世界においては立派な能力である。

 魔術の一種で、その名の通り呪いを基にした術らしい。

 食らえば厄介だが、そこもアリスが事前に対策を施している。

 この部屋には呪術を弾く防御魔術を展開されており、大した脅威ではなくなっていた。


 呪術を活かせない呪術師など、ただの弱い魔術師だ。

 こちらからすれば、格好の獲物に過ぎない。


「ジャックさん、楽しそうね」


 次に動かす罠を選定していると、アリスが話しかけてきた。

 彼女は微笑みながら俺の目を見ている。

 俺は手を止めて肩をすくめる。


「そう見えるかい?」


「ええ、とても。ずっと笑っているわ」


「時間を止める人間を殺す機会なんて、そうそう訪れるものじゃない。爆弾魔の血が騒ぐってものさ」


 それも万全な準備を進めた上で対決できるのだ。

 楽しまない方が損というものだろう。

 一度きりの人生だ。

 どのようなエンディングを迎えるのであれ、なるべく後悔を抱かずに生きていきたい。


「そら、追加サービスだ」


 意識を切り替えた俺はスイッチを押す。


 マイケル達のそばの壁が爆発した。

 三人は素早く反応し、飛び退いて回避する。

 ここまで何度も洗礼を受けてきたのだ。

 さすがに気を張っていたらしい。


 ところが、褐色肌の女が何かに躓いて転倒した。

 彼女はきょろきょろと首を振って慌てる。


 あの場所ということは、足元のワイヤーに引っかかったのだろう。

 新たな罠が作動したようだ。


「はは、やっちまったな」


 建物の二階からクロスボウの矢が射出された。

 矢は褐色肌の女へと迫る。

 あの距離と速度だ。

 回避は間に合わない。


 褐色肌の女は、前面に黒い靄のような盾を出現させた。

 輪郭も曖昧なそれは、幻のように浮かんでいる。

 おそらくは魔術だろう。

 靄の盾で矢を防ぐつもりらしい。


「その対処は予想済みさ」


 矢は靄を貫通し、褐色肌の女の腹に命中した。

 彼女は地面に縫い止められる。

 まるで昆虫の標本のようになり、手足を動かしてもがく。


 あの矢の鏃には、ドラゴンの骨が使われていた。

 防御魔術も貫通するようにしてある。

 まんまとはまってくれて良かった。


 そして、矢の羽根には分かりやすく爆弾が吊るしてある。

 火が導火線を伝って食い潰していく。

 褐色肌の女は、滅茶苦茶に暴れて抵抗する。

 腹に刺さった矢が抜けず、パニックに陥っているようだった。


 そのまま火が爆弾に到達する瞬間、三人は画面から姿を消した。

 同時に彼らのいた頭上で爆発が起きる。

 不自然すぎる現象だ。

 またもや時間停止である。

 マイケルが矢の爆弾を外し、上空へ投げたのだろう。

 同時に退避も済ませたらしい。


「連中はどこへ逃げたんだ?」


「最寄りの廃屋ね」


 アリスが別の画面を指差す。

 そこに映るマイケル達は、寂れた室内で休憩していた。

 褐色肌の女は、破れたソファに横たわっている。

 エルフ女が回復魔術で治療していた。


「おや」


 ソファとは反対側に立つマイケルに注目する。

 彼は壁に手をつき、肩を上下させていた。

 かなり荒い呼吸なのが分かる。

 まるで全力疾走の直後のようだ。

 既に限界が近付きつつある。

 非常にいいペースだ。


 時間停止は万能ではない。

 彼の立ち回りからしてそれは明白だった。

 不意の攻撃にめっぽう弱いのだ。


 先ほどから仲間達を守れていないのが何よりの証拠である。

 咄嗟の発動が間に合っていない。

 結果、後手に回り続ける。


「…………」


 俺はスイッチを押す。

 何も起きない。

 床下の爆弾が作動するはずなのだが、室内の様子に変化はない。

 念のために何度か押し直すも、結果は同じだった。


 爆弾の動作不良ではない。

 そこで部屋の端に転がる物体に気付く。

 破壊された爆弾であった。

 部品がバラバラにされている。

 あれでは起爆できない。


 ほぼ間違いなくマイケルの仕業だろう。

 時間停止中に床下の爆弾を発見して解除したのだ。

 ついでに部屋に仲間を運び込んだに違いない。


 どちらも数秒でやれることではない。

 それなりの時間を止めている。

 マイケルが疲弊しているのはそのためだ。

 同行する仲間を助けるため、無理をしてでも安全地帯を作りたかったのだろう。


「よくやるよ、まったく……」


 俺は呆れてため息を洩らす。


 その甘さが命取りだった。

 狙撃時のように、仲間を置き去りにすればよかったのだ。

 そうすれば安全に進めていた。

 マイケルがあれだけ消耗することはない。

 足手まといになる仲間をエリア内に連れてきている時点で間違いであった。


(まあ、そういう性格の男と知っていたから、この作戦を採用したわけだが……)


 マイケルに必要なのは、仲間との連携ではない。

 私情に流されず、最大効率で目的を遂行する意志である。


 時間停止などという反則技を使えるのだ。

 やり方次第では、俺を簡単に殺すことができる。

 もっとも、召喚前まではただの素人なのだ。

 そこまで要求するのは酷と言えよう。


 思考を打ち止めた俺は、淡々とアリスに指示をする。


「ゴーレム部隊を送ってくれ。待ちに待ったバースデーパーティーのように、彼らを盛大に歓迎してやるんだ」


「了解、任せて」


 頷いたアリスは屋外に待機させたゴーレムを操作する。

 すぐに十体ほどのゴーレムがマイケル達のもとへ急行していった。

 到着まで二十秒くらいか。

 彼らが出発するまでには間に合いそうだ。


 ゴーレムのストックはまだ大量に用意している。

 一体ごとの戦闘能力は知れているが、銃器や爆弾を内蔵している。

 捨て身でぶつけた際の有用性は高い。

 休息のたびに派遣してやろう。

 きっと喜んでくれるはずだ。


「さて、ここからどうする? 仲間との絆を見せてくれよ」


 俺は画面の中のマイケルに語りかける。

 ここまではほんの小手調べだ。

 ゲームのチュートリアルみたいなものである。


 まだまだ俺達の居場所までは遠い。

 本番はここからであった。

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